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一章 準備

一章 準備


 ぬいぐるみの名前は、エドと言って、アタシの案内人をしてくれるらしい。

 彼の名前を聞いた後、アタシ達は部屋から出た。

 外はまったく見覚えのない不思議な世界だった。

 まず目に入ったのが花だ。

 花がニコニコと嬉しそうに笑っていた。

 驚いたまま顔をあげると、山にも顔がついていた。

 しかもその手にはキセルを持ってあり、美味しそうにタバコを吸っている。

そして山がタバコの煙を吐き出すと、それが雲となって空を泳いでいく。

その雲を追いかけていくと、空に浮かんだ大地にぶっかった。

「なんとも、変な世界だ」

「変かなあ。ここでは当たり前の事なんだけどな」

 アタシの疑問にエドは首をかしげながら答えてくれた。

「まあ、君達がいた世界とは違うかもしれないけど……」

 とりあえずこの世界が限りなく変な世界だというのは良くわかった。

「で、どこに行くの?」

「始まりの門だよ」

「始まりの門?」

 門にもやっぱり顔がついてたりするんだろうか? 

「うん、始まりの門。名前を思い出すための門だよ」

 エドは、得意そうに腕を組みながら言った。

「名前を思いだすための門か。という事は、住所を思い出す門とか、家族を思いだす門とかあるの?」

「うん。そんな感じでいろんな門があるんだ!」

「ただし、始まりの門以外は、人によって目的地が変わるんだ」

 なんで、人によって目的地が変わるんだ?

「人によって忘れてしまった大切な物が違ってくるから、その目的に合った門を見つけないといけないんだ」

うーん。そうか、それじゃあ人の後を追いかけたら良いって訳でもないんだ。

邪魔くさいなあ。

「まあ、とにかく門へ行こうじゃないか」

 そしてアタシ達の不思議な旅は始まった。


「どこまで歩けばいいの?」

 足を止めて道の先をじっと見る。

 目の前には谷があり、その間を蛇を思わせるような長いウネウネした道が続いていた。

「あそこに見える門までだよ」

 エドが指した方向には天にも届きそうなほど大きな崖があった。

 崖には十階建てのビルほどの建物と、数えきれないほどの小さな建造物がある。

「どこに門があるの?」

「あそこだよ!ほら」

 どこにあるんだ?

「あれ? 君の住んでいた世界には、門が無かったの? かなり原始的だったんだね」

 エドは体全体で含み笑いをしたような動きをする。

 その姿がちょっとムカツク。

「あそこ、あそこ」 

 エドは、もう一度指差した。

 エドの指差した場所を目で追いかける。

 その先には十回建てくらいの大きな建物があった。

「もしかして、あの大きな建物?」

 あれが門?誰かが生活するための家じゃなくて?

アタシは足を止めてその巨大な門を見た。

ハハハ…。アタシは民家を囲むくらいの小さな門扉の事だと思っていた。

「そう言えば、門に行くって言ってるけど、具体的には門で何をすればいいの? 今ひとつ分かんないんだけど」

 エドは手を口元に持っていく。

 何かを思い出そうとしているのだろうか? 

「確か、門をくぐると君の大切な記憶が落ちてるらしいんだ」

 記憶が落ちてる?

「どんな風に落ちてるの?」

「ボク自身は体験したことは無いんだけど、なんでも光の中に記憶が残ってるんだって」

 光の中に記憶があるんだ。……って光ってまぶしくて見えないんじゃないか? 

 うーん謎だ。

「それから、中を見る時に注意して辺りを見ないといけないんだって。何でもあっという間に時間が過ぎるらしいから」

「へえー」

 アタシは、想像を絶する世界に、ただ生返事をすることしかできなかった。


 そのまましばらく道に沿って歩いていると、道いっぱいの人の行列が見えてきた。

「何なのこの行列?」

「門待ちの人だよ」

 エドがすかさず答える。

「もしかしてずーっと先までいるの?」

「もちろん」

 予想どおりの答えが返ってきた。

 はあ、結構時間がかかりそうだなあ。

「そう言えば、みんな変なペットが横についてるね。あれってエドの友達?」

 アタシ達は話しながら、列の最後尾に並んだ。

「うーん。仕事仲間っていうのかな。皆案内人だよ。この世界に来た人達は、ほぼ全員にボクみたいな案内人がつくんだ」

アタシはきょろきょろとあたりを見渡した。

犬、猫、ロボット、車、多種多様な案内人がいる。

「何でこんなに色々な種類の案内人がいるの?」

「うーん。何でだろ? そのあたりの事は分かんないや」

 まだまだ門までは、かかりそうだな。

 アタシは、キョロキョロと辺りを見渡す。

 おっ、あれも案内人なのかな? 

