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黒いサンタクロース

作者: ああかき
掲載日:2026/06/24

 僕は幽霊。

 イタズラ好き♪


 このアパート「かえで荘」205号の元住人だった。

 木下昭雄きしたあきお確かそんな名前だった様な…

 何で死んだのか、どうしてこのボロアパートから抜け出せないのか解らないが、そんな事はどうでもいい。


 今僕は最高に楽しくて仕方が無いのだから…


 その楽しい事は何日か置きにやってくる。

 205号の借り手が引っ越してくるのだ。


 それを脅かす。


 最初は、蛇口をひねって水を出してみたり、電燈をつけたり消したり…

 幽霊が蛇口をひねったり点灯消灯?


 不思議に思うかもしれないが、何故か念じると出来ちゃう。

 初めてこれに気付いた時は発明だって思ったね。


 で、引っ越してきた住人が徐々に不信感を高めつつ迎えた夜…

 寝ている足を引っ張られた時の顔や驚きようったらもう…


 最高に楽しい!!

 次はどんな方法で…と日々考えるのが日課となっていた。

 生前の事など忘れてしまう訳だ。


 しかし、ある時を境にピタリと借り手が来なくなった…

 ガス栓は閉められ、水道も出ない。


 折角フライパンを持ち上げたり出来る様になったって言うのに…

 これじゃ、必殺ポルターガイストふらいぱん作戦が試せないじゃないか…


 だが、蜘蛛の巣が張って、ほこりが積もりに積もって部屋の風景と同化して目立たなくなった頃、流石さすがの僕も何かおかしいと気付く…


 廃墟?


「出るぞ出るぞの、かえで荘って噂もあるけど?」

「いやですね~そんな噂信じてるんですか?嘘かまことか住んでみたら解りますって!!そんなのデマだったってお客さんに言って貰えたら、そんな迷信消えると思いますがね。今時この値段で、この場所はそうそう借りれませんよ!!駅だって近いし…ね?決めちゃいましょう!!」


 いつかの見学客と、不動産屋の会話が蘇る。

 何回冬を越したろうか…憶えてない。


 そのくらい前の話だ…


 それから何度か四季を数えつつ、待ってみたがやはり、人が来る気配は無い…

 外に出よう。そう考え、試みるが、動こうにも、この部屋自体から離れられない…



 そんなある日、


 パリン!!と音がして、誰かが入ってきた。

 季節はずれの黒いサンタクロース…

 そんな感じの薄汚い格好の髭オヤジだった。


 伸ばし放題の、まだ黒いところの残る白黒の髭に埋もれた口を動かしながらオヤジは言った。


「やや…!!!…先客が居たんかい」


 !!!見えてる?


 僕を見ながら言うオヤジにびっくりした。


(あ、あの…)


 僕に声は無い。

 念とでもいうべき…


「あぁ、わかっとる。しかし、見つかった時は、この部屋が一番逃げやすいんでの、堪忍じゃ若いの…」


 何から逃げるんだよ。

 警察か?


 言いかけた僕の声?を遮る様に髭オヤジは、持っていた紙袋から何やら取り出す。

 弁当だ…1,2,3…取り出されたのはコンビニの弁当7個。どれも幕の内弁当。


「喰え!!」


 髭オヤジが言うが、僕は…


「ん?何じゃ、賞味期限を気にしてるんか!!」


 オヤジの腕時計で確認すると、

 た、確かに昨日で期限切れ…


「バカじゃのう…」


 唖然とする僕を尻目に、オヤジは次々と期限切れの弁当を口に放り込み満足そうな笑みを浮かべる。


「ぷはぁ…うま…げぷっ」


 呆気に取られて見ていると、


「何じゃ陰気そうな面浮かべおって…」


 いや、そうじゃなくて…


(僕、幽霊なんですけど…)

 伝わるかどうか不安だったが、そう念じてみる。


 すると、呆気にとられて丸く見開いた目で僕をジーッとみる髭オヤジ。


「ぷはぁ~~っはは!!こいつはいい!!お前が幽霊!!!ひぃっく、苦しい…」


 突然大声で笑い出す。し、失礼な!!!

