4-17
真っ白な光が消えると共に、再び凍えるように冷たい世界へ戻ってきた。
じっとしているだけで、体温と体力、そして生きるための時間を失っていく。
ここは陸地からかなり離れた冷たい海の中。
俺は一人空を駆けて陸地を離れ、海の中で息を潜めていた。
そして召喚時間が終わり、また海へと舞い戻る。しがみついていたグリュプスと共に。
突然水の中へ移され、魔獣がもがく。足をばたつかせているが全身が水に沈んでおり、大きな翼が抵抗となって全く泳げていない。
そして、
「(突風!)」
水中のため声にはなっていないが、足元のグリュプスに向かって風の魔法を放つと、渦を巻いた水流がその巨体をさらに海の奥深くへと運んで行く。
緑に輝く奴の目が見えなくなったのを確認して、俺は水上へと顔を出した。
「上手くいって良かった」
大きな荷物を持ってフラフラしながら召喚された和佳さんを見ていたので、自分よりも大きなものでも持っていれば一緒に移動すると考えていたのだが、どうやら間違っていなかったようだ。
「ティディ!」
急いで街へと戻ると、先ほどティディが倒れて居た場所に美玖やラブルが集まっている。
「ティディは!?」
見た目、外傷は全くない。ラブルが魔法で治療を施したそうだ。
「ティディ? 目を開けろよ、ティディ!」
身体を揺すってみるが、横たわったままのティディは目を開けてくれない。
「ウソだろ? ティディのおかげで、俺はあいつを倒したんだよ。もう、あいつは居ないんだ! 平和な街に戻ったんだ!」
「勇樹君……。ごめん、私には怪我は治せても、これ以上は……」
「そんな、そんな……」
冷え切っていた俺の体温が戻りつつあるののだろう。温かかったティディの身体から温もりを感じなくなっていく。
あくまで俺がティディの体温に近づいたのであって、決してティディの身体から温もりが消えたわけじゃないはずだ。そうに決まっている!
けれども、目を覚まさないティディと、この状況がある一つの事実を示していた。
「こんな事ってあるかよ! 確かに世の中は理不尽な事ばかりだったさ。だからって、転生した世界にまで理不尽な事が起こらなくてもいいじゃないか! ふざけるなぁぁぁ!」
――熱い。身体が熱い。
感情を爆発させて叫んだからなのか、身体の奥底が燃えるように熱い。
何かが俺の奥底から生まれようとしている……上手く表わせないが、俺の中に何かが芽生えた気がする。
「ゆ、勇ちゃん!? 身体が、身体が光ってる」
「勇樹君! 貴方、今スキルが生まれているんじゃ!?」
スキル? 俺に!? いや、今は何でも良い。どんなスキルでも魔法でも構わない。ティディを、ティディを救えるのなら。
「勇樹君。きっと貴方の中で、そのスキルは呼んで欲しがっているわ。自分の心に耳を傾けて呼んであげて! そのスキルの名前を!」
名前!? 俺に呼びかけているのか分からないが、何故か頭の中で響く言葉がある。それは、
「成長度譲渡!」
その言葉を叫んだ瞬間、俺から丸い光の珠が飛び出し、美玖やラブル、和佳さんの胸へと入って行く。
「こ、これは? 魔法力が回復してる!?」
「そ、それだけじゃないみたい。勇ちゃん、何だか私いつもより凄い事が出来そうな気がするの!」
そう言って美玖が目を閉じ、
「強制召喚っ!」
俺を呼ぶ前は全く出なかった光の輪がティディの上に現れる。
いや、少し違う。輪ではなく、円柱――天から光の柱が射しこめている。
そして、
「んっ……」
「ティディ!」
ゆっくりとティディが目を覚ます。
「あれ? みんなどうしたのー? 何でボクは寝てたんだっけー?」
そこにはいつもと変わらない熊耳の少女が居るのだった。
 




