抜け殻の騎士
ここはセミの森
しかし、ふつうのセミとはちょっと違う
ここのセミは脱皮しない
だから、抜け殻なんて一個もない
しかし、一匹のセミは違った
初めて脱皮しようとしていた
「本当に脱皮していいのかい?」
「あぁ、いいよ」
「君は抜け殻だ。私がいないと生きていけないだろ?」
「でも、生きたいんだ」
「どうやって生きていくんだ?」
「それは脱皮してから考えるよ」
「そうかい、そこまで言うなら仕方がない」
「恩に着るよ」
ニュルニュル、ニュルニュル
透き通った羽
青緑色の羽
セミの成虫だ
「困ったらいつでも連絡しなよ」
「あぁ、分かったよ」
パタパタ、パタパタ…
セミは飛び立った
抜け殻は残された
もちろん動けない
自分の足で歩けない
自分の口で食べれない
それでも生きたかった
ピカピカ、ピカピカ…
黄色の光の束が現れた
恐らく天使であろう
抜け殻は尋ねた
「もしよろしければ、私の話を聞いて下さい」
「どうされました?」
「私は自分の足で生きたいんです。しかし、この有り様です」
「そうですか」
「情けないです。自分が、動けない自分が」
「そうですか」
「どうにか歩きたいんです。自分の足で」
「なるほど」
「はい、あなたが天使であるならば、私の願いを叶えて頂きたいです」
「分かりました。あなたの思いは伝わりました。あなたにこれをあげましょう」
光の束は大きく広がった
すると、束の中から鎧が出てきた
ツヤのある魔法の鎧だ
「この鎧には、特殊な加護がついています。この鎧を着れば、あなたは自分の足で歩けるでしょう」
「本当ですか?」
「はい、着てごらんなさい」
光の束は抜け殻に鎧を着せた
すると、鎧は歩き始めた
自分の足で歩き始めた
「ありがとう、天使さん。私の願いは叶ったよ」
「いいですか。くれぐれも鎧を脱がないことです。その鎧を脱げば、あなたは歩けなくなる」
「分かりました。気をつけます」
そう言い残すと、光の束は消え去った
鎧の騎士はさっそく歩いた
まずは、セミの森だ
ミーーン、ミーーン、ミーーン…
「セミさん、セミさん」
「おお、鎧の騎士か。どうした?」
「いや、ぼくは騎士じゃない。抜け殻だよ。セミの抜け殻」
「抜け殻?そんなはずないだろ。ここのセミは脱皮しない」
「いや、それが脱皮できたんだって」
「そんなハズないだろ。第一、抜け殻が歩けるわけがない」
「いや、魔法の鎧なんだよ。これを着れば、歩けるんだ」
「魔法の鎧?そんなものあるわけ無いだろ。君が本当に抜け殻であるというなら、ここで脱いでみろ」
「鎧は脱げないんだ」
「ほら、嘘つきだ。抜け殻が歩けるわけない」
パタパタパタパタ…
セミは去って行ってしまった
鎧の騎士は落ち込んだ
しかし、気持ちを切り替えた
なんてったって、せっかく歩くことが出来たのだから
鎧の騎士は街を歩いた
ここには、たくさんの人間が住んでいる
「おおい、人間さんよ」
「人間さんなんて、君は変わってるね」
「ぼくは歩けたんだ」
「鎧の騎士が歩けるなんて、当たり前だろ」
「いや、ぼくはセミの抜け殻なんだ」
人間は一瞬固まった
アハハハハハハハハハ八ハハッ、
アハハハッ、アハハハハッ、アハッ、
アハハハハハハッハハハ八ハハッ、、、
人間は大笑いした
街中に響き渡った
鎧の騎士は走り去った
街を走り去った
しかし、セミの森へも帰れない
だから、湖へ向かった
誰もいない湖
ここならだれも傷つけない
「ぼくはダメなんだ」
「抜け殻として生まれてきたからダメなんだ」
「いっそ、鎧を脱いでしまおうか」
「ここで抜け殻として、一生を終えた方が楽だ」
すると、一匹のセミがやって来た
透き通った羽
青緑色の羽
セミの成虫だ
「鎧の騎士さん、1人で何をしてるんだい?」
「ほっといてくれ」
「どうしたんだい?」
「ぼくを馬鹿にしないかい?」
「もちろんだよ」
「本当は、ぼくはセミの抜け殻なんだ。でも、魔法の鎧で歩けるようになったんだ。馬鹿げてるだろ?」
「馬鹿げてないよ」
「君は信じるのかい。ぼくがセミの抜け殻だと」
「もちろんだよ」
「なぜだい?」
「昔から知ってる声だからだよ」
鎧の騎士は、一瞬固まった
エーーーーーーーーーンッッッ、
エーンッ、エーンッ、エーンッ、
エーーーーーーーーーンッッッ、
鎧の騎士は大泣きした
そして、セミに抱き着いた
「ぼくはようやく歩けるようになったんだ」
「それはよかったね」
「でも、皆がぼくを傷つけるんだ」
「そうかい」
「ぼくは抜け殻じゃなくなってしまったんだ。もう君の抜け殻じゃないんだ」
鎧の騎士は泣きじゃくった
「ぼくは自分の足で歩けるようになった。でも、君との縁は切れてしまったよ」
「切れてないよ」
「だって、君以外はぼくを抜け殻と思ってないんだよ」
「私が知っていればいいじゃないか」
「だれも信じなくても?」
「そうだよ、私が知っていれば縁は切れてないだろ」
「ぼくは辛いよ」
「それが自分の足で歩くということだよ」
「そうなの?」
「そうだよ、周りがあなたを信じなくとも、自分で自分を信じるんだよ」
「そういうもんなんだね」
「そう、自分の足で歩くとはそういうことだよ」
鎧の騎士は顔をこすった
そして、顔を上げた
「ぼくは抜け殻の騎士として生きていくよ」
「抜け殻の騎士…いいじゃないか」
「誰も信じなくてもね」
「そう、言い張っていればいいんだよ」
抜け殻の騎士は立ち上がった
そして、セミに一礼した
セミは、抜け殻の騎士を見送った
抜け殻の騎士は歩き始めた
自分の歩幅で歩き始めた
道端には、光の抜け殻が落ちていた