「あのスイマセン。もしかして、それ案内人ですか?」

 隣にいた若そうな男の手のひらを指差す。

 男は、手のひらに乗っていたリンゴをぱっと見る。

 リンゴにはマジックで描かれたような顔があった。

「えっ? ああ。この子はぼくの案内人のプルだよ」

 プルは男の手のひらの上を器用に何度も飛び跳ねて回転し、アタシの方を向いてきた。

「はじめまして、プルです。この方の案内人をしています。それで貴方様はどちら様でしょうか?」

 プルが、落書きのような口を開けて話し掛けてくる。

「えっ? アタシの名前は……」

「プル君、ここに並んでる時点で名前を覚えてないって考えたりしないわけ?」

 エドが下から見上げて怒っている姿が妙にこっけいだ。

「そういえばそうですよね。私もこの方の名前を探しに来たわけですから」

 ぬいぐるみの言葉に、落書きのような口で照れ笑いをするリンゴの置物。

 人形劇を見ているような気分になる。

「やっぱり貴方も全ての記憶を無くしちゃったんですね」

「ええ。まあそう言う事です」

 彼はそう答えて微笑んだ。

 そしてアタシをジーッと見ている。

 うーん何話せば良いんだろ?

 話し掛けたのはアタシだし……。

 名前は聞いても意味無いし。

 どこから来たのって聞いてもわかんないだろうし。

 うーーん。

「そういえば、所々で案内人がいない方を見かけたんですが、あれはどういう事なんでしょうか」

 彼の方から話してくれた。 これで、何とか話は続きそうだ。

「えっ? そうなの」

 彼は、ほらと言うように目くばせをした。

 視線を追いかけると、キョロキョロと不安そうに歩いている壮年の男がいた。

 そして、男の傍らには、案内人らしき人は誰もいなかった。

男はキョロキョロすると、なぜか足を止める。

その瞬間男の体が透けて見えた。

「えっ?」

 目をこすってもう一度見る。

 男は全く透けていなかった。 

「さっき、あの人一瞬透けてなかった?」

「……やっぱりそう思う? ぼくの見間違いじゃなかったんだ」

隣にいた彼は同意してくれた。

きっと、今までに何度か見たのだろう。

「ああ、あれですね」

 不意に足元から声が聞こえる。エドだ。

「えーっとですね。説明していなかったんですが、心が不安定になった時に体を構成するものがなくなっちゃうんですよ」

 ……? いったいどういうこと? 

「彼らは、ボク達みたな案内人がいないので状況をまったく理解できてないんだよ」

「すると、ここはどこで自分が誰なのか? 何をすればいいのか、さっぱり分からなくなる」

 エドは指を立てて話し始める。

「自分をこの世界に繋ぎ留めることができないから、存在事態が薄れてしまうんだ。因みにもっともっと不安になれば、その人は、存在が消えてしまうよ」

 消えてしまうって……怖いなあ。

「じゃあ? なんで、案内人がいる人は薄れないんですか?」

 隣の彼は、アタシが考えていた疑問と同じ疑問をもっていた。

「それはですね、ここにいる人達は、とりあえずの目的が存在してますよね?」

「目的? というと……?」

 アタシはエドに聞いた。

「……はあ。これで体が薄れないのだからある意味君はすごいよ」

 エドは体全体を使って溜息をつく。

「今、目的持ってるじゃないですか?  名前を取り戻すって目的を」

「あっそうか」

 確かに名前を取り戻すって目的はあるよね。

「それじゃ、あの人もその事を教えたら消えちゃうって事はなくなるのかな?」

 誰でも、存在が消えてなくなってしまうのは嫌だろう。

「ええ、まあそういうことなんですけどね。でも、話を信じてもらえるのかどうかはわかりませんよ」

「うん。でも気になるから行ってくるよ!」

 そしてアタシは、壮年の男の元へ走りよってみた。


 壮年の男にこの世界の事を説明した後、アタシはエドの元へ戻りプル達と弾まない会話をしながら進んだ。

「へーーこれが、言ってた門なんだ」

 アタシは首を大きく上げながらその建物を見た。

 その門は三階建ての木造建物のようだ。

 一階から二階までの高さは二十メートル位で、その上の六メートルほどの間に二階三階が作られている。

 そして開かれたままの門は、黒い色をした金属のようなもので作られており、どっしりとしていた。

「まあ、これはシンボルみたいなものだから。実際に君が入る門はもっと小さいよ」

「へ?……これに入るんじゃないの?」

「どんな門かは見てのお楽しみということで」

「それじゃあ、ボクはここで待ってるから受付に行ってきてね」

 エドは、門の横にある受付のような場所を指差した。

 その受付には二十人ほどが並んでいた。

 アタシと隣にいたプルが案内していた男は受付へと向かう。

「これで、やっと名前が思い出せるんだね」

 プルが案内している人が言った。

「そうだね、これで君の事を名前で呼べそうだ。名前で呼べないと『プルが案内してる人』という長い名前になっちゃうからね」

 アタシと隣にいたプルが案内いている人は、軽く微笑んだ。


「次のお客様どうぞ!」

 受付嬢の声が聞こえる。

 アタシの番だ。

 アタシは受付嬢の前へと行く。

「いらっしゃいませ。当門のご利用方法はご存知でしょうか?」

 利用方法を知っている人がいるのだろうか?

