幕間①
二人の少女は、街を歩いていた。
特に行き先があるわけでもなく、周囲の景色も見慣れたものばかりだ。
ただ、気の向くままに歩いているだけだった。
人目を避けるため、クレアは公女殿下に簡単な変装を施していた。
白髪をまとめ、ゆったりした白い帽子を被せ、黒いコートを羽織らせる。
それだけのことだが、それでも雰囲気はずいぶん変わる。
一方のクレア自身は、襟付きの黒いセーターに、白いサスペンダースカートという装いだった。
二人はテムズ川に架かる橋の欄干に寄りかかり、少し離れた場所に見えるウェストミンスター宮殿を静かに眺めている。
聞こえるのは、ときおり吹き抜ける風の音だけだった。
「……不安?」
沈黙を破ったのは、クレアだった。
この橋に来るまで、白髪の少女はKANATAのことを語り続けていた。
最初は興奮を帯びた声だったのに、次第に小さくなり、最後には言葉そのものが途切れてしまった。
今の彼女は、右手を欄干に置いたまま、テムズ川を行き交う船をじっと見つめている。
「……まったくない、って言ったら嘘になるわね」
イリサは一度、大きく息を吸った。
まだ何か言いたそうだったが、唇がわずかに震えるだけで、言葉にはならなかった。
「大丈夫よ」
クレアは、空いていたイリサの左手をそっと取る。
「私が一緒に行くんだから」
「……ふぅ」
白髪の少女は、肩の力が抜けたように息を吐いた。
遠くの水面を見つめながら、かすかに笑みを浮かべる。
それは一瞬のことだったが、クレアには確かに分かった。
そして、差し出した自分の右手が、今は強く、確かに握り返されていることにも。




