表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

エピローグ

 朗読の練習を終えて、一年生の和奏や彩夏のアナウンス練習を眺めていた。高文連の大会が間近で、今回が初出場になる一年生たちはずっと緊張している様子だった。

「もう少し、お腹から声を。まだ喉でしゃべってるよ」

 和奏の横に腰を落として、そっと言った。めったにアドバイスなんてしてこない二年生の仏頂面の先輩が、突如声をかけてきたので驚いていた。

「分かりました、積森先輩。ありがとうございます」

 今回は別名が「新人戦」だから、主役は一年生たちだ。でも私たち二年生も出場する。練習は毎日だ。本格的に雪が降り積もりだしたから、温度差にも注意だ。喉は大切に。

 部活を終え、みんなはコートを着て帰宅の準備を始めた。私はまだ制服のままだった。デスクトップPCで原稿を書いている森の腕をつつく。

「どうした、ツモリン。帰んないの?」

 私は無言で、折りたたんだコピー用紙を渡す。

「なに?」

 読んで。口の形でそう言う。

 森が首を傾げながら、紙を開く。私はそんな森をガードするように、立ち塞がっていた。

「積森先輩、一緒に帰りましょうよ。麻生でマック寄りません?」

 和奏が親しげに声をかけてくる。

「行く。バスの時間まだだから、ちょっと待ってて。部室閉めて鍵返してくるから」

「はーい。柚月先輩たちとホールにいますね」

 和奏たちがにぎやかに出て行った。

「行くよ、森」

「あ、おう」

 私は先に部室を出る。後を追って、森が来る。三階へ。私の教室。

 誰もいなかった。教室は青く沈んでいた。廊下の灯りが差し込んでいる。外も青い。雪が積もったグラウンドが白い。森が教室に入って灯りを点けた。私は窓際の自分の席まで行く。

 そして、森を振り返って言った。

「よう、魔法使い」

 言うと森が苦笑いをした。

「なんだよ、この『窓際の君が好きな人へ』って」

「私に魔法をかけたくせに」

「何の。笑顔の魔法のことか?」

「違う」

「なんだよ」

「……人を好きになる魔法」

 教室の天井からの白い光を受けて、森はじっとその言葉の意味を考えているようだった。

「そんな魔法、かけたかな」

「ここで、後夜祭の日、かけられたんだ」

 森が歩み寄ってくる。私の席に。外を見る。ポプラの木は葉を落とし、グラウンドは雪景色。街路灯がオレンジ色に雪道を照らしている。

「私も、好きだよ。森のこと」

 視線を森に向けて、私は言った。瞬間的に耳と頬が熱くなった。

「ずいぶん、待たせたけど」

 森が視線を外した。

「俺も、気持ちは変わってない」

「じゃあ、これからよろしく」

 私は右手を差し出した。

「なんだ、握手かよ」

 そう言いながら、森は私の手を強く握った。大きく、分厚い手だった。

「和奏たちが待ってる。森も来る? 女子しかいないけど」

「遠慮しとくわ」

「じゃあ、行こう」

 席を離れ、森が並ぶ。教室の灯りを消した。

 また、教室は青い世界に、そっと沈んだのだった。



【終わり】



これを読んでいるあなた。

ここまで来てくれてありがとう。

私の高校時代の思い出を再構成しながら、私の願望を九割入れて、そうしてこのお話を書きました。

どうか、すべての登場人物が幸せでありますよう。

そう思ってエピローグまで、べたな展開を繰り返してきました。

またの機会にお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