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第88話:ルーカス「領域てん――

 その後なんとか国王陛下を誤魔化す事に成功した。……いやまあ、さすがに見逃してもらった感は否めない。夜会の準備で陛下と宰相が退室し、俺は人生最大の安堵の溜息を吐いてソファからずり落ちる。


「ご、ごめんねヒューっ!」


「いや、大丈夫だ。何とか首は繋がってる……」


 比喩とかではなくガチで飛びかけたからなぁ。


「君、まだ僕が居るのを忘れてないかい?」


 ルーカス王子は紅茶を片手にニッコリ微笑みながら俺を見下ろしていた。たしかに王族に見せる態度じゃなかったな……。改めてソファに座りなおす。


「まあ何にせよ、父上にも認められてよかったじゃないか。これで僕が王になりさえすれば、君の望みはほとんど叶ったも同然だよ」


「そこで曖昧な言い方をするから、俺は貴方を完全には信じられないんですが」


「そこは我慢してくれ。僕の性分なんだ」


 そう言ってルーカス王子は肩をすくめておどけて見せる。


 まったく、この義兄上あにうえは……。


「ねぇ、ヒュー。ルー……カス王子に何をお願いしたの?」


 毎度のごとくルーカス王子の名前を言い淀んでとんでもない暴言を吐いているみたいになりながら、ルーグが俺に問いかける。さ、さすがにあの願いを本人に伝えるのはなぁ……。


「ふふっ、残念だけど教えられないかな。僕とヒューだけの、男同士の秘密だからね」


「えーっ! 二人だけずるい! ボクも今は男の子だもんっ!」


 むぅーっと頬を膨らませるルーグに、ルーカス王子は「あははっ」と笑う。心の底から楽しそうに笑うルーカス王子を、俺は初めて見た。


 ……ピュリディ侯爵が言っていたな。ルーカス王子は、普通の少年だって。その片鱗を、俺はようやく見る事が出来たのかもしれない。


「さて、そろそろ僕らも準備を始めようか」


「あ、そうだ。ルーカス王子、実は相談があるんですが」


 俺はレクティのドレス姿が美しすぎる問題について、ルーカス王子に相談を持ち掛けた。このままだと貴族からの求婚が後を絶たないだろうと相談すると、ルーカス王子は「さすがに大袈裟だと思うけどね?」と苦笑いを浮かべる。


「だけどまあ、レクティ嬢が目立ちすぎてしまうのも良くないかな。わかった、対応は僕に任せてくれ。とっておきのアイデアが一つあるんだ」


 そう言ってルーカス王子はソファから立ち上がる。アイデアの内容までは教えてくれなかった。


 その後、俺とルーグはドレッシングルームに案内されてリリィが手配してくれていた燕尾服に袖を通した。事情を知るアリッサさんとメリィにたどたどしく手伝ってもらい、何とか着替えが完了する。


 ドレスに着替え終えたリリィと合流し、夜会の会場となる大広間へ向かった。ちなみにレクティは国王陛下やルーカス王子たちと共に夜会に入場するらしく別行動だ。


「そう言えばちゃんとした夜会に出るのって初めてだな……」


 スレイ殿下陣営の夜会の時は端からぶち壊すつもりだったから気にもしなかったが、夜会でのマナーやルールなんかはサッパリだ。


「今日の夜会は陣営問わず、王都近郊の諸侯が大勢参加するわ。まず失礼が無いようにするのが無難ね。それから、私たちはあくまでレクティの付き添い。会場の隅で目立たないように居れば問題ないわ」


「あ、でもダンスタイムがあるんじゃないかな? おと……国王陛下って音楽とか好きだし」


「やっぱりそういうのがあるのか」


 貴族の夜会と言えばダンスってイメージもある。これに関しては実は少しだけ、母上から習った事があるんだよな。地元でも祭りの時には音楽に合わせて踊る事もあった。王都の社交界で通用するかは疑問だが……。


