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「話を戻しましょう。で、魔獣ですが、私たちイヌミミやクマミミ同様に犬や熊から進化した獣です。ただし二足歩行で道具や魔法を行使する私たちとは違い、四足歩行のままで獰猛な獣になっています」
「魔法だって!?」
驚く俺に構わず、ラブルが話を続ける。
「はい。私たちは知識の根源である言語を得るため、本来の耳に加えてヒトミミの耳も持っています。これにより高い知識を得て、魔法を行使するようになったと言い伝えられています」
言ってすぐに、長い髪をかき上げて、俺と同じ人間の耳を見せてくれた。それに加えてイヌ耳があるので、四つも耳を持っているということになる。
「それに対して、魔獣は牙や角、それに爪などへ自身の力を集約させて進化しています。なので、先ほどのように力の集約先である牙などを折ると、力を失って消滅するのです」
確かに、先ほどの大きな虎――ディノフェリスは、牙を折られた後に消えてしまった。
「それで、魔法って?」
「幾つか種類があるのですが、先ほど私がディノフェリスの足を封じたものを精霊魔法と言い、大地の精霊の力を借りています」
精霊魔法! まるでファンタジーの世界に来たみたいだ。
「それって、誰にでも使えるのか!?」
「そうですね。魔法とか剣技とかをひっくるめて『スキル』と呼んでいて、向き不向きはありますが、練習すれば誰でも使用できますよ。現に、転生してきたヒトミミが魔法を使って活躍しているという話も聞きますし」
俺の希望は、あっさりと肯定されてしまった。俺もその魔法とやらが使えるのだろうか。だとしたら、是非使いたい。使ってみたい。
ケモミミ美少女に魔法! まさに異世界の醍醐味じゃないか。
「ねぇ、ラブル。このお兄さんを街の冒険者ギルドへ連れて行ってあげたら? 適性や潜在スキルなんかも分かるし。それにボクお腹空いたよー」
「そうね。もしよろしければ、えっと……」
「あぁ、俺は勇樹。勇樹って名前だ。是非、その冒険者ギルドとやらに連れて行ってくれないか」
「えぇ、喜んで。よろしくね、勇樹君」
自分の名前はすんなり出てきたのだが、自分の苗字が思い出せない。どういう理由かはわからないが、二人の言う通り、元の世界の人間関係の記憶だけが無くなってしまっているようだ。
だが助けてもらった身とはいえ、このラブルはどう見ても十代後半から二十歳くらい。二十七歳の俺に君付けはおかしいだろう。
「えっと……一応、俺かなり年上のはずなんだけど」
「えっ!? 私より年上!? 私、二十歳なのですが」
「あ、うん。そうだよね。俺、二十七歳なんだ」
『えぇぇぇぇぇー!』
少女たちが二人揃って、引いている。この世界では、二十七歳は何かいけないのだろうか。
「お、お兄さん。ボクの倍近く生きているの!?」
「えっと、ティディは何歳なのかな?」
「ボクは十五歳」
うむ、妥当だ。一人称が「ボク」なので少し混乱したけれど、控えめに膨らむ胸が少女である事をしっかりと告げている。
「ほ、本当に二十七歳なのですか? 私にはどう見ても十代後半にしか見えないのですが」
「いやいや、十代後半は言い過ぎだよ」
生憎俺は年相応で普通の容姿だ。今までそんなに若く見られた事は無い。
「これでもですか?」
そう言って、ラブルが差し出したのは大きめの手鏡だ。一応確認すると、昔どこかで見たことがある顔が映っている。いつ見たのだろうか、よく見ていた顔なのだが。
「って、鏡!? これが俺!? 何、これって魔法の鏡とかなの!?」
「い、いえ。いたって普通の鏡なのですが」
「えぇぇぇぇぇ!」
鏡に映っているのは、紛れもなく俺の顔なのだが、昔の――高校生くらいの時の顔だった。
「そ、そうだね。十代後半くらいに見えるね」
「で、ですよね」
うおぉぉぉ! 若返り! これは紛れもない転生!
そして、冒険者ギルド! スキル! 間違いなく、異世界チート能力のフラグだろ!
「異世界サイコー!」
「ど、どうしたのですか!? 大丈夫です?」
「すみません、大丈夫です。ちょっと興奮してしまって」
急に大声を出してしまったせいで、ビクッとラブルを驚かせてしまったが、叫ばずにはいられなかった。
何度も転生という単語が出ていたものの半信半疑だったのだが、どうやら俺が転生してしまった事は間違いなさそうだ。
だが、二十七年間生きてきた知識や一部の記憶を持ち、身体は十代という時点で十二分にチートな気がするのだが、異世界転生といえばチートスキルでウハウハなのが定石だ。
まだ自分にどんなスキルがあるかわからないけど、早くその冒険者ギルドへ行って、俺の隠されたスキルを解放するんだ!
チートスキルで大活躍! そしてハーレムを作り、十二分に楽しんだ後、一番可愛い娘と結婚して暖かい家庭を築くんだ!
覚えてないけど、どうせ元の世界では独身で彼女無しとかだったのだろう。せっかく転生したのだから、今度こそ人生を謳歌しないとな。
ラブルとティディ、二人の少女と共に、俺は冒険者ギルドを目指して歩みを進めた。
ご指摘いただき、内容を少し修正いたしました。