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五章 再会

五章 再会


「エド……」

 どこに行ったんだろう? 

 何でいなくなったんだろう? 

 誰かに連れ去られたのかな。

 連れ去るとしても誰がこの付近にいた? 

門番さんくらいしかいなかったよね。

もしかして、門番さん? 

 多分それは無いと思う。

 いやでも、優しさの門番さんは、自分のしたいようにやってたし。

 ここの門番さんも、なにかの理由でこんなことやってるのかもしれない。

 それに、門番さんを門番さんだと思わずに見てたし……。

 それで怒ったのかも。

 ここの門番さん性格かなり悪そうだったし。

 確かめてみないと。

 アタシは、急いで門番さんの所へ走った。


「あの? 門番さん?」

 小さな門番さんがアタシを見た。

「なに?」

「エド……ウサギのぬいぐるみの案内人見かけませんでした?」

 門番さんは、何か考えるように中空に目を泳がせた。

「君と一緒にいた、案内人?」

 アタシがうなずくと

「見てないなあ」

 と答えた。

「エドをどこかへ連れてったりしてないですよね?」

「何で俺がそんなことをしないといけないんだ?」

 小さな門番は、目を吊り上げて言う。

「アタシが門番さんの事を、門の受け付けを待ってる人と勘違いしちゃったから、それで怒って……」

 門番は大きく溜息をついた。

「いつもの事だよ。俺が門番じゃ無いと思われるのは。それを説明するのが邪魔くさいなあと思ってるだけ」

 門番はアタシをじっと見る。

「君の大切な案内人は見てないよ。もしここで見かけたら、後を追いかけるように言っておくから」

 どうしよう。

 エドを探さないと。

 まだ近くにいるかもしれないし。

 探そう。

 とにかく、エドを探さないと……。


 アタシは、エドをオアシス中捜した。

 でも、どこにもいなかった。

 エドがいそうな場所なんて思いつきもしない。

 エドって、どういう所が好きなんろ? 

 エドって、何物なんだろう? 

 アタシの案内人? 

 アタシのためだけの案内人? 

 もしかして、他の人の案内に行ったとか? 

 そんなこと、全然言わなかったのに。

 何度となくそんな言場が頭の中で繰り返される。

 何か疲れたな、あそこの木陰で少し休もう……

 アタシは近くにあった木陰に座りこむ。

 座り込んだ瞬間、ガサッ、と言う音が聞こえた。

 何だろう?

 音のした方を見ると時計が落ちていた。

 ゆっくりとその時計を拾い上げて時間を見る。

 時計は六時を示していた。

 もういいや。疲れた。

 ここで、ずっとエドを待とう。

 そうすればエドが迎えにきてくれるはず。

 ベッドの前でアタシを待ってくれてたように。

 門を出たあたしを迎えてくれたように。

 きっと、アタシを迎えに来てくれるはず。

 アタシの体が少し薄くなっていくのが分かる。

 アタシも、あの人みたいになるのかな? 

 このまま薄れていって……。

 砂漠で出会った男の人みたいに消えてしまうのかな。

消えたら何も考えなくて楽なんだろうな。

もういいや。

 このまま消えちゃおうかな。


『なんで!  もういいなんて言って、疲れた顔して……消えちゃうんだよ!』

 そうだ自分で言ったんじゃないか! 

 人に言って自分では行動しないのか?

 しっかりしろ! 

 まだ何もしてないだろ! 

 アタシはまだ消えたくない。

 まだエドに、いってきますって言ったきり、ただいまって言ってないし。

 お父さんやお母さんにもう一度会いたいし。

 自分がどんな奴だったかまだほとんど分かってないし!

 アタシは、まだ消える事はできない!   

 動かないと! 

 動かないと!


 もう一度だけ光の門にエドがいないか確認しに行った時のことだった。

「あっ帰ってきたんだ。さっき出て行くときに声かけたんだけど、全然気づいてないみたいだったな」

「そうなの?」

 そういえば、アタシを呼んでいたような気もする。

「まあ、それはそうとして、そこの板に探し人として案内人の事を書いておけば、お前の探してる案内人もきっと見つかるはずだ」

 門番が指差した板は、モニターになってあり、その前にはペンのようなものがある。

 モニターの中には、何人かの顔写真とメッセージが掲載されていた。

「モニターの左上にある四角形のボタン押してごらん」

 あたしは、言われるままにボタンを指で押す。

 何の変化もない。

「指じゃなくて、ペンで……」

 むすっとした口調で門番が言う。

 アタシは、モニター前に置いてあったペンを取るともう一度男の子が言っていた場所を押す。

 モニター上の写真は消え、記入欄らしきものが表示された。

「そこに、書き込めばどの門からでも見れるようになってるから」

 アタシはペンを持って重大な事に気がついた。

「あの、この世界の文字知らないんですが」

 そう言うと、門番は邪魔くさそうに受付から出てくる。

 そしてアタシからペンを奪った。

「名前は?」

「エド」

「君の名前は?」

「幸」

「エド君の特徴は?」

「耳の長い、ウサギ型のぬいぐるみ。スーツを着てるのが印象的」

 なんか、警察の尋問を受けてるような気分になってきた。

 この門番さんもう少し、柔らかい物腰で話せないのだろうか?

