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#07

10303号室にはこの部屋の住人である里崎と代田に加えて、美月と坊坂がいた。美月は代田の椅子を譲られて座っており、その代田は里崎の机に半分腰を掛けていて、里崎は自分の椅子に座っている。坊坂は最初、里崎の席を(すす)められたのだが断って、立ったままでいた。

武道場での一件のあと、美月は里崎と寮に戻り、化粧品の仕分けを済ませた。部屋から離れるときに里崎から、夕食後に坊坂と部屋に来てくれと頼まれた。寮に戻る道すがらからずっとそうだったが、その深刻な装いに、美月は二つ返事で了承すると、部活、というより、事件について顧問への報告と、現場の掃除を終えた坊坂にも伝え、時間を取ってもらい、ここに至った。

「今日の件だが」代田が、言い(ずら)そうに口を開いた。「恐らく、うちのクラス、というか一年から三年までの三組の、一部の連中(、、、、、)、が(はか)った」

一部の連中、のところを強調していた。里崎の様子から、何となく三組の面子が関わっているのではないかと予想していた美月は、特に驚くこともなく、坊坂も想像のうちであったらしく、黙って続きの言葉を待っていた。代田と里崎は、少しの間美月と坊坂の反応を伺う様子だったが、二人とも無言なのを見て、顔を見合わせた後、坊坂に向けて、書道の後片付け中に里崎が美月に言った内容…三年三組の戸辺山田飛優(ひゆう)が学院祭で勝つために暴走していること…を話した。

「三組の奴が色々と小細工をしてきているのは知っている。倉瀬が言っていた」

坊坂が無感動に言った。代田と里崎は、少し眉を上げると、もの言いたげな視線を坊坂に送った。坊坂は静かに言葉を続けた。

「倉瀬が、一年三組のある生徒から棒倒しで共闘、つまり初めに一組を二組と三組で倒す、という案を持ちかけられたんだそうだ。そういう作戦自体はありだと思うが、倉瀬いわく、話しを持って来たのが実行委員でも組委員でもない奴で、里崎か実行委員に確認すると言ったら、慌てていたそうだ。それで、どうもおかしなのがいると、午前中、俺に伝えに来た。ちなみにその案を受けるかどうか、態度は保留にしてあるそうだ」

代田と里崎は顔を見合わせると、代田が坊坂に尋ねた。

「その、案を持ちかけた奴は、誰だか、知っているか?」

坊坂は首を横に振った。

「倉瀬は言わなかった」

里崎が深く溜め息を()いた。代田は苛立った表情で腕を組み、足を組み替えた。

「ただ今日の、久井本部長へのあんな嫌がらせは理解が出来ない。意味が無いだろう」

嫌がらせというものは、相手を困らせ、不快にさせ、やる気を削ぐことを目的にしているわけだが、美月が見ていた限りでは、久井本は自分にされたことより犯人扱いされた美月のことを気にしていた。そういうひとが簡単に士気低下や戦意喪失するとは思えず、周りの特に二年生に至っては、逆に(ふる)い立っていた。

「それなんだけど、多分、本当に狙った相手は須賀だと思うんだ」

「はい?」代田に言われ、美月は不思議そうな顔になった。「何で?俺、出ないよ」

「…須賀、学院祭の要項、ちゃんと読んでいないだろう」

坊坂が冷ややかな視線を送ってきた。里崎が学院祭の要項と、体育祭部門の得点表を渡してくれた。要項の、『女装アイドル総選挙』の項目に、得点割当が記載されている。得票数一位で得られる十五点が、バスケットボールやドッジボール、綱引きと言った総当たりで戦う集団競技で二勝するより高い点数だと初めて知って、美月は戦慄した。

「何でこんなに高いんだよ。おかしいだろ、色々と」

美月が思わず漏らした独り言には、誰も反応しなかった。

「組対抗戦での勝利を重要視するなら、自分の組で出ている奴に投票する。でも久井本部長相手に何かやらかしたなら、二年の一組どころか、うちの連中からだって総好(そうす)かんを食らうからな。須賀を(おとしい)れるというのは、目の付け所として間違ってはいない。…あの、目撃者の高橋って先輩は仕込みだと?」

坊坂が問い掛けると、里崎がうなずいて答えた。

「二年三組の生徒だよ。というか、あのとき体育館でバスケの練習していたのが二年三組の、体育祭でバスケに出場するひとたち。二年の三組全体が、長いものに巻かれていると考えてもらえれば」

「あれ、だとすると俺、里崎と一緒じゃなかったら、かなり危なかった?」

美月がつぶやきを漏らした。いわゆるアリバイの証人が一組の生徒であれば、高橋は強固に見たのが美月だと言い張った可能性が高かった。実際には三組の組委員の里崎だったので、どう対応して良いか迷った末に、態度がおかしくなってしまったと考えれば、美月は幸運に恵まれていたと言える。

「そうだな。いや、でも、久井本先輩の血筋を知らなかったわけだから、その点で理解してもらえたかもしれない」

代田が考えを巡らせつつ言った。外野の反応を見るに、生徒の大半、宗派が異なる代田や里崎でも知っていたことのようなので、美月が知らないという可能性に考え付かなかったのだろう。

「そういうわけだから、須賀がこれからも何か仕掛けられる可能性がある。わざわざ外から脱毛剤を持ち込んで事を起こすような奴が毛根を焼かれても、自業自得だ。けれど、うちのクラスまで連帯責任を取らされることは御免(ごめん)(こうむ)る。だから話した。久井本先輩にも、犯人が三組の奴らしいってことは、伝えてくれて構わない」

「分かった、気を付ける。久井本部長にも伝えておく」

代田の言葉に、坊坂が深くうなずいた。

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