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眩しい光が収まった後、景色は元の草原に戻っていた。
「あ、ラブルー! お兄さん居たよー!」
ティディの声に気付き、少し離れた場所に居たラブルが俺に駆け寄って来る。
「勇樹君、大丈夫!?」
「お兄さんが居なくなった後、オロオロするラブルは見ていて面白かったよー」
「突然姿が消えたから心配して当然でしょ……って、本当に大丈夫!?」
しゃがみ込んだラブルが、俺の顔を不安そうに見上げる。
「えっ!? あ、あぁ。ところで、随分俺の顔を凝視しているけど、顔に何か付いている?」
「いえ、そういう訳じゃないけど、何だか複雑な顔してるわよ」
んー、チートスキルでハーレム展開の現実味が湧いてきたのと、いきなり俺の妻だなんていう少女にこれからも召喚されそうなのとで、混乱しているのかもしれない。
「ところで、突然消えてしまったのだけど、何があったの!?」
「んー、一言で表わすと、召喚された」
「召喚!?」
「うん。アテーナイとか言ったかな。気付いたら見知らぬ場所に居たんだ」
「アテーナイ!」
『召喚』という言葉と『アテーナイ』という言葉に、ラブルとティディが反応する。
「もしかして、幼い女の子に会った!?」
「あぁ。会ったというか、その女の子のスキルで呼ばれたみたいだ」
残念ながら、俺の意志とは無関係に今後も呼ばれるようだが……。
「やっぱり! では、やはり勇樹君も伝説の勇者クラスの大物なのね」
「ん? どういうこと!?」
「ふふ。勇樹君を召喚したのは『幼い魔女』の二つ名を持ち、最強と呼ばれるヒトミミの一人よ」
――ぶっ!
「ちょっとー、お兄さん汚いよー」
『幼い魔女』……まさか、さっきの意味不明な少女がそんな呼ばれ方をしているとは思わなかった。
だが、さっきの少女――美玖ちゃんは一週間前にここへ来たと言っていた。この世界にヒトミミ――転生者が何人居るか知らないが、そんな短期間で最強と呼ばれるものなのだろうか。
「最強って、あの子そんなに凄いの!?」
「凄いなんてもんじゃないよー。だって、遠くに居る人を召喚するんだよー! 時空間を超えて、自分の近くに誰かを呼び寄せるなんて、その時点で凄いよー!」
「確かに、行きも帰りも一瞬だったな」
「でしょー。それに、その呼ばれる対象が反則級の戦士ばかりらしいんだー。一体、どうやって盟約を結んだんだろー?」
ティディが次々に挙げているそれが、おそらくこの世界での有名人の名前なのだろう。
「盟約って?」
「私が使う精霊魔法もですが、魔力を用いて何らかの力を行使するには『貴方の力を私に貸してね』と、事前に盟約を結んでおく必要があるのです。ですから、勇樹君といつの間に盟約を結んだのか……」
「んー、俺はその盟約ってのを結んだ覚えがないのと、確かスキルの名前が『強制召喚』って言ってたから、盟約なんてしてないんじゃないのかな?」
流石にここへ来て僅か一週間で、ティディが挙げる多数の人――それも有名人らしき人――と、盟約などしていないと思う。
「もしも盟約無しで、強制的に何かの力を使えるとしたら恐ろしい力ですね。それに、この世界の魔法のルールを無視してしまっていますし」
「まさにチートだな」
「でも、そんな有名人ばかり召喚する人に呼ばれて、何をしてきたのですか?」
「いや、ちょっと喋っただけなんだけど……」
まぁ、実際はその最強の少女に泣きながら抱きつかれていたわけなのだが。
「でもでも、その有名人ばかりの中にお兄さんが名を連ねているんだから、やっぱり凄いよー! きっと『幼い魔女』がお兄さんに秘められた力を嗅ぎ取ったんだよー!」
「そ、そうだな。きっと俺も凄いスキルを持っているに違いない! さ、早く冒険者ギルドへ行こうぜ!」
浮かれ気分の俺を先頭に、三人で冒険者ギルドのある街へ急いだのだった。
一部、会話の内容を修正いたしました。
 




