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第99話:モラハラ枢機卿レベル99

 レクティ誘拐計画への対策方針をまとめ終え、話は聖女ロザリィと神授教に移った。


「予想していた事ではあるけれど、聖女ロザリィには同情してしまうわね……」


 俺が今朝ロザリィを訪ねて見聞きした詳細を伝えると、リリィは眉をひそめた。来る途中の馬車では簡単な情報共有をしただけで、マリシャス枢機卿のロザリィやシセリーさんへの言動は話してなかったのだ。


「マリシャス枢機卿はリース大聖堂を管理する大司教。つまりは、王都の教会勢力のトップだ。……とはいえ、聖女を強引に従わせる権限は彼にないはずなんだけどね。神授教における聖女は、教皇をトップにしたヒエラルキーの外側に位置する役職なんだ」


「……マリシャス枢機卿は言葉でロザリィを従わせていました。教義を説き、治療を求める人々を人質にでもするように……」


「なるほど、命令ではなくあくまで説得か。聖女ロザリィの性格も熟知しているみたいだ。もしかしたら彼女が聖女に任命される前からの知り合いかもしれないね」


 その可能性は高いだろう。ロザリィがマリシャス枢機卿を「おじい様」と呼んでいる場面を何度か見たことがある。実際に血縁関係があるかどうかは定かじゃないが、ロザリィがマリシャス枢機卿を慕っているのは感じ取れる。


 ……だとしたら余計に不可解だ。


「マリシャス枢機卿は、いったい何がしたいんだ……? ロザリィのスキルに病を治療する力が無いことなんて百も承知のはずだろ。それなのに病人の治療をロザリィに強要しているどころか、元を辿ればホートネス侯爵を通じてスレイ殿下に国王陛下の治療を提案までして…………あれ?」


 マリシャス枢機卿の行動を言葉にしてみて、違和感に突き当たる。


「タイミングが良すぎないか……? マリシャス枢機卿は、どこで国王陛下の体調悪化を知ったんだ?」


「言われてみれば……。ルーカス殿下、国王陛下の体調悪化を知る人間は限られていたのですよね……?」


「そのはずだよ。僕が知る限りでは、マリシャス枢機卿に情報が伝わる可能性は低い。それこそ、誰かが意図的に情報を流さない限りはね。ただ、体調が悪化した後の父上は公務を全て取りやめていたから、察しの良い人物なら父上の状態が悪いことくらいなら気づけるんじゃないかな」


「なるほど……」


 もしくは、マリシャス枢機卿は以前から国王陛下の体調を知っていた……なんて考えてしまうのはさすがに発想の飛躍が過ぎるだろうか。


「話を戻そうか。ヒューの話を聞く限りでは、マリシャス枢機卿は聖女という存在そのものに何か特別な感情を抱えているように思える。レクティ嬢の〈聖女〉スキルを偽物と言ったりね」


「神授教はおとぎ話に出てくる〈聖女〉スキルを偽物と断じているんですか?」


「いいや、公式見解は出してないよ。おとぎ話はあくまでおとぎ話さ。普通は現実と創作を混同したりしないからね」


「もしかして、創作だったはずの〈聖女〉スキルが現実に出てきてしまったから、マリシャス枢機卿は焦っているんじゃないかしら……? レクティが実際に国王陛下を治療するところを見て……」


「あり得るな……」


 マリシャス枢機卿は聖女(ホンモノ)〈聖女〉スキル(ニセモノ)に劣るのが認められない様子だった。ニセモノに出来てホンモノに出来ないはずがないと、心の底から信じて疑っていないかのように……。


「マリシャス枢機卿は、ロザリィが病人を治療できないのは神への信仰が足りないからだとか言っていた。けど、スキルって信仰心でどうにかなったりするもんなのか……?」


「信仰心は関係ないとは思うけど、15歳で授かったスキルが別のスキルに変化する事例を一つ知っているかな」


「あ、事例はあるのか……。だとしたらマリシャス枢機卿の言ってることもあながち間違いじゃ――」


「ヒュー。ルーカス殿下の仰っている事例は貴方のことよ?」


「えっ」


 リリィに指摘されて二人の顔を見ると、リリィもルーカス王子も苦笑いを浮かべていた。


 あー……、言われてみれば確かにそうだ。最近はめっきり〈洗脳〉スキルをそのまま使うことが無くなっていたから、完全に忘れてしまっていた。


「まあ、君の場合は本当に特殊だとは思うけどね? スキルで出来ることが増えるという意味では、〈職業ジョブスキル〉も使っている内に新たな内包する力に目覚めることがあると聞く。マリシャス枢機卿はそのことを言っていたのかもしれない」


「ロザリィのスキルが〈職業スキル〉なら、まったく可能性がないわけじゃないのか……」


 どんな〈職業スキル〉かにもよるが、〈ヒール〉を使い続ければスキルのレベルが上がるのだとしたら、マリシャス枢機卿のロザリィにひたすら病人を治療させ続ける方針はいずれ実を結ぶのかもしれない。


 だけど、十中八九それより先にロザリィの精神が限界を迎えてしまうだろう。何よりロザリィのスキルが〈職業スキル〉かどうかが定かじゃないしな……。


「……現状、僕らが聖女ロザリィに対してとれるアクションは少ないね。直接的な行動は教会への干渉として大きな反発を受けてしまうし、国益を損なう事態にもなりかねない」


「ロザリィを見捨てるってことですか……?」


「逆に聞くけど、ヒュー。どうして君は聖女ロザリィを助けたいんだい? 君と聖女ロザリィは親密な仲なのかな?」


「それは……」


 親密さで言えば俺なんかより、ルーグやレクティのほうがよっぽど仲良しだろう。


 俺は今日含め、片手で数えられる程度しか言葉を交わしたことはない。友人ではあると思うが、リリィの時のように何が何でも助けたい相手かと言えば、それは違う。


 ロザリィの境遇に前世の自分を重ねて同情的になっているのは確かだ。


 ……けど、それだけじゃない。


 俺がロザリィを助けたい理由は、もっと単純で。


「……ルーグが約束したんです、ロザリィと。また一緒に話そうって。このままじゃ、その約束が叶わなくなるかもしれない。せっかくできた友達を、ルーグが失うかもしれない。そんなの、許せるわけがない……!」


「ふふっ。なるほど、それは確かに君の言うとおりだね」


「貴方らしいと言うかご馳走様というか……」


 俺の答えを聞いてルーカス王子は吹き出し、リリィは額に手を当てて呆れたように溜息を吐いた。


「それじゃ、可愛い妹と義弟おとうとの頼みだ。ここからは聖女ロザリィを助ける方法を具体的に考えてみよう……と言っても、実は手っ取り早い方法が一つあるんだけどね」


「手っ取り早い方法ですか……?」


「そう、簡単だよ」


 ルーカス王子は口元に弧を描くような笑みを浮かべて言い放つ。




「――聖女にも〈聖女〉スキルにも、病を治す力はなかったと公表しちゃえばいいんだ」


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