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気が付くと、薄暗い部屋に横たわっていた。
温かくも冷たくもなく、かといって空気の流れも感じない不思議な部屋だ。
どれくらい眠っていたのだろうか。かなり身体が軽い。今なら学生時代の頃のように、全力で走り回れるのではないだろうか。
さて、ここはどこだろう。
どうやら俺はどこかのベッドに横たわっていたようだ。身体を起こして周囲を見渡してみると、正面に大きなドアがあり、その手前に白い台が置かれている。
その台の上に置かれた黒い箱は、どこかで見たことがある。
どこで見たのだろうか。近づいてみようとして、異変に気付く。
足に掛けられたシーツが動かせない。いや、シーツどころか自分の手も動かせない。
だが俺は起き上がって、周囲を見渡して……って、俺の身体が無い! どういうことなんだ!?
振り返ると、ベッドの上にシーツが掛けられた誰かが横たわっている。
――まさかな。
恐る恐るその顔を除くと、よく見た事がある顔――俺、春日勇樹の顔だった。
じゃあ、さっきの台は……思い出した! 葬式や法事で焼香するアレだ。自分の番が来た時に、何回やれば良いのか迷うアレ。
ってことは、ここは霊安所で、つまり俺は死んでしまったって事なのか!?
神様! そんなのないぜー!
毎日身を粉にして働いて会社に尽くし、家に帰れば家事をする。休日となれば妻や娘に尽くして家族サービスに精を出してきたのに。
人生を謳歌せずに、僅か二十七年で生涯を終えるなんて。
もっと自由に過ごしたかった。もっと自分のしたい事をやりたかった。もっと夢を追いたかった。
それにもっと未優の成長を見守っていたかった。
どうして!? どうしてなんだ!? どうしてこうなった!?
高校でも大学でも、一番可愛いと称されてきた美玖と付き合い、結婚。大きくは無いけれど、中堅の会社に就職してマイホームまで買った。
順風満帆で人生を歩んで行くはずだったのに!
そもそも、どうして俺は死んでしまったんだ? 思い出せ。一体何があったかを。
確か徹夜明けで疲れて帰って来たけど、すぐに幼稚園まで運転して……そうだ、そこで交通事故が起きたんだ。
未優は幼稚園に行っているから大丈夫なハズだ。
美玖! 美玖は大丈夫なのか!?
だが美玖の安否を確かめようにも、どうやら俺はこの狭い部屋から出ることが出来ない。
未優! 美玖!
すまない。「いつでも二人を護ってみせる」なんて口癖のように言っていたのに、俺自信が二人を不幸にしてしまうなんて。
お願いします! 神様。貴方の元へ参る前に最後のお願いです。
一度も使った事の無い、一生のお願いです。
どうか、未優と美玖が幸せな人生を送れるようにしてください!
お願いします! どうか、どうか……。
感想にてご指摘いただき、後半の内容を修正いたしました。