プロローグ
空は、驚くほど青かった。
文明が滅びた世界だと聞けば、灰色の空や毒に満ちた大気を想像するかもしれない。
けれど、俺が目を覚まして最初に見たのは、どこまでも澄み渡った青空だった。
「……ここ、どこだ?」
自分の声がやけに乾いて聞こえる。
ゆっくりと体を起こすと、周囲には見慣れない光景が広がっていた。
ひび割れた道路。崩れかけた高層ビル。蔦に覆われた看板。
都市の残骸。
人の気配はない。
代わりに、風に揺れる草の音だけが静かに耳に届く。
まるで世界から「騒音」だけが綺麗に削り取られたみたいだった。
「……夢じゃ、ないよな」
そう呟いた瞬間。
──《システム起動を確認しました》
頭の中に、機械的でありながら妙に落ち着いた声が響いた。
「……は?」
思わず間抜けな声が出る。
──《おはようございます、マスター》
「誰だ!?」
周囲を見回すが、当然ながら誰もいない。
なのに声は続く。
──《自己診断完了。ナノマシン群、正常稼働中です》
「ナノ……マシン……?」
その言葉を聞いた瞬間、かすかに記憶が蘇る。
研究所。冷凍睡眠。実験。
そして、俺が開発に関わっていた技術。
「まさか……俺の?」
──《はい。あなた専用に最適化された補助ユニットです》
少しだけ、間を置いて。
──《世界はすでに旧文明を失っています》
あまりにもさらっと、とんでもないことを告げられた。
けれど不思議と、絶望より先に出てきた感情は。
「……それで、お前は何ができるんだ?」
だった。
──《生活支援、環境適応、物質補助生成など》
──《要するに、だいたい何でも可能です》
「……便利すぎないか?」
──《快適な生活を保証します》
その瞬間、腹が鳴った。
盛大に。
静まり返った廃墟に、やたらと元気な音が響く。
「…………」
──《まずは食事にしましょう》
「……頼む」
文明が終わった世界での最初の会話がこれでいいのかと、一瞬だけ思ったが。
青い空は相変わらず綺麗で。
風は穏やかで。
世界の終わりにしては、妙にのどかだった。
悪くないかもしれない。
そんなことを思ってしまった自分に、少しだけ笑った。




