シンギュラリティ
「さあ、最期に君に聞きたいことがある。」
地平の果てまで永遠に真っ暗な部屋、灯りもないのに自分の周りは怪しくぼんやりと光っているような気がする。光と言うには少し違うような気がした。便宜上光っていると言うしかないのだろう。
自分の目の前には、ただただ真っ黒な人。何の比喩もなく黒い。
昔やったゲームの登場人物のように、平面で黒塗り。それだけで不審な人影であるが、なおかつ視界にノイズが掛かっているがために目の前の人影が男かも女かも理解することが出来ない。
声も高低が安定しなく、自分の心には恐怖心と警戒心が募る。
自分は、『何を聞くんですか?』と尋ねる。
人影がニヤリと笑ったような気がした。
「君の目の前には二つの選択肢がある。」
人影がそう言うと、虚空から唐突に二枚のカードが現れた。
人影は指をさし、説明を始める。
「君の右には"天国"、左には"地獄"。君はこれを選ぶだけの簡単なものだ。」
人影の指した右のカードには、雲上の世界。
だれもがパッと思い浮かぶような、空はどこまでも真っ青で誰もかれも幸せそうな人々が描かれ、彼らの背中には皆真っ白の翼が生えていた。
それはまさに、天国のようだ。
人影の指した左のカードには、地の底の底の世界。
これもやはり想像しやすく、空はどこまでも真っ暗で苦痛に歪めた表情で、針に刺され、釜で煮られ様々な方法で痛めつけられてた人々が描かれ、彼らの身体には皆真っ赤な血が流れていた。
それはまさに、地獄のようだ。
「ゲームは君と君の相方が行う。先ほどの通り、君がやることは二枚のカードのどちらかを選ぶだけ。別の場所では、君の相方が同様にカードを選んでいる。」
相方。そうだ。自分には相方が居たのだった。先程から心の何かが足りなかったのは、その相方が居ないからだ。
自分が死ぬ瞬間までこの手を握って握り返してくれていた、魂まで一緒にした相方だ。
「出目は四パターン。
君が天国、相方が天国。
君が天国、相方が地獄。
君が地獄、相方が天国。
君が地獄、相方が地獄。
君たちが選んだカードが同じならば、二人とも地獄へ。
君が天国で、相方が地獄ならば、君は天国へ行き、相方は地獄へ行く。
君が地獄で、相方は天国ならば、君は地獄へ行き、相方は天国へ行く。
当然、お互いの相談はなし。
ね、簡単でしょう?」
なるほど、どうやっても二人仲良く天国へ行くことは出来ないようだ。結末を考えると確かに当たり前ではあるのだけども。
この人影が言いたい事は、自分を犠牲にして相方を天国へ行かせるのか、相方の犠牲を伴って自分が天国に行くのか。
そして、お互いを助け合ったり、お互い蹴落とし合うと、二人で死して尚、この地獄のカードの人々のように、身体の芯まで痛みを染みこませるのだろう。
死んでも、痛みに晒されるのは死んでも嫌だ。きっとそれは相方も同じ気持ちだろう。魂まで一緒にしたからといって、今までと変わらないと言うのならば死んだ意味がない。
自分たちは痛みから逃げてきたのだから。
「シンキングタイムは十秒。」
人影がそう言うのを聞いて、自分は『待って。』と止める。
自分は、『既に答えは決まっている。そんな時間は必要ない。』と続けた。
人影が頷いたような仕草をし、「分かりました。」と応えた。
「では、カードを選んでください。」
自分は小さく息を吐くと、カードを見据えた。もう心は決まっている。
自分の選ぶカードは………………
初投稿です。
ゆったりと頑張っていけたらなと思ってます。