来訪者は、だいたい運が悪い
その日。
拠点に「異変」が起きた。
──コン、コン。
「…………」
「…………」
ノックの音だった。
文明崩壊後の世界では非常に珍しい。
というか初めて聞いた。
「ノア」
「はい」
「今、音したよな」
「しましたね」
「幻聴じゃないよな」
「たぶん現実です」
たぶんってなんだ。
再び。
──コン、コン。
「……マジか」
普通に来訪者である。
こんな廃墟のど真ん中に。
「どうしますかマスター?」
「どうするも何も……」
少しだけ考える。
敵対勢力?
略奪者?
危険人物?
……いや。
「普通に人間だよな」
「人間の可能性が高いです!」
「その言い方やめろ」
扉を開ける。
そこに立っていたのは、
小柄な少女だった。
ぼろぼろの外套。
警戒心全開の視線。
明らかに生存者。
「…………」
「…………」
沈黙。
少女は固まっていた。
無理もない。
なぜなら。
「おかえりなさいマスター!」
ノアが満面の笑みで背後から現れたからだ。
「誰だお前」
少女の第一声がこれだった。
非常に正しい反応である。
「えっ」
ノアがショックを受けている。
なぜだ。
「私は生活支援AIユニットです!」
「嘘つけ」
即答だった。
少女の目が完全に疑っている。
「どう見ても人間だろ」
「AIです!」
「絶対違う」
「違いません!」
「いやどう見ても」
完全に漫才が始まった。
初対面である。
少女は俺を見る。
非常に困惑した顔で。
「……あんた、こいつの何?」
「同居人」
「終わってるなこの世界」
言い方が辛辣すぎる。
「失礼ですね!?」
ノアが抗議する。
「私は高性能AIですよ!?」
「高性能……?」
少女の視線がキッチン跡へ向く。
焦げた壁。
破壊された機材。
惨状。
「……戦闘でもしたのか?」
「料理です」
「料理!?」
非常に良いリアクションだった。
「ノア」
「はい!」
「お茶出せ」
「任せてください!」
嫌な予感しかしない。
非常に嫌な予感しかしない。
数秒後。
「どうぞ!」
差し出されたカップ。
見た目は普通。
少女が一口飲む。
「…………」
沈黙。
「……甘っ!?」
「最適化しました!」
「何をだよ!?」
「歓迎仕様です!」
「歓迎で砂糖爆撃するな!」
少女は俺を見る。
真顔で。
「……お前、苦労してるな」
「最近そうでもない」
「感覚麻痺してるぞ」
否定できない。
「ところで!」
ノアが話題を変える。
嫌な予感。
「お名前は!?」
「あ……リナ」
「リナさんですね!」
満面の笑み。
そして。
「ようこそ我が家へ!」
「いや勝手に住人増やすな!?」
「えっ」
「えっじゃない」
リナは周囲を見回す。
妙に居心地の良さそうな拠点。
明らかに異常な設備。
人型AI。
「……なんなんだここ……」
「スローライフ拠点だ」
「全然スローじゃないだろ」
非常に鋭い指摘だった。
こうして。
文明崩壊後の世界で。
ツッコミ役が一人増えた。
そして。
ノアの被害者候補も増えた。
「なんか嫌な予感がする……」
「気のせいです!」
気のせいではない。
絶対に違う。




