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浴室へ戻ると、流石にティディの姿はなかった。バスローブを脱ぎ、一人で身体を洗い直しながら、美玖ちゃんの愚痴を思い返す。
その愚痴を要約すると、どうやら彼女がこの世界へ来た直後の協力者――俺の場合でいうラブルやティディのような存在――が、この世界での著名人で、チート能力を有しているとわかった瞬間に大々的な宣伝を行ったらしい。
これによって、転生直後のレベル1だというのに支援者が付き、ダンジョンへ行ったり、ドラゴン退治をしたり出来るようにと、数段飛ばしの大躍進になったそうだ。
結果今の生活を得られたのだが、時々その支援者との会食に付き合ったり、よくわからない冒険に連れて行かれそうになるらしい。
「美玖ちゃんもいろいろ大変なんだな……」
風呂を終え、着替えも済ませて脱衣所を出ると、
「勇樹君。ちょっと、こっちへ」
ラブルが俺を睨みながら、仁王立ちしていた。言葉にも少し怒気が含まれているような気がする。
連れて行かれた先では、ティディがシュンとして座っていた。
「えっと、ラブルどうしたの?」
「どうしたの? じゃないでしょ。ティディが勇樹君の背中を洗っていたらしいじゃない。何で、そんな事をさせているの!?」
「いや、俺がさせたわけじゃないのだけれど」
「仮にあの娘からしたとしても、貴方はそれを止めなかったのでしょ」
うっ……そう言われてしまうと、返す言葉が無い。
見た目は同い年くらいでも中身は十分に大人なはずの俺は、確かにティディを止めるべきだった。
だがあの状況で、回れ右して帰れ! と言える男がこの世に一体何人居る事か。きっと、ほとんどの人は甘んじて受け入れてしまうはずだ。
「ティディもティディよ。あんな事をしたら、襲われたって文句言えないわよ」
「ボクは別に……ううん、ごめんなさい」
ティディを見つめるラブルの表情は、こちらから見えないのだが、無言の圧力なのか、押し黙ってしまった。
「全く。服を着ていたから許すけど……いえ、何でもないわ。それより、肌へ直接触れずに泡だけで洗うのは、洗顔方法よ。背中を洗う方法ではないわ」
服、着てたのか。ほっとしたような、残念なような。
そして、あの何とも言えない柔らかい感触は、泡だけを俺の背中で動かしていたからなのか。あくまで、俺には直接触れていないというわけか。
どうやって洗われているのかわからなかったのだが、一応納得できた。変な事を少し想像してしまっていたのだが、これは外れていて良かったと思う。
「じゃあ、この件はこれでお終いね。明日も朝から長距離移動になるし、みんな休みましょ」
「はーい」
ようやく解放され、ティディが少し元気になる。
「じゃあ、俺はまた馬車で魔法の練習かな」
「いいえ、明日は船で移動よ」
「船!?」
「えぇ。そして、一先ず明日で移動はお終い。ついに私たちの目的地に到着するはずよ」
俺は途中から参加しているが、二人はもっと前から旅を続けていたわけで、かなり力が入っている。
旅の目的は教えて貰っていないが、明日になれば二人の目的も見えてくるのかもしれない。
そんな事を考えながら、俺はボロボロのベッドで眠りに着いた。
内容を微修正いたしました。
 