(何がおかしい!)


「だ、だってよぉ…こ、こんな陰気そうな面した、いかにも幽霊ですみたいな奴が、ほ、本当に幽霊だったなんてよぉ…ヒィッヒヒヒ…」


 笑いは続く…しかし、これがある感情を誤魔化す為の笑いだったと後で知った。

 曽我治朗そがじろう…それが髭オヤジの名だ。


 笑い終わった後、何でお前はココに居るんだ?と聞かれたが、解らない。離れられないから居るんだと答えると、


「自縛霊か…」

 と言った。続く言葉に驚愕する。


「お前…何か未練とかあるんじゃないのか?」

 未練?考えた事も無かった…


「解らんか?」

 コクリと頷くと、


「よぉ~~っし、思い出せるだけ思い出せ」

 髭オヤジがそう言ったが、今まで思い出せないものを思いだせるはずも無く、月日だけが過ぎていく。


 結局記憶など一片も出てくる事無く髭オヤジの白黒だった髭が白一色になっただけだった…

 その間、何故か、この「かえで荘」に僕と髭オヤジは一緒に住むようになっていた。


 事業に失敗した会社からリストラされた事。

 何とか家族を養う為に仕事先を探したが、どれも上手くいかず、とうとうギャンブルに手をだし借金。愛想をつかした家族に逃げられ、何もかも嫌になって今の様な無宿者に…


 髭オヤジは僕にそういった話をした。

 暗い話のはずだが、嬉しそうに面白おかしく話すオヤジについ笑みがこぼれる。


 実際この髭オヤジは面白かった。

 日々、弁当をあさりに行ったついでに読む新聞で得た知識を身振り手振りまで交えて話してくれた。

 それまで感じていた孤独感は一瞬で消え去る。

 いつの間にか毎日、髭オヤジの帰りを楽しみに待つ僕が居た。



 そんなある日。


「きょ、今日こそ手がかりを見つけるぞい」

 そう言ってオヤジは笑顔を見せながら出て行く。

 手がかりとは僕の死因や記憶についてだ。


(またまた~弁当を漁りに行くだけだろう?)

 そう言って僕はいつもの様に茶化す。

 背中越しに手を振って応えるオヤジ…辛そうな顔は髭と帽子に覆われて気付いてやれなかった。


 それが髭オヤジを見た最後だった。


 いつもなら日が沈んで暗くなったら戻るのに、待てど暮らせど帰っては来なかった。


「今日も大漁だったぜ」

 そう言いながら、割れた窓から紙袋一杯に期限切れの弁当を持って入ってくる髭オヤジを僕はいつまでも待ち続けたんだ…


 そして、何度目かの冬…そいつは戻ってきた。

 白いモヤの様なものが僕の前に現れる。

 モヤは次第に広がっていき…人の様な形になる。


 それは見覚えのある、黒いサンタクロース…待ちわびた姿…


 ????

 しかし、帽子を上げ出てきた顔は、僕と同じ中学生くらいの男の子…髭もない。


(だ、誰…??)

 僕は訪ねる…訪ねながら知っている様な違和感を感じていた。


(曽我治朗…黒いサンタの髭オヤジ…さ)

 真剣な顔で見つめてくる髭オヤジだという男の子…


(今日も大漁だったぜ)

 戸惑う僕の心を見透かす様に待ちわびた台詞を言う。


(あ…あぁ…)

(信じてくれたかい…)


 首を振り、答えつつ、でも、どうして若いのかと聞いた。


(幽霊は生前、一番思い入れの深い頃の姿になれるのさ…)

 当たり前の様に答える治朗…その顔を見ながら僕はまた、違和感を覚える。何だ?


