常識人、終末世界で頭を抱える
「……信じられない」
拠点のソファに座ったリナは、
到着から三分でこの台詞を吐いた。
「何がだ」
「全部」
即答だった。
非常にクールである。
「まず聞きたいんだけど」
リナは真顔で俺を見る。
「なんでAIが人間の姿してるの?」
「仕様らしい」
「納得できるわけないでしょ」
正論である。
「私は最新型ですから!」
ノアが誇らしげに胸を張る。
「最新型って文明滅んでるのよ?」
「問題ありません!」
「問題しかないわよ」
一切動じない。
完璧な常識人である。
「あと」
リナの視線が部屋を横断する。
妙に快適な空間。
終末世界とは思えない生活感。
「なんでここだけ異常に住みやすいの?」
「ナノマシン」
「便利すぎない?」
「便利すぎる」
「おかしいと思わないの?」
「最近思わなくなった」
「慣れって怖いわね……」
ノアがぴょんと割り込む。
「リナさんもここに住めますよ!」
「住まないわよ」
間髪入れない拒否。
ノアが固まる。
「えっ」
「えっじゃない」
「だって怪しいじゃない」
リナは淡々と続ける。
「人型AIがいて」
「はい!」
「内部がピンクの拠点で」
「それは事故です!」
「キッチンが爆発していて」
「不可抗力です!」
「どう信じろっていうのよ」
完璧な論破だった。
「……ぐうの音も出ないな」
「出ないですね」
なぜかノアが同意する。
お前の話だ。
その時。
「お茶を淹れ直しました!」
「嫌な予感しかしない」
リナが即座に警戒する。
正しい判断である。
「どうぞ!」
見た目は普通。
非常に普通。
リナが慎重に飲む。
「…………」
沈黙。
「……今度は苦いんだけど」
「健康仕様です!」
「極端すぎない!?」
「最適化しました!」
「基準どうなってるの!?」
リナは深くため息をついた。
そして静かに断言する。
「このAI、絶対ポンコツでしょ」
「違います!」
「違いませんね」
「マスター!?」
「高性能なのは事実なんだがな」
「余計にタチ悪いじゃない……」
リナが額を押さえる。
非常に頭痛が似合うポジションである。
「……で」
リナは改めて周囲を見る。
少しだけトーンが落ちる。
「ここ、本当に安全なの?」
「今のところはな」
「敵とか、いないの?」
「ほぼ見ない」
終末世界らしからぬ会話である。
「……変な場所」
ぽつりと呟く。
だが声色は少しだけ柔らかかった。
「でも」
窓の外を見る。
静かな空。
穏やかな風。
「……悪くはないわね」
ノアが目を輝かせる。
「ですよね!?」
「調子に乗らないで」
「えっ」
「えっじゃない」
こうして。
拠点に、
まともな常識人が加わった。
ただし。
「……なんで床に穴あるのよ」
「旧防衛機構です!」
「落とし穴よねそれ」
「高度なセキュリティです!」
「ただの罠でしょ」
「違います!」
「違わないわよ」
今日も拠点は平和だった。
主に騒がしい意味で。




