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ラブルがお風呂から出てきた後、何故だか妙な空気のまま夕食を終え、割り当てられた宿屋の部屋へ。
昨日同様に通り女性二人は相部屋で、俺は少し狭い一人用の部屋だ。小さな机が一つと、ベッドが一つ。他には、窓しかないという完全にただただ寝るためだけの部屋。
この部屋のほとんどを占めるベッドに横たわり、先ほどのティディの行動について考えてみる。
やはり、俺が奪ったという「ティディの初めて」の何かが原因で、様子がおかしいと考えるのが妥当だろうか。
では、俺が奪った「初めて」とは何か。
言動から推測すると、初めて心を奪われた、か?
だが、熊耳の幼い少女といえど、十代半ばの年頃の女の子だ。初めて人を好きになりました……なんて、有り得るのだろうか。それも、会って数日の俺なんかに。
流石に、この考えは自惚れ過ぎか?
……
「風呂でも行くか」
考えても埒が明かない時は、とりあえず考えない。時間が解決してくれる事だってあるだろう。
それに、もしも俺の考えが正しかったとして、ティディの一時の気の迷いかもしれない。明日になれば、いつも通りの元気で無邪気な少女に戻っている可能性だってある。
だから風呂に入って、とっとと寝よう。
そこで、ふと気付く――この部屋、風呂付いてない――と。
――コンコン
「はーい。あ、お兄さん。どうしたの?」
「あ、えっと、お風呂に入りたいんだけど、良いかな?」
「いいよー。入って入って」
風呂を借りに二人の部屋へ訪れたのだが、出迎えてくれたティディが既にいつもの様子に戻っていた。
どうやら、あまり気にする必要はなかったようだ。
脱衣所で靴を脱ぎ、
「あ、忘れてた」
せっかくもらった空飛べる靴なのだが、ティディの一件でお披露目をすっかり忘れてしまっていた。
明日にでも二人に見せてみよう。
それからローブに下着も脱いで……そこで俺は大変なものを目にする。
「こ、これは!?」
真っ白で小さな逆三角形の何か。おそらく全人類の男性全ての憧れであり、羨望であり、そして大好きなもの。
小さなレースのリボンが付いた、いわゆるパンティと呼ばれる女性用の下着が忘れられていた。
これは、どっちのだ!?
いや別にラブルだったらとか、ティディのだったらどうこうというわけではないのだが、本能レベルでついどうしても気になってしまう。
手に取って詳しく調べれば……という考えが一瞬よぎるが、俺は身体が十代でも中身は二十七歳のジェントルメン。手に取ってくんかくんか――もとい、まじまじと調べるなんてしてはならない。
「だぁーっ!」
血の涙を流す勢いで、せっかく見つけたそれに指一本触れず、俺は掛け声と共に浴室へ移動した。
で、わしゃわしゃと頭を洗いながら、冷静になる。
「手に取らなくて良かった」
万が一、二人のうちのどちらかが入ってきて、俺が全裸でアレを手に取りまじまじと調べている所でも見られようものなら、間違いなく変態扱い。
何なら通報されかねないレベルだ。最悪、もう俺を一緒に連れて行ってはくれないだろう。
シャワーで頭を洗い流し終えると、
「お兄さーん、背中流すよー!」
――ぶっ!
「えっと、その声はティディ!?」
「うん。あ、恥ずかしいからこっち見ちゃダメだよ?」
振り返りかけていたのだが、寸での所で留まる。
鏡越しにシルエットは見えるのだが、湯気で曇った鏡ではハッキリとは見えない。
――ちゃんと服着てるよな?
とか思っているうちに、早くも背中を洗い始めてしまった。
 




