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ニコニコと営業用の笑みを浮かべながら、ソロンさんが迫ってくる。
「どうです? 駆け出しの冒険者さんでしたら、銀貨五百あったらえぇ装備買えまっせ」
「そうそう。それに、暫く食事や宿にも困らないわよ」
クロエさんは未だに俺の左腕から離れない。
この状況はどうしたものかと、ラブルとティディに視線を送ってみるのだが、ラブルはツーンと知らんぷり。ティディは俺を見てはいるものの、どうしてよいかわからずオロオロしている。
「すみません。申し訳ないのですが、この服はプレゼントされたものなので、おいそれと手放す訳にはいかないんですよ」
「いやいや、旦那。そんなん気にしたらあきまへんで。そんな小さな事気にしてたら、冒険者なんて出来まへんて。持ち運べる荷物なんてたかが知れてま。貰いものやからって気にしてたら、あっと言う間に重量オーバーでっせ」
「せやで。それに比べてウチらは商人。店も倉庫もあるから、ちゃんと品物として管理、販売するから、そのローブも幸せやで」
「いやいや。お気持ちは嬉しいのですが、これを手放すと後でどうなるのかが目に見えているので」
初対面の時、あれだけ泣いてたんだ。きっとこのローブを手放したなんて事がわかれば、またきっと号泣するのだろう。
出来る事なら女の子の涙なんて見たくは無い。
「旦那も人が悪い。じゃあ、銀貨八百枚でどうでっか? もうこれ以上は出ませんぜ」
だから、俺はこのローブを手放す気が無いと言っているのに、ソロンさんが聞きいれてくれない。
だが五百から八百と、一気に六割も値を上げてきた。もしかして、このローブって相当高価なものなのではないだろうか。少なくとも銀貨八百枚よりも。
「ねぇ、このローブに銀貨八百も出すトコは中々ないで。ここは素直にウチらへ任せたらどーかな?」
「いえ何度も言っていますが、このローブは手放せない理由があるんですって」
「旦那。この世界で仲間や家族以外に再会することなんて中々ないですぜ。そのプレゼントしてくれた人も、次に会う時にはきっと忘れていますって」
いや、これをくれたのは自称元妻で、向こうにその気があれば俺の意志なんて関係無く会う事になる。それに、一日や二日で絶対忘れていないだろう。
「ねぇ、そのプレゼントしてくれた人ってまた会うん? それよりもウチがもっとえぇもんプレゼントしてあげるで」
「会うというか、会わされるというか。きっとこのすぐ後にでも会う事になるんですよ。だから、これは手放せないんです」
「ん、旦那。黄金都市マイシーニに居る人なんでっか? でしたら、ワテが話つけますぜ」
「いやいや、そうじゃないんです。定期的に俺がその人に強制召喚されるんで」
言った瞬間、ソロンさんとクロエさんが顔を見合わせる。
「えっと、旦那。今、強制召喚とおっしゃいました?」
「え、えぇ」
「あのー、もしかしてその召喚する人ってウチより幼い女の子ですか?」
「はい、そうですが。もしかして知っているんですか?」
突如二人が大人しくなり、喋り方までマイルドになる。そして、少しずつクロエさんが俺から離れ、二人並んで床に正座する。
「か、数々のご無礼すみませんでした! まさか旦那、いえ貴方様があの『幼い魔女』様のお知り合いだったとは。どうか、どうかお許しください」
「な、何ですか!? 一体どうしたんですか!?」
「お、お願いです。どうか、どうか命だけは助けてください。あの、何でしたらウチ裸踊りでも何でもしますので」
「いや、脱がなくていいです。お願いですから落ちついてください」
何だ!? 話が唐突過ぎてついていけない。
オロオロしていたティディの様子を見ると、事の展開にキョトンとしており、ラブルも目を丸くしている。
ソロンさんは床に頭を擦りつけ、
「すみません! 旦那のそのローブ。『魔人のローブ』なんていうのは真っ赤な嘘です。本当の名前は『賢者のローブ』と呼ばれる由緒正しきもので、価格にすれば金貨十枚にはなる代物です!」
確か、金貨一枚で銀貨千枚分とラブルに聞いている。……って、完全なぼったくりじゃないか!
「あの、兄も正直に申しておりますので、どうか、どうか『幼い魔女』様には御内密に」
「はぁ。それは構いませんが」
「この度は、誠に申し訳ありませんでした!」
そう言った瞬間、二人が御者台へ走って行き、唐突に馬車を降りる。
馬車から降りた二人は、姿が見えなくなるまでずっと深々と頭を下げていた。
一体、彼らと美玖ちゃんの間に何があったのだろうか。
疑問は解決しないまま、ようやく乗合馬車が目的地へ到着した。
内容を微修正いたしました。