「えと、わかりません」

 受付嬢は首を軽く縦に振った。

「かしこまりました、当門では、各個人さま向けに門を開いております。こちらの門ではお客様の記憶を戻すために、ほんの一瞬元いた現実世界を覗く事ができます。覗いた世界からお客様の大切な記憶をお探しください」

「また、当門はそれほど危険ではありませんので、九割以上の方が戻って来られてます。ですので、ご安心ください」

 言い終えると受付嬢は微笑んだ。

「戻って来ない人もいるって事?」

「そうですね。戻って来れなくても当門は責任はもてませんが……。なんと言ってもお客様自身が戻ってこれないわけですので、責任の取りようがないというのが事実ですね」

 まあ、保険なんて無いだろうし、もしあったとしても自分が誰なのか分からないので誰に対して保険金を払うことになるのか、さっぱりなわけだろうけど……。

「それじゃ、アタシはどこへ行けばいいのかな?」

「まずは、お客様の製造番号をお調べいたしますので、門を潜って奥にある一番の部屋へお進みください」

 製造番号って……。

 アタシは商品か何かですか。

「はあ、分かりました」

 そう言って、アタシはプルに案内されている人に軽く手を振ってから奥の部屋へと進んでいった。


「へーこんなところで、私の番号が分かるんだ」

 アタシは門の中へ入り、一番の部屋へと入った。

 そこは木造の門の中だとは到底思えないコンクリートでできた部屋だった。

 その中は奥の部屋へ続くと思われる扉と待合用の長イスがあった。

「奥の部屋へお進みください」

 男の人の声が何処からとも無く聞こえる。

 アタシはその声に従い小さな部屋へと入る。

そこは、薄暗くて狭く、正面にはアタシの身長と同じくらいのガラス板があった。

それには、人の形がガラスがかたどられまるでレントゲン写真の機械のようだった。

「それじゃあ、足をそのマークの中へ入れて立ってくれるかな?」

 足元には靴の形をしたマークの上へ立つ。

「はーい。今から撮りますよ! まっすぐに立ってくださいね」

 アタシは背筋を伸ばした、

「はい、チーズ」

 フラッシュが焚かれた瞬間、カシャッというカメラの作動音が響いた。

「はい、終了です。貴方の製造番号が分かるまで、外でしばらくお待ちください」

 言われるままに外に出て、長椅子に座る。

 ははは、レントゲンでアタシの製造番号が分かるなんて……。

 頭痛くなりそう。

 そんなことを考えると、アタシの正面に白衣を来た男の人が立っていた。

「ハイ。出来上がったよ。これが製造番号を記したIDカードで、こっちのが君のカギ」

 テレホンカードサイズのカードと、装飾の施されたカギの束が渡される。

 カードには、梵字のような文字で何か書かれているが全く読むことができない。

「このIDカードの真ん中にある円を押すことで地図が出てきます」

 男の人がボタンを押すと立体的な地図がカードから浮かび上がった。

「それで、点滅してる部分があるよね。ここが君の記憶の門のある場所だ」

 へー。なるほど。そこを目指せば良いのか?

「もう一度ボタンを押すとこの地図は元の形に戻る」

 男がボタンを押すと立体的な地図が元の地図へと戻った。

「それから、このカギは門を開けるためのカギだよ。予備のカギは無いから失わないように気をつけてね」

 男の人はアタシのカギを渡そうとするが一瞬その手を止める。

「あっそうそう、カギの頭の部分に各門を著わした装飾が彫ってあるからそこを見て使ってね」

アタシは、そのカギ束を受け取るとまじまじとカギの装飾をみた。

水の雫の模様、ハートの模様、矢印の模様、手が何かに触れている模様、花火がはじけたような模様、二つの輪が繋がっている模様。

 六種類あった。

「何か質問はあるかな?」

 アタシは首を横に振った。

「それじゃあ、ここを出た後、通路を右手側に行くと、この門の門番がいるから行ってもらえるかな?」 

 アタシは、カードとカギ束をワンピースのポケットにしまうと、言われるがままに奥へと進んでいった。

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