序章 サンタ人生について悩み、そして拾う
むかしむかしとは言ってもほんのちょっとむかしのある所にサンタと人の言葉を話す二足歩行のトナカイが居ました。
トナカイは山へ野生の血を失わないために狩りに出かけ、サンタは副業の機械技師の仕事が一段落したため川へ自分の人生について考えるために出かけに行きました。
サンタは一人ゆっくりと流れていく川を見つめながら思います。
「私の人生とは一体なんだろう」
普段は機械技師として懸命に働き、働いた後は家で待っている二足歩行のトナカイと同居生活。十二月になれば半強制的にサンタ協会からグリーンランドに連行され、そこからはクリスマスイブまで空飛ぶソリの訓練に伴い相方のトナカイとの連携の確認、さらにはサンタを狙う組織から対抗するための戦闘訓練、サンタとしての心構えから法律等の講習会、悪い妖怪等を見つけた時の対処の仕方などを学んだりと休み無しでたくさんのことを行います。
そしてイブが終われば、解放とは行かずにイブでの事後処理にイブでの総括が数日行われ、それが終わったら最後に行きたくもないサンタだらけの忘年会をやって解散となっています。
しかしサンタがやらないといけないことはまだ終わりません。家に帰ったら一か月分の溜まった副業の仕事をこなさないといけません。サンタは妙に生真面目で大晦日から三が日まで懸命に仕事をやり、ようやく今日解放されました。しかしサンタの気持ちは晴れません。
ここまで懸命に働いた所で果たして最後に何があるんだと。サンタには自分の子が居ません。奥さんも十年も前に亡くなりました。サンタに残ったのは二メートル近い二足歩行のトナカイだけ。それでは自分は自分自身とトナカイのためにだけ働いているのかと考えました。一度そう考えれば自分とトナカイのためだけに働くなら何もサンタのような過酷の仕事ではなくてもいいのではないかと思いが沸々と湧いて来ます。
「引退しようかなぁ」
ついにその言葉を口に出してしまいました。もうサンタにはサンタとしてやっていくモチベーションが消えかかっていました。それに老後にトナカイと生きていくためだけの貯蓄ならあるのでお金にも困らないみたいです。
「帰ろう……」
サンタは帰ってトナカイに今後について相談しようと決め、トボトボと帰路につきます。そんな帰り道、サンタはふと足を止めます。ある光景が目に入ったのです。一瞬嘘ではないかと考え、ゆっくりと目を瞑って大きく深呼吸。そして目を凝らし、再びその光景をサンタの大きな瞳で確認します。
「…………」
サンタは言葉が出ません。そんな時サンタの後ろから能天気で大きな声が聞こえてきます。
「おーい爺さん。なーに突っ立ってんだよ?」
サンタに声をかけたのはサンタの相棒であり、家族でもあるトナカイです。
「いやその……」
サンタは言葉に詰まって、上手く説明できません。そんなサンタを怪訝に思ったのかトナカイは狩ってきた熊とイノシシを抱えながらサンタの傍まで行きます。そこでトナカイもサンタが言葉に詰まっている理由を目にしてしまいします。
「……オウ」
トナカイは驚きの声をあげます。サンタはこの状況を理解するためにその光景の中心へとゆっくりと近づき、そっとと触れます。
「……まだ生きてる」
心底安心した声をあげながらもまだ頭の中はパニックです。
「まさかこんなとこで子供が倒れているなんて」
そう。サンタとトナカイの目の前では小さな子供がボロボロの服と痩せこけた体で倒れていたのです。
これがサンタとトナカイ、そしてサトルくんとの出会いでした。