(やっと…思い出してもらえるようだね…)

 治朗の言葉の意味ががわからない…


 思い出す?何を思い出すんだ?

(曽我っていうのは、親が離婚してからの名だ。君と同じ木下…木下治朗だったと言えばわかるかな?)


 益々困惑を浮かべる僕に、

(同じ木下でも大違いだ!!ドンケツ!!びりッケツだもんな!!お前がそんなんだから、僕まで殴られる!!お前なんか死んじまえ!!)


 ガァアアン!!!と響く治朗の台詞…


 何と、それは中学の頃、僕と同じ木下って名前ってだけで、事あるごとにイジメられるんだと、逆らえない悪ガキ達の代わりに僕に突っかかってきたイジメっ子の言葉だった…


 僕をイジメていた、あの木下治朗?

 それが、黒いサンタだって?


 直ぐには受け止めがたい事実だったが、僕の中を駆け巡る記憶の中に、目の前で申し訳無さそうに僕を見ている顔があった…


(じ、治朗くん?)


(そうだよ…)


 目の前の人物…幽霊が何者であるか受け止めながら、僕の中にある記憶が蘇る…


 僕らが今居るこの部屋に、かつてあった机の上で僕は一生懸命何かを書いている。

 そして洗面所に行き包丁を取り出して手首を切りつける。


 流れる水道と血液…

 僕は眠る様に逝った…


 バイトを終えて帰宅した母が、探している。

 僕を見つけ、叫ぶ母…

 そばに置いたメモには、


”僕が死んだら満足ですか…”


 とだけ書かれていた。


(本当に死ぬなんて…思ってなかった…)

 治朗が言ってくる…あれから何年経ったんだろう…


(僕が君にあんな事を言ったから…)

 治朗の言葉が僕を死に追いやったのか…


(ずーっと、このアパートを見るたびに胸が苦しかった…)

 治朗の幽体が歪む。

(あの日、炎が見えた。青白い炎が…だから僕は窓を割って入った…そしたら、お前が居るじゃないか…)


 遠い目をする治朗。

(知らない振りをしたのは、信じられなかったのと、怖かったから…)


 怖い?怪訝な顔を向ける僕に言葉を続ける。

(お前が幽霊だってわかってた…でも、嘘だろう?って…でも、夢じゃなかった…もし僕だと解ったら呪い殺されるんじゃないか…そう思って怖かった…)


(だったら…)

 僕は昂ぶってくる気持ちを抑えながら言った…

(何で僕の傍を離れなかった…どうして戻ってきてた…)


 そうだ。自分を呪い殺すかもしれない奴の元へ、ノンキに戻ってくる必要など有るのか…何年も!!

 逡巡しゅんじゅんする様な様子を見せ、考える治朗。


(し、信じてはもらえないかもしれない…)

 やっと思いを伝える治朗。その続きを僕は待つ。


(君に殺されるつもりだった…でも)


 でも?問う様な目を向ける。


(楽しくて…君という存在が楽しくて、言い出せなかった…)

(治朗…)


 思いがけない言葉…僕の恨みの矛先は向ける目標を失おうとしていた。


(友達になれたのに…すまなかった)


 とどめの言葉…心からの改心…

 髭オヤジとの楽しい日々を思い出す…


(ぼ、僕もだ…)

 僕の言葉に、下げた頭を上げる治朗。


(僕も楽しかった!!)

 続く僕の言葉に驚く治朗。


 僕の中のモヤモヤした想いは消えようとしていた。


(い、今からでも遅くないよ…!!)

 声を振り絞った。

(なろう…友達に!!!)


 信じられないという顔をする治朗…

 気付くと僕らの前に光の道が出来ていた。それは空まで続き、僕らの行き先を示していた。


 天の国へと翼を広げ、僕らは旅立った…


                  ~了~

少しでも興味を持ってもらえたら、感想、評価よろしくお願いいたします。

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