帰らないという選択肢
「……なあ」
来訪者の男が真顔で言った。
「なんだ」
「ここ……本当に住めるのか?」
非常に切実な問いである。
「住めるぞ」
「住んでるし」
リナが淡々と補足する。
男たちは再び拠点を見回す。
綺麗すぎる建物。
整いすぎた設備。
異様に平和な空気。
終末世界の光景ではない。
「……信じられん……」
「夢みたいだ……」
「疑う気持ちは分かる」
「分かるけど現実なのよね……」
「どうぞお茶です!」
「やめなさい」
リナ即阻止。
ノア固まる。
「なんで止めるんですか!?」
「被害を出さないためよ」
「失礼ですね!?」
「事実でしょ」
完全に論破である。
男の一人がぽつりと呟く。
「……なあ」
「ん?」
「ここ……安全なんだよな?」
「今のところはな」
「食料も?」
「ある」
「風呂も?」
「ある」
「……天国か?」
「違う」
しばらくの沈黙。
そして。
「「……しばらく世話になってもいいか?」」
「は?」
リナの声が完全に素だった。
珍しくクール崩壊。
「帰らないの!?」
「いやだって……」
男が困惑気味に言う。
「こんな場所見つけて帰れるか!?」
「正論だけど!!」
「外より明らかに生存率高いだろ!?」
「それはそうだけど!!」
「飯も寝床も風呂もあるんだぞ!?」
「なんで風呂にそんな感動してるのよ!?」
ノアは大喜びだった。
「新しい住人ですね!」
「勝手に増やすな」
「歓迎します!」
「待ちなさい」
リナの制止も虚しく。
──ピキィィィン……
嫌な発光。
非常に嫌な発光。
「ノア?」
「部屋を増設しました!」
「早すぎる!!」
拠点の横に建物出現。
一瞬で。
もはや驚かない主人公。
慣れって怖い。
男たち唖然。
「「なにこれ!?」」
「宿泊施設です!」
「ホテルみたいなノリで言うな!!」
「快適ですよ!」
「だから規模が!!」
男たちは顔を見合わせる。
そして。
「……もうここでいいんじゃないか?」
「……だな」
「……帰る理由ないな」
「決断が軽い!!」
リナのツッコミが鋭く炸裂。
こうして。
終末世界の拠点に、
来訪者が正式に居座った。
非常に自然な流れで。
「……なんでこうなるのよ……」
「賑やかですね!」
「原因はあなたよ」
「えっ」
拠点は今日も平和だった。
主に騒がしい意味で。