「じゃあ、エド君に何かメッセージは?」

「アタシが探してるって書いて下さい。それから時間が無いので、先に進みますって事もお願いします」

「OK」

「ありがとう」

 アタシは門番さんにお礼を言うと、門番さんは、

「これも、仕事のうちです。お気をつけて、」

 と丁寧にアタシを見送ってくれた。

 ここの門番さんてマニュアル的な所だけ妙に丁寧だったな。

 そんな事を考えながら、アタシは駅に向かって歩き始めた。


 ピラミッドの駅に戻り、駅員さんに地図を見せて降りる駅を尋ねた所、快く降りる駅を教えてくれた。

 十分後に来る一番線の電車に乗って、最後から二番目の駅にアタシの目指す門の駅があるらしい。

 駅の名は『雫』。カギに装飾されている絵と全く同じ絵で表記されている。

 電車はエドが全部やってくれると思っていたので、電車の中で教えてくれた降りるべき駅の事は適当に聞いていた。

 まさか、一人で乗るなんて思いもしなかった。

 長イスから出た足をぶらぶらと動かしてみる。

 駅の中に足音が響いた。

「エド?」

 改札口を眺める。

 ラクダの駅員さんが掃除をしていた。

 それにしても、エドっていったい何なのだろう? 

 案内人? 案内人ていったい何? 

 何で急にいなくなったんだろう? 

 何でこんなに不安になるんだろう? 

 一緒にいたときは不安にならなかったのに。

 そういえば、エド体が透けた事あったよね。

 もしかして、それと同じ理由でエドは消えたのかな? 

『消えたんだよ』

『彼が彼である理由が無くなったからね』

 エドがオアシスで言った言葉が頭の中で何度も繰り返した。


「まもなく一番線に伝説行き電車が参ります。お乗りの方は、白線の内側でお待ち下さい」

 手に持った時計を見る、残り時間が六時間を示していた。

 タタタタタタタ ポ―――! 

 動物の走る音と汽笛が響く。

 数秒後、目の前には犬とも猫とも思えない動物形の電車が駅に止まった。

 エド来て無いよね。

 エドが来ていないか駅のホームを見渡す。

 そこにはラクダの駅員さんしかいなかった。

 カシャ――ッ。動物の体の一部がドアのように滑らかに開く。

「仕方ない……」

 アタシは電車の中へ一歩入った。


 電車の中は、対面式の座席になっており、床、天井、座席、全てが柔らかそうな毛で覆われていた。

 この上で寝たら、一生起きることはできないだろうと思わせるほどふかふかだ。

 そんな中をアタシは誰も座っていない席を探しながら移動していた。

 なかなか開いてる席ないな。

 座席に座っている人は時計を気にしながらも、案内人と楽しそうに会話をしている。

 女の人とチラッと目が合った。

 その直後目をそらされる。

 その女の人は、隣の案内人に何かを聞いているようだ。

 きっと、アタシに案内人がいないのが気になるのだろう。

 仕方がないのでそのまま、隣の列車へと移動する。

移動した先の列車は、人が少なかった。

アタシはその中から誰も座っていない席を探した。

 ここで良いかな。

 そう思いその席に座る。

 窓の外を眺めてみた。

 時間が経過するにつけて風景が変わって行く。

 さっきまで砂漠だった景色は、植物が生え、緑になり大きな川へと変わった。

「まもなく川中~川中でございます。お忘れ物の無いようご注意下さい」

 川の中央で止まり、その駅で何人かが降りたようだ。

 そして、また動き出す。

 風景が変わり駅に着く度に人が減って行く。

 隣のシートに座っていた女性も席を立ち駅に降りた。

「人が減ったね」

 誰も答えてくれないのでただの独り言になってしまう。

 小さな溜息が出た。

 まだ駅につかないのかな? 

 座席を立って、ドア付近にある路線図に目を向けるが、文字が読めないのでよく分からない。

 今さっき着いた駅がどれになるのかすら想像つかない。

 はぁ、こんな事ならラクダの駅員さんに路線図を使って教えてもらっておけば良かった。

 仕方が無い、もう一度座席に戻ろう。

 もう一度、外を見る。

 また時間と一緒に景色が流れた。

 ポケットから時計を取り出す。

 時計は三時三十分を示していた。

「宿命~宿命です。お出口は右側になります」

 雫駅はまだ着かないなのかな。

 もしかして乗る電車間違えた?

