3-2
「勇樹君、おはよ」
「ラブル、おはよ」
二人の部屋に入ると、パンの焼ける良い香りが鼻をくすぐる。昨日の夕食もそうだが、基本的に食生活は元居た世界と同じようだ。
「温かいうちに召し上がれ」
クロワッサンのようなパンだけの簡易な朝食だが、昨晩食べ過ぎているので、これくらいが調度良い。
それに木の実が練り込んであるようで、ほのかに甘い生地となっている。
……
食事と後片付けが終わり、二人が身支度を整えている。
ほとんど荷物が無く、早々に準備が終わった俺が窓から街並みを眺めていると、
「昨日説明したけど、今日は出来るだけ北へ距離を稼ぐからね」
「で、俺はその移動中に極力魔法の練習をするんだよな?」
「その通りよ。いきなり上手く出来ないし、まだ使える魔法力も少ないから、練習と休憩を繰り返して少しずつ慣れていきましょう」
準備を終えたラブルが、今日の目的の再確認をする。
ラブルたちが俺に教えてくれた目的は三つ。
一、転生直後の人や、困っている人が居たら最優先で助ける。
二、討伐依頼のある魔獣情報があれば、退治する。
三、一と二をこなしながら、南にある街を目指す。
どういう理由で、どこの街を目指しているかは、秘密事項ということで教えてくれなかったが、俺としてはまず強くなって美玖に呼ばれ難くする事が最優先だ。
あまり深い事は気にせずに、己の鍛錬と魔獣退治に努めたい。そして何れは、この世界で可愛く、気立ての良い、家事の出来る嫁を見つけるんだ!
ラブルもティディも美少女で性格も良さそうだが、二人を比較すると年齢的にラブルの方が良いだろう。
だが、ティディのこれからの成長も期待したい。
っと、焦らずとも、まだまだこれから沢山の美少女に出会えるはずだ。今は先ず強くなる事を優先せねば。
「ところで、勇樹君は魔法を使いたいって言っていたけど、どんな魔法を使いたいの?」
「例えば、遠くへ炎の弾なんかを飛ばしたり出来ないかな?」
昨日も美玖に聞かれたことだが、まだ強くなっていないので威力よりも射程を重視して、安全を確保できる方がありがたい。
「炎の弾ね……ちょっと初心者には難しいかな」
「そっかー、残念。じゃあ初心者向きで、射程が長い魔法って無いかな?」
ラブルが右手人差し指を唇にあて、小首を傾げて考える。
「あ、それなら心当たりが二つあるわよ。一つは突風を起こして、相手を吹き飛ばす風の精霊魔法。もう一つは私が昨日使った、草を絡めて動きを封じる土の精霊魔法。どっちが良い?」
「なら、風の魔法かな」
昨日のは、ちょっと地味で使った事もよくわからなかったし。と、口には出さず、心の中で付け足す。
「わかった。『突風』ね。じゃあ右手出して」
言われるがままに右手を伸ばすと、不意に手を握られる。
二十歳の美少女という若い娘に手を握られ、ちょっとドキッとしていると、人差し指に水色の太いリングがはめられる。
「これは?」
「風の精霊魔法を発動させるための補助アイテムよ。簡単な魔法でしか効果を発揮しないから、初心者が練習する時に使うの」
「杖とかじゃないんだ」
「それは、ある程度修行してからね。じゃあ、ティディも準備が終わったみたいだし、出発ー!」
右手に着けた、ひんやりとしたリングを眺めつつ、宿を後にした。
内容を微修正しました。




