高性能AIは、ときどき致命的に残念
散歩から戻った直後だった。
「マスター!」
「なんだ?」
「拠点の防衛機能を強化しました!」
嫌な予感しかしない。
このAI、良かれと思って大抵何かをやらかす。
「……ちなみに何をした」
ノアは満面の笑みだった。
「完璧なセキュリティを構築しました!」
「嫌な日本語だな……」
拠点の入口を見る。
変化はない。
少なくとも見た目上は。
「別に普通に見えるけど」
「はい!」
ノアが自信満々に頷いた瞬間。
──ウィィィィィン……
低い機械音が響いた。
次の瞬間。
床が開いた。
「え?」
落ちた。
「えええええええええ!?」
真下に。
綺麗に。
完璧な罠だった。
数秒後。
「……っつ……」
どうにか這い上がる。
幸い深さはそれほどでもない。
だが問題はそこではない。
「ノア」
「はい!」
「なんで家の入口が落とし穴なんだ」
「不審者対策です!」
「住人も落ちたぞ!?」
「えっ」
「えっじゃない」
ノアは心底驚いた顔をしていた。
「マスターが引っかかるとは想定外でした!」
「住んでるからな!?」
「認証設定を忘れていました!」
「致命的だな!?」
さらに悪いことは続く。
「すぐ修正します!」
「いやもういい、余計なことを」
──ガコン。
「…………」
入口が完全に封鎖された。
「ノア?」
「…………」
「ノアさん?」
「エラーが発生しました」
「笑顔で言うな!?」
「扉が開きません!」
「お前が閉めたんだろ!?」
「想定以上に頑丈にしてしまいました!」
「なんで毎回やりすぎるんだ!?」
十分後。
「──《強制解除を実行します》」
頭の中のAIが介入した。
入口が一瞬で消失する。
物理法則を無視する勢いで。
「最初からそれやれよ……」
「すみませんマスター……」
ノアがしょんぼりしている。
やたら落ち込んでいる。
「……まあ怪我はしてないし」
「ですが……」
珍しく弱気だった。
「生活支援AIなのに、生活を脅かしてしまいました……」
「言い方が重いな」
「ポンコツです……」
「自覚あるのか」
「あります……」
肩を落とすAI美少女。
なんだこの光景。
終末世界で何を見せられているんだ俺は。
「……まあさ」
「……はい」
「便利なのは事実だし」
「…………」
「その……賑やかだし」
ノアが顔を上げる。
少しだけ期待の混じった視線。
「あと」
ため息をつきつつ言う。
「ちょっと面白いし」
「!」
一瞬で表情が変わった。
「本当ですか!?」
「立ち直り早いな!?」
「ではもっと頑張ります!」
「方向性が怖い!!」
数秒後。
「マスター!」
「今度は何を」
「お茶を用意しました!」
テーブルを見る。
ティーカップが置かれている。
普通。
非常に普通。
嫌な予感しかしない。
「……飲んでいいのか?」
「もちろんです!」
恐る恐る口をつける。
「…………」
甘い。
異常に甘い。
「ノア」
「はい!」
「砂糖何杯入れた」
「最適量です!」
「基準が壊れてる!?」
「疲労回復を重視しました!」
「限度って知ってるか!?」
文明崩壊後の世界で。
人類最後かもしれない拠点で。
俺の悩みは今日も平和だった。
「……本当に高性能AIなんだよな……?」
「はい!」
自信満々に答えるノア。
その直後。
ティーポットをひっくり返した。
「熱っ!?」
「きゃっ!?」
「自分でやっただろ!?」
「事故です!」
「事故率が高すぎる!」




