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文明が滅びた近未来で、俺の万能ナノマシンが便利すぎて静かに暮らせない  作者: 月灯り庵


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3/35

はじめての同居人は、だいぶ騒がしい

拠点での生活は、驚くほど順調だった。


壁は崩れない。

水は浄化できる。

食料はナノマシンがどうにかする。


あまりにも平和すぎて、少し不安になるほどだ。


「……平和すぎないか、この世界」


──《平和は良いことです》


「まあ、そうなんだけどさ」


朝食代わりのスープを飲みながら、ぼんやりと天井を見上げる。


崩壊後の世界にしては、あまりにも静かだった。


その時。


──《マスター》


「ん?」


──《未使用の補助ユニットを検出しました》


「未使用?」


スプーンを止める。


そんなものがあった覚えはない。


──《旧研究施設のバックアップ領域に格納されています》


──《起動しますか?》


少しだけ考える。


危険?

罠?

暴走兵器?


……いや。


「まあ、お前が管理してたなら大丈夫か」


──《信頼を確認しました》


──《起動処理を開始します》


次の瞬間。


部屋の中央に、光の粒子が集まり始めた。


ナノマシン特有の発光現象。

見慣れているはずなのに、規模が少し違う。


「……おい、なんかすごくないか?」


──《演出です》


「演出なの!?」


光が渦を巻き、徐々に人の形を取っていく。


細い輪郭。

揺れる髪。

小さな身体。


そして。


「…………え?」


そこに立っていたのは、


どう見ても。


完全に。


美少女だった。


銀色に近い淡い髪。

機械的な光を宿した瞳。

どこか現実離れした整った顔立ち。


近未来的な白い衣装。


「……誰?」


思わず素の声が出る。


少女はゆっくりと瞬きをして、


にこりと笑った。


「はじめまして、マスター!」


やたら元気だった。


「えっ」


「私は生活支援用統合AIユニット、《ノア》です!」


「いや待て待て待て」


情報量が多い。


「なんで人型!?!?」


「その方が親しみやすいと判断されました!」


「誰に!?」


「開発チームにです!」


それ、たぶん俺の同僚だ。


絶対あいつらだ。


「……いやでもさ」


混乱しながらも、どうにか言葉を絞り出す。


「AIって、画面とかホログラムとかじゃないの?」


ノアは胸を張る。


やたら誇らしげに。


「最新型ですので!」


「いや文明滅んでるんだけど!?」


「問題ありません!」


何が問題ないのか全く分からない。


──《補足します》


頭の中のいつもの声が割り込む。


──《ナノマシンによる疑似物質構築体です》


「つまり?」


──《触れます》


「触れるの!?」


ノアがすっと距離を詰めてきた。


近い。


近い近い。


「マスター!」


「な、なんだよ」


「今後ともよろしくお願いしますね!」


満面の笑み。


距離感ゼロ。


そして。


ぎゅっ。


「…………」


腕に抱きつかれた。


「え」


普通に柔らかい。


温度もある。


意味が分からない。


「お前……AIだよな?」


「はい!」


「なんでそんな人間っぽいの?」


「仕様です!」


元気よく言い切られた。


「…………」


しばらく沈黙。


そして俺は結論を出した。


「……まあいいか」


「いいんですか!?」


「どうせ世界終わってるし」


「基準が雑すぎません!?」


こうして。


文明崩壊後の世界でのスローライフは、


妙に騒がしい同居人を迎えることになった。


──《賑やかになりますね》


「お前が言うな」


静かな世界は終わった。


たぶん悪い意味ではなく。

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