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乙姫の本当の目的

作者: 淺桜雫音
掲載日:2026/08/06

昔々。

浦島太郎は、浜辺でいじめられている亀を助けた。

だが、それは偶然ではなかった。

亀は最初から竜宮城の使いであり、「心優しく、自分より他人を優先する人間」を探していたのだ。

乙姫には、人間には知られてはいけない秘密があった。

竜宮城では永遠に近い時を生きられる代わりに、王家は定期的に人間の寿命を集めなければならなかった。

その器となるのが「玉手箱」。

箱の中には煙など入っていない。

あれは浦島太郎から抜き取られた何百年もの寿命そのものだった。

太郎が竜宮城で「三日」と思って過ごした時間。

その間、現実で数百年が流れたのではない。

竜宮城が、太郎の未来の時間を少しずつ吸い上げていたのだ。

乙姫は優しく笑い、ごちそうを振る舞い、夢のような毎日を見せ続けた。

それは太郎を幸せにするためではない。

寿命を奪っていることに気づかせないためだった。

やがて寿命をすべて吸い終えた乙姫は、静かに微笑んで言った。

「お帰りになるのですね。」

そして、一つの玉手箱を差し出す。

「決して開けてはいけません。」

その言葉の本当の意味は、呪いではなかった。

箱を開けた瞬間、奪われた時間が持ち主へ一気に戻るという意味だった。

村へ帰った太郎を待っていたのは、誰一人知る者のいない世界。

家族も友人も、とっくにこの世を去っていた。

絶望した太郎は、約束を破り、玉手箱を開ける。

白い煙が空へ舞い上がる。

それは煙ではない。

太郎から奪われていた人生そのものだった。

煙が身体へ戻った瞬間、何百年もの歳月が一瞬で太郎を襲う。

黒髪は白く染まり、肌は深いしわに覆われ、身体は朽ちるように老いていく。

遠い海の底。

乙姫はその光景を静かに見つめ、小さく微笑んだ。

「これで、竜宮城はまた数百年、生き永らえる。」

浜辺には再び、一匹の小さな亀が現れる。

次の"優しい人"を探すために。

──そして現代。

その浜辺には、一つの都市伝説が語り継がれている。

「亀を助けた者は、二度と帰ってこない。」

今でも、ときおり海辺で人が忽然と姿を消すという。

誰もが事故だと思っている。

しかし、その直前には必ず、一匹の小さな亀が目撃されているという――。

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