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「ただいまー! お父さん、お客様連れてきたよー」
食事処ウィンストン――大きな街道沿いで、かつ乗合馬車の停留所近くにある店ということで、店はそれなりに……混んでいなかった。
店内に八つ程テーブルがあるのだが、そのうちお客さんが座っているのは二つだけ。しかも、うち一つは一人で来ている客だ。
ヨーコさんに案内され、一番奥のテーブルへ着く。
「あ、お代は私が持つから、好きなの注文してね」
今日のオススメが『レモラのムニエル』とだけ言い残して、ヨーコさんは店の奥へ消えていった。
「あのさ、レモラって何!?」
「お魚さんだよー。小さい魚だから、ボクはサーモンとかのが好きだけどねー」
「へー。なるほど」
ティディは熊――もといクマミミなので、確かに大きな魚が合いそうだ。ただ俺の今のイメージはティディではなく、完全に川で鮭を銜えるヒグマになってしまっているが。ティディだと、小柄なので秋刀魚くらいの大きさでも、十分に思える。
さて、俺はどうしようか。既に美玖ちゃんと一緒に昼食を済ませてしまっているのだが、せっかく御馳走してくれると言うのに、断るのは失礼だ。
まぁ、小魚なら大丈夫か。
「俺はオススメ料理にするけど、二人は?」
「私もそれにしておくわ」
「じゃあ、ボクは『飛竜の翼の煮付け』にするー」
メニューが決まったものの、なかなかヨーコさんが帰って来ない。
「あんまり流行ってないみたいだね」
ヨーコさんが戻って来ていない事を確認しながら、少しトーンを抑えて発言する。
「たぶん、それはね……」
同じくトーンを抑えてラブルが何かを言いかけた時、
「お待たせー。これは私からのサービスで『マンドレイクの葉のおひたし』よ。注文は決まったかしら?」
「ぶっ!」
「勇樹さん、いきなりどうしたの?」
「いや、マンドレイクってアレでしょ? 引き抜く時に凄い叫び声を上げて、それを聞くと死ぬっていう」
よくゲームなんかで魔法の材料などに使われているものだ。それが、さらっとおひたしにされて出て来るとは思ってもみなかった。
「あ、マンドレイクの根は薬用として使われるけど、これは葉だから薬膳効果は薄いわよ」
「そうなの!?」
「それとも根の方が好きなのかしら? 少し待っていてくれたら『マンドレイクの根のきんぴら』が出せるけど」
「いやいや、大丈夫です。おひたしいただきます」
俺が元の世界でやったゲームでは、幻覚作用なんかがあったのだが、この世界では違うのだろうか。まぁ元々ゲーム上の設定だし、違って当然なのかもしれないが。
それに、ラブルとティディは俺の問いに不思議そうな表情を浮かべるだけで、気にしてなさそうだし。
「で、注文は決まったのかしら」
「えっと、俺とラブルはさっきのオススメを」
「わかりましたー。『レモラのムニエル』二つね」
「あと、ティディは『竜の翼煮』だっけ」
と、ここまで笑顔で注文を受けていたヨーコさんの表情が突然暗くなる。
「『飛竜の翼の煮付け』ね。それなのだけれど、ちょっと今提供出来なくて……」
「そっか。じゃあ、ボクもオススメにするー」
「わかった。ちょっと待っていてね。お父さん、オススメ三つー」
ヨーコさんが厨房へ姿を消していった。
内容を微修整しました。




