第二十四話 リゼット飛ぶ
皇宮・訓練場
「では!」
リゼットが勢いよく前へ出る。
「ヴィンセント殿! 一発……いえ、一手お願いいたします!」
「…………」
エルナが固まった。
「あなた今……なんと?」
「さあ! ヴィンセント殿!」
リゼットは大盾を構える。
その顔には、妙な気合いが満ちていた。
「ヴィンセント殿!」
「はい」
ヴィンセントが鐘鎚を構える。
「では、まいります!」
親衛隊隊長が両者を見る。
「では――」
息を吸う。
「両者、開始!」
――消えた。
「え?」
エルナが目を見開く。
ヴィンセントの姿が、一瞬で視界から消える。
次の瞬間。
訓練場を――
金色の閃光が走った。
「ごぉぉぉん!!」
巨大な鐘の音が響き渡る。
「きゃ――」
ドゴォッ!!
リゼットの身体が宙を舞った。
「リゼットーーーー!?」
アイリスの声が響く。
リゼットは空中でくるくると回転し、
ドサッ!
着地。
しかし勢いは止まらない。
「おおおおおおおっ!?」
ゴロゴロゴロゴロゴロ――!
そして。
ドゴォン!!
訓練場の壁に激突した。
「…………」
静寂。
エルナとアイリスが、壁の方を見る。
「…………あれは、大丈夫ですの?」
「リゼット……生きてます?」
しばらくして。
瓦礫が動いた。
「…………」
リゼットが立ち上がる。
「大丈夫です!」
「「…………」」
エルナとアイリスが呆然とする。
リゼットは手にしていた大盾を見る。
――いや。
大盾だったものを見る。
粉々だった。
「ヴィンセント殿!」
リゼットが再びヴィンセントを見る。
「もう一手!」
「えっ!?」
エルナが振り返る。
「リゼット……!」
そしてエルナの視線が、リゼットの腕へ向く。
「あなた……」
「はい?」
「大盾を持っていた方の腕、その角度で合っていますの?」
「…………」
リゼットが自分の腕を見る。
「あ」
「気づいていなかったんですの!?」
「すみません!」
リゼットが腕を掴む。
「治します!」
「え?」
アイリスが目を丸くする。
「ちょっと待――」
ごきぃっ!
「…………」
全員が固まる。
リゼットが腕をぶらぶらと動かす。
「治りました!」
「…………」
エルナは頭を抱えた。
「どうしてこう……」
その時だった。
「なんじゃ!」
訓練場の入口から声が響く。
「先ほどから、やたらと鐘の音が鳴ると思ったら――!」
皇帝だった。
ノリスを伴って訓練場へ入ってくる。
そして目に入ったもの。
砕け散った大盾。
破壊された壁。
瓦礫。
その中央に立つリゼット。
そして金色の鐘鎚を持つヴィンセント。
「…………」
皇帝が黙る。
ノリスも黙る。
ヴィンセントが二人に気づく。
「あ、皇帝陛下」
「…………」
皇帝はゆっくりと鐘鎚を見る。
「……その鐘は、なんじゃ?」
「新しい武器です!」
「…………そうか」
皇帝は一度目を閉じた。
「それで、なぜ壁が壊れておる?」
ヴィンセントが答える。
「リゼット殿と手合わせをしていまして」
「…………」
皇帝がリゼットを見る。
「……なぜ、まだ立っておる?」
「まだやれます!」
「…………」
皇帝はノリスを見る。
ノリスも皇帝を見る。
二人とも、同じことを思っていた。
――この国には、どうしてこういう者ばかりいるのだ。




