乙姫の本当の目的
昔々。
浦島太郎は、浜辺でいじめられている亀を助けた。
だが、それは偶然ではなかった。
亀は最初から竜宮城の使いであり、「心優しく、自分より他人を優先する人間」を探していたのだ。
乙姫には、人間には知られてはいけない秘密があった。
竜宮城では永遠に近い時を生きられる代わりに、王家は定期的に人間の寿命を集めなければならなかった。
その器となるのが「玉手箱」。
箱の中には煙など入っていない。
あれは浦島太郎から抜き取られた何百年もの寿命そのものだった。
太郎が竜宮城で「三日」と思って過ごした時間。
その間、現実で数百年が流れたのではない。
竜宮城が、太郎の未来の時間を少しずつ吸い上げていたのだ。
乙姫は優しく笑い、ごちそうを振る舞い、夢のような毎日を見せ続けた。
それは太郎を幸せにするためではない。
寿命を奪っていることに気づかせないためだった。
やがて寿命をすべて吸い終えた乙姫は、静かに微笑んで言った。
「お帰りになるのですね。」
そして、一つの玉手箱を差し出す。
「決して開けてはいけません。」
その言葉の本当の意味は、呪いではなかった。
箱を開けた瞬間、奪われた時間が持ち主へ一気に戻るという意味だった。
村へ帰った太郎を待っていたのは、誰一人知る者のいない世界。
家族も友人も、とっくにこの世を去っていた。
絶望した太郎は、約束を破り、玉手箱を開ける。
白い煙が空へ舞い上がる。
それは煙ではない。
太郎から奪われていた人生そのものだった。
煙が身体へ戻った瞬間、何百年もの歳月が一瞬で太郎を襲う。
黒髪は白く染まり、肌は深いしわに覆われ、身体は朽ちるように老いていく。
遠い海の底。
乙姫はその光景を静かに見つめ、小さく微笑んだ。
「これで、竜宮城はまた数百年、生き永らえる。」
浜辺には再び、一匹の小さな亀が現れる。
次の"優しい人"を探すために。
──そして現代。
その浜辺には、一つの都市伝説が語り継がれている。
「亀を助けた者は、二度と帰ってこない。」
今でも、ときおり海辺で人が忽然と姿を消すという。
誰もが事故だと思っている。
しかし、その直前には必ず、一匹の小さな亀が目撃されているという――。




