2-9
「はい、では勇樹君との出会いを祝して、乾杯!」
「かんぱーい!」
乾杯と言ってもティディは未成年だし、ラブルはお酒が飲めない。それに俺はというと、この世界に来たばかりで所持金もほとんど無いので、二人と同じお茶を貰っている。
今はラブルとティディがこの街で拠点としている、安い宿屋の一室に居る。ベッドが二つある相部屋で、美味しそうなスープの匂いが漂っている。
せっかく出会ったのも何かの縁だと、資金に余裕の無い俺――冒険者ギルドで借りられた支度金の額を聞いた二人が手料理を振る舞ってくれたのだ。
「けど、冒険者ギルドも酷いねー。この世界へ来たばっかりのお兄さんに銀貨五十枚しか貸してくれないなんてー」
「銀貨五十枚って、そんなに少ないのか?」
「うーん、一から冒険者を始めるにしては少な過ぎると思うよー。例えば、安い剣とか魔導書を買うだけでも、銀貨数十枚するしー」
「げっ! それって、転生してきた俺はどうしたら良いんだ!?」
この世界で普通に生活する人たちは、この世界に自分の実家があって、親が助けてくれたりするはずだ。
だが俺の場合、この世界に自分の家なんて無いし、荷物も何も持っていない。何故か最初に着ていた、元の世界の仕事着――黒の上下スーツ――に加え、革靴が今の俺の全財産だ。
「最近、転生されてきたヒトミミが多いので、冒険者ギルドで支度金を貸し出す制度が出来たの。ところが、貸し出す額にルールがあるそうなの」
「というと?」
「冒険者となるヒトミミの将来の有望性――つまり、適性の検査結果で金額が設定されているらしいの」
「うっ。ということは、やっぱり『村人』はランクが低いわけなんだ」
「たぶん……」
うーん、やはりこれは剣や魔法に憧れず、堅い職業に就けということなのだろうか。
「まぁ、でも村人適性でも大丈夫よ。考えようによっては、適性に縛られることなく剣でも魔法好きなものを選べるじゃない」
「そうだよー。さっきも言ったけど、ボクは適性にとらわれ過ぎちゃって、やりたかった事と違う戦い方になっちゃっているしねー」
「あ、香草のスープ、冷めないうちに飲んでね。私の得意料理なんだから」
コンソメっぽい味の温かいスープが喉を過ぎると、体がポカポカと温かくなる。
「おかわりもどうぞ。沢山あるから、遠慮なんてしないでね」
ラブルが二杯目のスープを注ぎ、俺に手渡してくれる。
「う、うぅぅ……」
「ど、どうしたの!? 口に合わなかった?」
「いや、違うんだ。初対面の俺にこんなに優しくしてもらえるなんて、嬉しくて」
いきなり転生してきて、右も左もわからない世界に放りこまれた上に、チートスキルでハーレムを作るぜ! なんて内心思ってた俺なんかに優しく接してくれる。
この温かさが心に沁みわたり、思わず俺は涙を零してしまっていた。
だから俺は、それに気付けなかったのだ。
内容を微修正しました。




