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「良かった。本当に良かった」
美玖のスキルでティディが目を覚ましてから十数分が経過したのだが、ティディが倒れたりすることはなかった。
ラブルの見解では、どうやら俺の固有スキル『成長度譲渡』を受け取ると、瞬間的に能力――レベルが上がるようだ。
それにより美玖の『強制召喚』の性能が向上し、ティディの魂を恒久的に呼び出せたのだろうと。
ちなみに、俺のスキルを受け取ったラブルが、試しに「石を操る」土の精霊魔法を使用したところ、街の石畳がほぼ直ってしまったのだ。
「奥様、旦那様。見てください! 私、掃き掃除と拭き掃除が同時に出来ます!」
うん。まぁ和佳さんはメイドさんだからね。
ただ元の世界の通販番組で、掃き掃除と拭き掃除が同時に出来る掃除用具が売っていたような気がしなくも無いけれど、気にしないでおこう。
「強制召喚っ!」
「強制召喚っ!」
「強制召喚っ!」
……
一時的にでもレベルが上がった美玖は魔力が完全回復しており、先ほどから力自慢の男性を召喚しては、片付けのお願いをしている。
幸いにも俺たち以外に怪我人が居なかった事と、壊れてしまった建物などを全額美玖が弁償する事で今回の件は不問となった。
ただ、元々美玖がこの街の救世主という立場でなければ、いくら弁償や片付けをしたとしても不問にはならなかっただろうが。
……
「あらかた片付いたかな」
「うん。力持ちの人がいっぱい手伝ってくれたからだね」
手伝ってくれたというか、無理矢理手伝わせたというか。やはり、美玖のチートスキルは恐ろしい。
だが美玖ほどではないものの、俺にも固有スキルが身に着き、そして村人ではあるもののレベルも上がっている。
そうだ、今回の件でどれくらいレベルが上がったのだろうか。
「あれ!? えぇっ!? なんで!?」
「勇ちゃん、どうしたの?」
「いや、これ見てくれよ!」
ついさっきまでレベル52と表示されていたはずなのに、何故か俺のレベルが1になっている。
「どうして!? レベルって下がるのか!?」
「うーん、普通は下がらないのだけれど……。あ、勇樹君の固有スキルって『成長度譲渡』って名前じゃない。もしかして、勇樹君のレベルをみんなにあげているんじゃ……」
「えっ!? って事は、俺はこのスキルを使う度にレベル1へ戻るのか!?」
「えっと……たぶんね」
「そんなー」
まぁでもレベルが上がったからといって、これまでのところで何か変化があったかというと、そんなに無かったか。
ただ、気分的に嫌な感じはするけど。
「あ、お兄さん。もしかして、最初に冒険者ギルドでお兄さんにスキルが無いって言われたのは、このレベルを消費するスキルだからじゃないかなー?」
「ん、レベル1だと譲渡するレベルが無いからって事?」
「んー、たぶんー」
ふむ。つまり、俺のスキルはレベル1の状態では使えないって事なのだろうな。
「さて、勇ちゃん。じゃあ、そろそろ行こっ!」
「えっ!? 行くってどこへ? 美玖はこの街から離れられないんじゃなかったっけ?」
確か転生してすぐの頃は、この街から動けないから俺に来てくれと言っていたはずだ。
「うん。この街でいざという時の護衛の仕事に就いていたんだけど、今回の件で解任になったの」
「えっ!? じゃあ、あのホテルにも居られないって事じゃないのか?」
「そんなの別にいいよー。それより私たちには、これからやるべき事があるもん」
「やるべき事?」
なんだろう? 美玖とは再開出来たし、俺の記憶も戻ったから、この世界で新しい嫁を探す必要はなくなった。
この世界での俺の職探しか? 村人のままだと美玖のヒモになりそうだし。
「もー、私たち二人でしか出来ない大切な事なの」
そう言って、美玖が俺の右腕に絡みついてくる。
おそらくほんの一時間程度しか美玖と離れていなかったのだが、いろいろあったせいで彼女の温もりが懐かしく感じてしまう。
でも何だ? 俺たち二人でしか出来ない事って?
「勇ちゃんったら! ちゃんと思い出したよね? 未優の事も」
「えっ!? 未優はこっちの世界に来てないだろ!?」
そう、あの日。俺たちが交通事故に遭った日。未優は幼稚園バスで先に移動しており、俺たちと一緒に車へ乗っていないはずだ。
「うん。だから早く何とかしてあげないといけないの」
「でも、何とかって言っても、あれから数日経っているよ?」
おそらく、元の世界で未優は俺か美玖の両親に育てられる事になるのだろう。だが、きっと泣きじゃくっていると思う。そう考えると、胸が締め付けられる。
「もー、こっちの世界で勇ちゃんに初めて会った時言ったよー。こっちの世界と元の世界では時間の流れが違うって」
……そういえば、俺が生死を彷徨っている間に、美玖が一週間もこっちで過ごしたとか言っていた気がする。
「こっちの世界の一週間が、元の世界の一時間くらいなの。勇ちゃんが転生してきたのが十一時くらいとして、幼稚園の発表会が終わるのが十五時くらいだから、あと四週間で未優をこっちの世界へ召喚する方法を見つければいいの!」
「なっ!? 未優をこっちの世界へ召喚!?」
「うん。さっきの勇ちゃんのスキルと、私のスキルを活用すれば、きっと何とかなると思うの! 発表会が終わるまでに未優をこっちに召喚すれば、未優が悲しい想いをしなくてすむもん!」
「そうか、そうだな。まだ未優は俺たちが亡くなってしまった事を知らないのか! やろう! 何としても未優を悲しませる前に!」
「うんっ! 頼りにしてるよ、勇ちゃん!」
そう言って、美玖が俺に抱きついてくる。
美玖の柔らかい温もりを感じながら、未優にもう一度会えるかもしれないと考えるだけで、熱い何かがこみ上げてきた。
「あのー、奥様も旦那様も、私たちの事を完全に忘れてますよね」
「あ!」
「事情はわかりませんが、お二人とお嬢様が幸せになれるように私も協力いたしますので、頑張りましょう!」
……
ラブルとティディは一旦自分の国へ帰るそうだ。
だが、またきっとどこかで会えるだろう。
いざとなったら、強制的に呼べる手段もあることだし。
そして俺たちは召喚魔法に詳しい魔術士を探す旅へ。
新しい物語が始まるのであった。
というわけで、一先ず第一部(?)完結です。
また続きを考えた後に、執筆出来ればと思います。
お読みいただいた皆様、ありがとうございました。




