常識人、ついに理解を放棄する
「……意味が分からない」
エリシアは庭を見て呟いた。
非常に小さな声。
だが確かな困惑。
「何がだ?」
俺はいつもの調子で聞く。
「全部です」
即答だった。
視線の先。
湖。
噴水。
異常に快適な建築。
終末世界とは思えない光景。
「世紀末ですよね、ここ」
「世紀末だな」
「世紀末ね」
「世紀末だな」
「なぜ高級別荘のような拠点が?」
「ノア基準だ」
「説明になっていません」
正論である。
ノアは満面の笑み。
「快適仕様です!」
「規模の問題です」
即座に否定される。
「まず水資源」
エリシアが冷静に指摘する。
「この世界で最重要資源のはず」
「まあな」
「なのに湖」
「湖だな」
「湖ね」
「噴水まであります」
「あります!」
「なぜ強調するのですか」
エリシアのこめかみがわずかに動く。
非常に珍しい表情変化。
「理解不能です」
「慣れるぞ」
「慣れたくありません」
その時。
──ガコン。
「「「…………」」」
ガルド落下。
「なぜ地面が開くのですか」
「旧式です!」
「撤去対象でしょう」
「ロマンがあります!」
「ありません」
完全論破。
「罠ですよね」
「高度なセキュリティです!」
「ただの落とし穴です」
「違います!」
「違いません」
エリシアのツッコミ性能が非常に高い。
優秀である。
「……それで」
エリシアが建物を見る。
「なぜ建築物が瞬時に増えるのですか」
「便利ですので!」
「物理法則を無視しています」
「最適化です!」
「便利ワードで押し切らないでください」
さらに。
「なぜ風呂が巨大なのですか」
「癒しです!」
「前線基地より豪華です」
「素晴らしいですね!」
「意味が分かりません」
ついに。
「……結論」
エリシアが深く息を吐く。
「この拠点」
一拍。
「存在自体が異常です」
満場一致。
「正しい」
「正しいわね」
「正しいな」
「えっ」
ノアだけが不満顔。
「高評価では?」
「違う」
「違うわね」
「違うな」
エリシアは遠い目をした。
終末世界の精鋭護衛官。
数多の修羅場を潜った戦士。
だが。
「……任務報告に何と書けば……」
誰も答えられなかった。
拠点は今日も平和だった。
主に世界観だけが崩壊していた。




