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「あ、できたー! ありがとうございますー!」
ニコニコしたヨーコさんの視線の先――馬車から離れた草原――を見ると、狼を二回り程大きくしたような獣が地面に突っ伏していた。
昨日、ラブルが使った土の精霊魔法なのだが、ヨーコさんは俺の修行に合流してから僅か十分程で、使えてしまったようだ。
「やはり元々素養があるのですね。今はその補助アイテムを使用していますが、魔術士ギルドで正式に盟約を結んでください。より多くの力を行使出来るはずです」
「ありがとうございます。一先ず、このリングはお返しいたしますね」
こうもあっさりと修得されてしまうと、もっと時間を掛けている俺の立場がなくなってしまう。
「ほら、お兄さんも頑張って。抜かれちゃったよー!」
「言われなくても頑張ってるんだって。だけど、具現化させた風の力が言う事を聞かないんだよ」
「むー、やっぱりお兄さんが村人だからなのかなー」
「あー! それを言っちゃダメだろー! てか、ティディは出来るのかよ」
熊耳の種族であるティディの怪力を目の当たりにしているので、実力があることは承知している。だが魔法を使うのではなく、前衛で接近戦を行うイメージしか湧かない。
「ふっふー。では、お兄さんにボクの実力を見せてあげるよ」
そう言いながらラブルの元へ行き、ヨーコさんが使い終わった緑のリングを受け取る。
荷台の中心で立ち上がると、リングをはめた右手を進行方向右側の草原――ヌーだろうか、黒く大きな牛が走っている辺りに向けると、急に風が強くなる。
一呼吸置いた後、ティディがゆっくりと言葉を紡ぐ。
「緑の大地に根付く草の精霊よ。盟約に従いて、その力の行使を命ずる。長き草で絡み捕れ、『草の陣』!」
一瞬、ティディの右手が淡く輝いたように見え、彼女の見つめる牛が――動きを止めなかった。
「って、動いてるぞ」
「あれ? おっかしいなー。ボクにも出来そうな気がしたんだけどなー」
「ん、その言い方だと、初めて使ったのか?」
「うん。そーだよー」
それが何か? とでも言いたげに、ティディがキョトンとしながら俺を見る。
「えっと、何かそれっぽい台詞があったんだけど、あれは?」
「あはは、それらしい言葉を並べたら使えるかなーって思ったんだけど、ダメだったねー」
そう言いながらティディは頬を指先でかいているのだが、その表情は何か満足そうだ。
「もしかして、やってみたかっただけなのか?」
「その通り! ボクの希望は魔術士だったんだけど、適性が違ってたんだー。で、前から一度やって見たいと思ってたんだよー」
「そ、そっか。とりあえず、難しいのは分かってくれたよな?」
「でも、あと数回やったらきっと出来ると思うんだー」
この少女のポジティブさが羨ましい。これが若さというやつなのだろうか。
「全く、その根拠の無い自信が羨ましいよ。けど、俺もティディを見習って頑張ってみるか」
「そうだよ。何事もやればきっと出来るんだ! じゃあ、お兄さんもボクと一緒にそれっぽい言葉を言いながらやろうよ!」
「いや、それは遠慮しとく」
俺にもう少し中二力があれば、幾らでもそれらしい台詞が湧き出たと思うけど、流石にそこまではマネ出来なかった。




