01.始まり
「――そういうわけで今からおよそ600年前、かの悪しき魔王は勇者レグナスによって滅ぼされたというわけじゃな」
神父の話に、俺の親友フィル・グレイは目を輝かせて耳を傾けている。話し終え、満足そうな顔を見ると、紙芝居もそろそろ終わりだろう。
そう思い、席を立とうとすると、神父は俺の体の一回りほど大きい使い古されたカバンをごそごそしだした。おそらく、次の話の準備をしているのだろう。
朝の光が差し込む教会で、太陽の温かさを感じながらも、長時間の集中で背中が少し痛んでいる。
「神父様。俺達これから森の見回りがあるので....」
楽しそうに紙芝居を続ける神父に、言いづらくも口を開く。
「ほっほっほっ。お前達、元気でいいのう。外は寒いじゃろうから、このマフラーを着ていきなさい」
ふたりとも神父から赤色のマフラーを受け取り、フィルが一礼する。
「ありがとうございます」
合わせるように俺もお辞儀した。
教会を出てすぐにフィルがむっとした表情をしてこちらを向いた。
「カイ、僕達今日見回りの当番じゃないだろ。話をもっと聞きたかったのに...神父様のお話によれば、嘘つきは楽に死ねないらしいぞ」
「俺は今までの嘘とこれからつく嘘、その何倍もいい事をしてチャラにするのさっ」
二人で笑いながら、森へ続くでこぼこ道を軽い足取りで進む。普段の大人なら息切れしそうな道も、森で遊び慣れた俺たちには平気だ。
村の出口に着くと、俺はタイミングを見計らってフィルに向き直った。
「いつもの場所まで競争だ! 負けたら夕飯半分もらうぜ」
言い終わらないうちに、俺は全力で駆け出した。
「ずるいぞ」
少し出遅れたフィルが叫ぶ。俺は振り返らずぐんぐん距離を離していく。少しずるいかもしれないが仕方ない。今まで百回以上この勝負をしてきて勝ち星ゼロの俺は手段を選ばない。
葉で太陽光が遮断され、森の中は昼間にもかかわらず薄暗かった。走ることに必死で気づかなかったが、足を止めた瞬間、違和感が胸を刺す。
――静かすぎる。
風がない。鳥の声もしない。
普段なら必ず耳に入るはずの音が、まるで最初から存在しなかったかのように消えている。
「少しは、鳥や狐の鳴き声が聞こえるはずだけど……」
そう呟いた直後だった。眼前に黒い物体が出現。反射で身をひねり、かわす。地面が重く揺れ、鈍い衝撃音が弾けた。
突然の出来事に冷や汗をかいたが、すぐ冷静さを取り戻し、真っ黒な物体を見る。
「......ッ!」
そこにいたのは見上げるほど巨大なクマだった。
視界に収まりきらない体躯。こちらを射抜くような眼。森そのものが形を持ったかのような威圧感に、息が詰まる。神々しささえ感じさせるそのたたずまい。
考えるより早く、体が動いた。
背を向け、地面を蹴る。
「グオオオッ!」
空を裂くような叫びに耳鳴りが止まらない。
脳が完全にパニックで足がおぼつかなくなり、気づいたら隆起した木の根に足を取られていた。
やばいやばいやばい
右足に重圧がかかり、骨の砕ける振動が体の内側を通り脳に伝わる。同時に激痛が身体中を駆け巡り、脳を痛みが支配する。体を動かせない。
視界の端で、巨大な影がゆっくりと腕を振り上げるのが見えた。
――終わった
そう思ったところで、意識が闇に沈んだ。
―――波の音がする...波のさざめきが聞こえる。鳥の鳴き声もする。心地の良い風が体を撫で、自分の形を理解してようやく気絶していたことに気づく。
意識を取り戻すと、太陽はもう海の向こうに傾いていた。正面には海が広がっていてそのはるか遠くには『世界樹』が見える。
どうやら目的地まで運ばれたみたいだ。
「また僕の勝ちだね」
声の方向を見ると、横たわった巨大なクマの死体のそばに見慣れた顔があった。
「追いついたと思ったらクマと格闘してるんだから、びっくりしたよ」
「死ぬとこだった。ありがとな『勇者様』」
「よしてくれよ。まだ何も成し遂げてないんだ」
フィルは幼い頃から『魔法』が扱えたし、人より何十倍も力が強かった。それに加え、身体的特徴が伝承の『勇者』に酷似していたため、多くの村人はこの村から勇者が出たことを喜んだ。
魔王は、前魔王が滅ぼされてから数百年ごとに生まれるとされており、その魔王を倒すために勇者がうまれるらしい。
治癒していることに気づかないほど自然に治っている右足を見ながら、改めてフィルの魔法のすごさを認識する。
少しの沈黙が流れたあとフィルが真剣な眼差しでこっちを見る。そして世界樹の方向を指差した。
「僕はいつからか、海をこえたその先から声が聞こえるようになったんだ」
突然の告白に、からかっているのかとも思った。だけど、そんな冗談いわないやつなのは今までの経験でわかってる。フィルは特別な存在なのだから、俺には理解できないようなことでも本当に起きている可能性はあるだろう。
「なんて言ってるんだ?」
「......『こっちにこい』って言ってる」
フィルは本気で悩んでいるかもしれないのに適当なことは言えない。そう思うと言葉に詰まっった。
「大人になったら二人で島を出て世界を冒険しないか?」
普段のフィルからは発せられない気迫に満ちた声。
「僕は勇者だから、魔王を倒しに行かないといけない。それまで、カイと一緒に旅したいんだ」
俺にいかない選択肢はないと思った。
「行こう。」
その言葉のあと、夜空に星が一つ、瞬いた。
小説デビューしました☆
初めての作品で文の書き方などがわからず苦戦しましたが1話書き終えることができました。
語彙力や文章を書く力が乏しいので改善点などがあったら教えてください。
読んでいただきありがとうございます。




