星に願いを
ぺらり、何故か担任の授業にて細長い紙が配られた。
隣の席の結城が「何これ」と首を傾げる。
色とりどりの紙。
机の下でそっと携帯を取り出し日付を確認すると、ディスプレイに映し出された七月七日の文字。
今日は七夕か。
「はーい、じゃあ今日は七夕なので願い事を書いてみましょう」
俺達は小学生か、と突っ込みたくなる。
だがこの明るくハイテンションな担任のことだ、そんなことを言っては明日の課題をたんまりと出されることだろう。
仕方なく口をつぐんだ。
「願い事なー」
ぴらぺら、と紙を振り回す結城。
俺はそれを無視してさっさと紙に文字を書き付けた。
「え、もう書けんの?!」
シャー芯を仕舞いこんでシャーペンを筆入れに入れる。
その隙にバッ、と結城が横から手を伸ばし短冊を奪い取る。
嬉々としてその文字を読むが項垂れた。
脱力した結城の腕から短冊を抜き取り、自分の書いた文字を見る。
『世界平和』
なかなかだと思うが。
結城は何か言いたげだが何を言っても無駄だと知っているので黙る。
その代わり次の標的にされたのは前の席の女子。
「夜空ちゃんはなんて書いたのー?」
すっと彼女の短冊に手を伸ばそうとするが、その手は第三者によってピシャリ、と叩かれる。
夜空さんは結城の前の席。
そしてその結城の手を叩いた夏美は俺の前の席。
夏美は大きな瞳を細めて結城を睨みつける。
「アンタはっ!何でいつも夜空にちょっかいかけるの!!」
近所の女の子を泣かせた我が子を叱っているように見える。
いつものことだとは思うが。
結城を叱りつける夏美と、そんな夏美を宥めようとする夜空さん。
全く持って平和だな。
世界もこんな風に平和になればいい。
一人納得していると夜空さんと目が合う。
きょとん、とこちらを見つめる夜空さん。
数秒後に我に返り俺から目を逸らして俯く。
俯いた彼女を見届けて俺はやっと口論をしている結城と夏美を止めるのだった。
その日の放課後。
特にすることもない俺は結城を教室で待っていた。
奢るから一緒に帰ろうと言われたのだが、結城が奢るなんて珍しいことだ。
なにか裏がある気がする。
そう考えていたのにアイツは忘れ物をしたと言って、バレー部の部室に行ってしまった。
仕方なく一人教室でアイツの帰りを待っている。
ガラリ、と扉が開かれたので文句の一つでも言おうと口を開くが、俺はそのまま口を開いて固まる。
教室に入ってきたのは夜空さんだった。
伏し目がちに教室と廊下の境目に立っている。
「夜空さん、どうかした?」
忘れ物でもしたのかと思い問いかけるが、彼女は黙ってこちらを見ている。
そして小さな歩幅でこちらへと近づき俺の顔を覗いた。
小動物のような瞳に俺を映す。
「あの、あの、………えっと」
まごまごと口を動かし視線をさ迷わせた。
一体どうしたものかと首を傾げるが次の瞬間、彼女はぐっと俺の両腕を掴む。
すぅ、と息を吸い込む音がした。
「月島くん、好きです」
一瞬何を言っているのか分からなかった。
ただ真剣な表情の夜空さんだけを見ていた。
その顔は真っ赤だったが…。
「あの、だから、お友達から始めてください」
俺の両腕から手を離して握手を求めてくる。
その際に握っていたメモ用紙のような物が落ちてきた。
授業を潰して書かされた短冊のようだ。
それを拾い上げると夜空さんが「あっ!」と声を上げた。
短冊に書かれた女の子特有の小さくて丸い文字。
『月島くんとお友達になりたい』
やはり小学生か、と突っ込みたくなる。
だが慌てふためく夜空さんはハッキリ言って面白い。
くつくつ、と笑いをこらえながら俺は夜空さんに手を差し出す。
「よろしくね」
そういえば彼女の顔には今までに見たことがないくらいの満面の笑み。
多分俺が彼女を好きになるのはそう遠くない気がした。