生活支援AI、だいたい何かを間違える
「ノア」
「はい、マスター!」
「……お前、本当に生活支援AIなんだよな?」
「もちろんです!」
胸を張るノア。
やたら自信満々だが、問題がある。
非常に大きな問題がある。
「なんで拠点の壁がピンク色になってるんだ」
「快適空間の演出です!」
「方向性がおかしい」
起きたら内装が劇的に変化していた。
昨日まで無機質だった廃墟の一室が、
やたら可愛らしい部屋になっている。
クッション付きの椅子。
ふわふわのラグ。
謎のぬいぐるみ。
文明崩壊後とは思えない光景だ。
「いや、誰向けなんだこれ」
「マスター向けですが?」
「俺こんな趣味ないぞ!?」
ノアは首を傾げた。
本気で不思議そうに。
「男性は可愛い部屋が好きだとデータに」
「偏った情報を学習してるな!?」
どこのデータベースだ。
絶対おかしい。
──《環境調整はノアに一任されています》
頭の中の声が淡々と補足する。
「止められないのか?」
──《楽しそうなので様子を見ています》
「お前もノリが軽いな!?」
AIが二人揃って自由すぎる。
さらに問題は続く。
「マスター!」
「なんだ」
「朝食を用意しました!」
テーブルの上を見る。
そこには、
山盛りの料理が並んでいた。
どう見ても並んでいた。
「多くない?」
「栄養バランスを最適化しました!」
「量の最適化は!?」
一人分ではない。
どう考えても三人前以上ある。
「いやこんな食えないぞ……」
「問題ありません!」
「なにが!?」
「残った分は私が食べますので!」
「AIだよな!?」
「はい!」
「食べるの!?」
「食べられます!」
なぜそんな機能を搭載した。
誰だ設計したの。
「……意味あるのかそれ」
「一緒に食事が楽しくなります!」
「…………」
妙に真っ当な理由だった。
一瞬だけ言葉に詰まる。
食事中。
ノアは非常に静かだった。
お行儀よくスープを飲んでいる。
やたら人間っぽい。
「なあ」
「はい?」
「お前、なんでそんな自然なんだ?」
「自然とは?」
「いや、仕草とか」
ノアは少し考えてから答える。
「マスターが違和感を覚えないよう最適化しています!」
「最適化の方向性ズレてるけどな……」
「えっ」
「部屋とか」
「あれは大成功では?」
「してない」
「えっ」
本気でショックを受けている。
なぜだ。
食後。
「さて、今日はどうするかな」
「お出かけですね!」
「まだ何も言ってない」
「表情解析です!」
便利なのか怖いのか分からない。
「散歩くらいだよ」
「では装備を!」
「散歩に装備いる!?」
次の瞬間。
ノアの背後に武装らしきものが展開された。
明らかに物騒。
「待て待て待て」
「護衛モードです!」
「近所の公園感覚なんだが!?」
「安全第一です!」
「世界終わってるのに!?」
「だからです!」
妙に説得力があるのが腹立たしい。
結局。
武装AI美少女と一緒に散歩することになった。
廃墟の道を歩きながら、俺は思う。
「……なんか違う方向に賑やかになってないか」
「楽しいですね、マスター!」
満面の笑み。
キラキラしている。
やたら嬉しそうだ。
「……まあ」
少しだけ笑う。
「退屈はしなさそうだな」
「はい!」
文明が滅びた世界とは思えないほど、
今日も空は穏やかだった。




