第二十二話 鐘鎚
皇宮・訓練場へ続く廊下
エルナとアイリスは、並んで廊下を歩いていた。
「…………」
「…………」
しばらく無言で歩いていると――
(ごーん……)
「…………」
二人の足が止まりかける。
しかし、また歩き出す。
(ごーーーん……)
今度は、先ほどよりも大きい。
エルナが無言で額を押さえた。
「……やはり、こちらから聞こえてきますわね」
「はい……」
アイリスも苦笑する。
「まさかとは思いますけれど……」
「そのまさかでないことを祈りましょう」
だが。
訓練場の扉を開けた瞬間。
「…………」
「…………」
二人とも黙った。
広い訓練場。
その中央に、ヴィンセントが立っている。
そして、その手には――
金色の巨大な何か。
それを、ヴィンセントが嬉しそうに振っていた。
(ごーん……)
「…………」
「…………」
エルナとアイリスは、同時に頭を抱えた。
その気配に気づいたヴィンセントが振り返る。
「あ!」
ぱっと顔を明るくする。
「エルナ殿下! アイリス殿下!」
ヴィンセントが駆け寄ってくる。
「やっと鍛冶師の方が納得できる武器が完成したんです!」
「…………」
「こちらです!!」
ヴィンセントが手にした武器を掲げる。
(ごーん……)
「…………」
エルナが武器を見る。
アイリスも見る。
そして、もう一度見る。
「……ヴィンセント」
「はい?」
「それは……なんですの?」
「戦鎚です!」
「…………戦鎚?」
「はい!」
ヴィンセントは嬉しそうに答える。
鎚の先端。
そこには――
金色の鐘が取り付けられていた。
「……鎚、ですのよね?」
「はい!」
「その先端部分が……」
「鐘です!」
「…………」
アイリスが恐る恐る近づく。
「それ、教会にある鐘の意匠にそっくりですわね?」
「ああ、鍛冶師の方の趣味らしいですよ」
「趣味……」
エルナが遠い目をする。
「まあ……綺麗ではありますけれど」
アイリスが鐘の部分を覗き込む。
「ちょっと見せてくださいませ」
「どうぞ」
ヴィンセントが素直に差し出す。
アイリスが鐘の内部を見る。
「あら?」
「どうしました?」
「中に……鐘を鳴らすためのものがありますわね」
「はい」
「でも……」
アイリスが指先で確認する。
「これ、固定されていますわね?」
「そうなんですよ!」
ヴィンセントも頷く。
「動かないんです」
「…………」
エルナも覗き込む。
「確かに固定されていますわね」
「はい」
「では……」
エルナが首を傾げる。
「なぜ振っただけで音が鳴りますの?」
「それがですね」
ヴィンセントが困ったように笑う。
「鍛冶師の方も――」
少し間を置いて。
「『知らんっ!』と言ってました!」
「…………」
「…………」
エルナとアイリスが顔を見合わせる。
「……鍛冶師が?」
「はい!」
「作った本人が?」
「はい!」
「…………」
なんとも言えない沈黙。
するとヴィンセントが続ける。
「あ、それとですね」
「まだありますの?」
「どうやら、振るだけじゃなくて……」
ヴィンセントは鐘鎚を軽く持ち直した。
「こう、何気なく触った時にも鳴るんです」
「……え?」
アイリスが目を丸くする。
「どういうことですの?」
「わたしにもよく分からないんですが――」
ヴィンセントが、ほんの少しだけ武器を持ち上げる。
「こうすると……」
(ごーん……)
「…………」
「…………」
エルナとアイリスは、しばらく鐘鎚を見つめた。
ヴィンセントも見つめる。
三人とも黙っている。
「……本当に鳴りましたわね」
「はい」
「振ってませんわよね?」
「持ち上げただけです」
「…………」
エルナはゆっくりと目を閉じた。
「……なんですの、この武器」
ヴィンセントは少し考えてから、
「……不思議ですね!」
と、にこやかに答えた。
(ごーん……)
「……また鳴りましたわ」
「はい」
「……もういいですわ」
エルナは頭を抱えた。