「あぁ、そう言えばそんなイベントもあったわね……」


 運動神経の低さに定評があるリリィは酷く憂鬱そうな顔で溜息を吐く。あまりの嫌さに思考から抜け落ちていたらしい。


「まあ、誘われても断ればいいのよ。両足が複雑骨折していると言えば大丈夫」


「それお前の足が大丈夫じゃないだろ」


 まあ色々察して相手も遠慮してくれそうな返答ではあるが……。


 会場となる大広間に足を踏み入れると、その広さに圧倒された。レチェリー公爵邸の大広間の倍くらいあるだろうか。


 注目すべきは天井の高さ。前世の学校の体育館を思い出す。天井から釣り下がる幾つものシャンデリアが、夕暮れ時の暗さを感じさせないほど煌々と輝いていた。


 玉座が並ぶステージから見て手前には広々としたスペースが確保され、奥には数々の料理で彩られたテーブルが用意されている。そしてステージ脇には様々な楽器を手にした奏者たちが並び、早くも優雅な音楽を奏でだしていた。


 決起集会の意味合いもあったスレイ殿下陣営の夜会とは、華やかさのレベルが段違いだ。


 既に会場には大勢の貴族が集まっていて、思い思いに談笑している。その中に見知った顔を見つけ、俺たちはとりあえずその方の元へ向かう事にした。


「お父様っ」


 リリィが声をかけると、窓から外の景色を眺めていたピュリディ侯爵が振り返って破顔する。


「リリィ! 君たちが来るのを待っていたよ。ヒュー君と、そちらの方は……」


「ルーグ・ベクトです! 初めまして!」


「ああ、初めまして。リリィの父のユーリ・ピュリディだ。どうぞよろしく」


 ぺこりと頭を下げたルーグに合わせ、ピュリディ侯爵も頭を下げる。今の対応を見るに、ピュリディ侯爵はルーグの正体を知っていそうだ。


「そろそろ夜会が始まるよ。国王陛下の乾杯の挨拶があるから、君たちもドリンクを貰ってくるといい」


「わかりました」


 ピュリディ侯爵に促され、三人で飲み物が用意されたテーブルへ向かう。テーブルは二つあって、それぞれアルコール飲料とソフトドリンクで分かれていた。久々にワインを飲みたい気分だったがぐっと我慢して、リンゴジュースの入ったグラスを取る。


「あれっ? ヒュー、お酒飲まないの?」


「何が起きるかわからないからな」


「そうね……。私もやめておくわ」


 リリィもオレンジジュースの入ったグラスを手にする。俺とリリィがソフトドリンクにしたからだろう。ルーグも少し悩んで、俺と同じリンゴジュースのグラスを手に取った。


「そう言えばレクティの件、ルーカス殿下に相談してくれた?」


「ああ。とっておきのアイデアがあるらしいぞ」


「とっておき……ね。いったいどんな策なのかしら……?」


 リリィは考え込むように唇に拳を当てる。


 そのままピュリディ侯爵のもとへ戻った直後、高らかなファンファーレが鳴り響いた。


「国王陛下がいらっしゃる合図だ」


 ファンファーレの音が止むと同時、ステージに続く階段の扉が開き、国王陛下が煌びやかなドレスを身にまとった壮年の女性をエスコートして現れる。あれが王妃様だろうか。


 夜会に集まった貴族たちは国王夫妻を拍手で出迎える。国王夫妻がステージ上に用意された玉座へ座ると、続いてスレイ殿下にエスコートされたロザリィが現れた。


 教会の聖女の登場に会場には拍手とともにざわめきが起こる。ひと際大きな拍手をしているのは、スレイ殿下陣営の貴族たちだろう。


「いよいよね……」


 スレイ殿下とロザリィがステージ上の座椅子に着席し、次はレクティとルーカス王子の番。


 ルーカス王子のとっておき……。


 もしかしたらと思ってはいたが、――やっぱりか。


 現れたルーカス王子とレクティに、会場に集まった貴族たちは騒然とする。それは決して、レクティのドレス姿が美しいからではない。レクティの美貌を霞ませてしまうほどの衝撃が、彼女の隣に存在しているからだ。


 ルーカス王子が、()()()()()()()()()()()()()()


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