 もし間違ってたら、時間が足りなくなるかも……。

 駅員さんはこれに乗るように言ってたけど。

 それとも、もしかしたら、気づかずに通りすぎたとか? 

「はあ……」

 溜息といっしょに、アタシの姿が薄くなった。

 しっかりしないと。

 アタシは、気持ちをしっかりさせるためにほっぺを叩いた。

「前いいかな?」

 イキナリ後ろから声を掛けられた。

 なんで、空いてるのにわざわざアタシの前に座るの? 

 そうは思うものの、否定する理由も無かったので、

「どうぞ」

 と答えた。

 そしてアタシは顔を合わせないように窓の外を覗いた。

「ボクの事覚えてますか?」

 アタシは、窓に反射して映っている彼を見た。

「あれ? えーと、清?」

 アタシは驚いて彼の方を振りかえった。

「それと、プル!」

 清の肩の上にりんごの形をした案内人プルがいた。

「ちゃんと、伝わってたんだ良かった」

「うん」

 アタシを見て彼は不思議そうな顔をした。

「そういえば、エド君は?」

「電車が暇だから、かくれんぼかなにかしてる最中?」

 アタシは静かに首を横に振る。

「って、訳でもなさそうだね」

 と清は答えた。

 アタシは、エドがいなくなるまでの旅の経過を話した。


タタタタタタタタ……

電車の走る音が車内に響く。

「そっか、そんなことがあったんだ」

 清は大きくうなずきアタシの目を見る。

「きっと、エド君とは、また会えるよ!」

「会えるかどうかなんて、分かんないよ!」

 アタシも会いたいとは思ってるけど……

「今は、不安だらけかもしれない、君はボクには分からない気持ちでいっぱいだろうと思う」

 清は何かを思い出すように視線を上に逸らして話した。

 そしてアタシの目をじっと見る。

「けどね、不安ていうのはね、裏返したら希望の一端なんだよ!」

「考えてごらん。君が希望を……エド君を求めてるから不安になるわけで、何も求めないなら不安になるはずがないんだ!」

「でも、君は今行動している。不安になって当たり前なんだよ!」

「ちょっと偉そうだったかな?」

 清は頭をかきながら笑う。

 それでも、目は真剣だった。

「しっかりと二人共が会いたいって思って行動に移したら、もう一度会えるよ!」

タタタタタタタ……

電車がトンネルの中を走る音が響く。

「それで、これからどこへ行くつもり?」

「えーっと、雫の駅で降りる予定」

「雫の駅か、それじゃあ、ボクとは違う駅で降りる事になるんだね」

 清が言った。

「ボクは、羽駅に行く予定なんだ」

 その直後プルが横から口を挟んできた。

「私達は、幸さんのひとつ手前の駅で降りるんですよ」

 それじゃあ、やっぱりこの路線で正解だったんだ。

 ありがとう! ラクダの駅員さん。


 その後、しばらくの間清のこれまでの経過を話した。

 清は、至って普通の社会人だったらしい。

ある日、偶然通りかかった公園で殺人現場に遭遇した。

その時、犯人は自分の姿を見られたと思って清を襲った。

 それから逃げようとしたときに何かの理由で死にかけているらしい。

 アタシが犯人のことを恨んでないのか?って聞いたら、襲って来た相手を恨むよりも、、もう一度、娘に会いたいと言った。

「まもなく、羽~羽でございます。お出口は左側になります。お降りの際は、電車との隙間にご注意ください」

 車内アナウンスが鳴り響いた。

「それじゃ、この駅で降りるから」

 清はそう言うと、席を立ちアタシに手を振った。

 アタシは清に向かって手を振り返した。


 また、一人になっちゃった。

 清の言葉が頭の中で繰り返される。

「今は、不安だらけかもしれない、ボクには分からない事で、いっぱいかもしれない。けどね、不安ていうのは、裏返したら希望や夢の一端なんだよ! しっかりと会いたいって思っていれば、もう一度エド君と会えるよ!」

タタタタタタタ……

電車の走る音が車内に響く。

 不安か……そう言えば、どこかで同じように不安を感じた事があるな。

 どこで感じたんだっけ? 

 うーん。

 そうか! 受験だ。

 あの時に似てたんだ。

 これで間違い無いのか? とか思って同じ問題の解答を何度も見たり。

 いくら勉強しても、試験の前日に眠れなかったり。

 何で勉強なんてしないといけないんだ? と思ったり。

 けど、しっかりと目的意識があったから。

 そこに行けば、もう一度会えるって思ってたから……。

「ご乗車ありがとう御座います。まもなく、雫~雫でございます。出口は右側になっております」

 アタシは車内アナウンスで我に返った。

 もう一度会えるよ!

 エドだってそう思ってるはず!

 目的を持つことが、この世界での生存方法なのだから。

 そう思いアタシは電車を降りた。





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