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第87話:KT先生の次回作にご期待ください

 あっという間に夜会当日。


 朝の稽古を終えてルーグと学食へ向かうと、食堂はいつになく騒然としていた。喧嘩か何かかと思えばそうではない。ただ食事をしているリリィとレクティが注目されているだけだった。


「噂、随分と広まってるみたいだね」


「だな……」


 国王陛下の快復を祝う夜会が開かれると諸侯に知らされたのが、一昨日のこと。それから二日経ち、レクティと聖女が国王陛下の病を治したという噂は王立学園中に広まったらしい。リリィは普段通りのすまし顔で食事を続けているが、レクティは居心地が悪そうだ。


 二人には悪いが、今日は離れて朝食をとることにした。俺たちが一緒に食事をとっても注目がなくなるわけではないし、ルーグの事情を考えると変なリスクは負いたくない。こうなることはある程度予測できていたから、二人は昨日の内に了承済みだ。


 別々で食事をとり、別々で教室へ向かう。教室に入ると、レクティはクラスメイト達から質問攻めにあっていた。


「レクティさん、陛下の病を治したってホントなの!?」

「やっぱり〈聖女〉スキルにはおとぎ話と同じ力があったのか!」

「さすがは我らが聖女!」

「レ・ク・ティ! レ・ク・ティ!」


 貴族平民問わずレクティのもとに集まって大盛り上がりだった。ついこの間までスレイ殿下派とブルート殿下派に別れて一触即発の雰囲気だったとは思えない。


「あ、あのあのっ! まだ話せないことがたくさんありましてっ! みなさん落ち着いてくださいっ!」


 渦中のレクティは大変そうだけどな……。


 その後、午前の授業を終えた俺たちは夜会の事前準備のために早退して、アリッサさんの馬車で王城へ向かった。


 俺はてっきりピュリディ侯爵邸に寄って着替えてから城へ向かうと思っていたのだが、どうやら夜会で着るドレスや燕尾服はリリィの手配で商人さんが王城へ届けてくれているらしい。


 王城へ着くとロアンさんとメイド服姿のメリィが出迎えてくれた。リリィとレクティはドレスへ着替えるためメリィとアリッサさんと共にドレッシングルームへ向かい、俺とルーグはロアンさんに別室へ案内される。


 念のため〈忍者〉に切り替えてきたのだが、そのおかげかロアンさんの様子に違和感を覚えた。足取りが少し不自然というか、動きが硬いというか。怪我をしているわけではなさそうだから、緊張か何かだろうか。


 ……あの王国騎士団副団長、〈剣聖ソードマスター〉のロアンさんが緊張?


 なんか、めちゃくちゃ嫌な予感がする。


「あー……、ヒュー。ちょっとばかし覚悟しといてくれ。どうしてもお前さんたちに会いたいってお方が居てな。着替えの前に連れて来いって言われてんだ」


「ロアンさん、俺急に腹が激痛でうんこ漏らしそうなんで帰っていいですか」


「いいわきゃねぇだろ! 漏らしてでも連れて行くぞ! いざってときは俺も漏らしてやるから諦めろ!」


「あああぁっ! だって、まだ心の準備がっ!」


 ルーカス王子の前に連れて行く程度ならロアンさんは緊張しないし覚悟しとけなんて俺に言わない。ということは、ルーカス王子よりもっと位が上な人……つまり国王陛下がお呼びってことじゃねぇか!


 ルーグもその可能性に思い至ったのだろう。緊張している様子はないが、俺の様子をちらちらと伺っている。逆にルーグはどうするつもりなんだ……? 俺の前で国王陛下相手にもルーグとして振舞うのだろうか。それとも……。


 ロアンさんが立ち止まったのは、謁見の間でも王の寝室でもなく、王城に数多ある応接室の内の一つ。ロアンさんが一定のリズムで扉を叩くと「入れ」と中からルーカス王子の声が聞こえてきた。


 どうか室内に居るのがルーカス王子だけであってくれ。そう願いつつロアンさんが開いた扉の向こうを見ると、ソファには二人の男性が座っている。一人はルーカス王子、そしてもう一人は……ああ、やっぱり。


「待っていたぞ、二人とも」


 ロアンさんに促されて入室し、膝をついた俺たちにその人物は気さくに話しかけてくる。


 シルクのように滑らかな金色の髪と、紺碧の瞳を持つ美丈夫。リース王国国王、ライノス・リース陛下その人だった。


「よく来てくれた、ルーグ・ベクト。そしてヒュー・プノシス。ここはプライベートな場だ。どうか楽にしてほしい」


 陛下に促され、ゆっくりと顔を上げるといきなり目が合った。どこか品定めしているような瞳が、俺をじーっと見つめている。やばい、緊張で心臓が口から飛び出しそうだ。


「勘弁してあげてくれ、父上。ヒューが緊張で死にそうだ」


「おっと、すまなかったな。二人とも、こっちへ来て座りなさい。一緒にお茶でも飲もうじゃないか」


 お、お茶と言われても……。まさかのお誘いに俺が硬直していると、ルーグが俺を促すように制服の裾を引っ張る。とりあえず、言われるままに従うしかなさそうだ。


 ルーグが陛下の隣に座り、俺はルーカス王子の隣に腰を下ろす。すると今の今まで気づかなかったのだが、壁際に控えていたプライム侯爵が俺とルーグに紅茶を用意してくれた。


 さ、宰相閣下に手ずから紅茶を注いでもらうとか……。助けを求めて視線を彷徨わせるも、部屋の中には国王陛下とルーカス王子、ルーグと宰相の四人しかいない。俺をここへ案内したロアンさんは部屋の中には入って来なかったらしい。


 あの人、一緒にうんこ漏らすとか言っときながら……っ!


「久しぶりだな、ルーグ。息災であったか?」


「はいっ、おと……国王陛下! 陛下こそ、お体はもう大丈夫なのですか?」


「ああ、君たちの友人であるレクティ嬢のおかげでこの通りだ」


 そう言ってわしゃわしゃとルーグの髪を撫でる陛下の顔色は、確かにすっかり良くなっている。一週間前は青白くて本当に死ぬ直前って感じだったからな……。まだやつれては見えるが、体調の良さは伺える。


 というか、いちおうここではルーグとして接するのか。ちょっぴりホッとした。


「初めましてだな、ヒュー・プノシス君。知っているかと思うが、私の名はライオス・リース。この国の国王だ」


「お初にお目にかかります、国王陛下。プノシス領領主、マイク・プノシスの息子ヒューと申します」


「うむ。君の事はルーカスから聞いているよ。なんでも、ルーカスを王にする代わりに欲しいものがあるとか」


「――っ!」


 なんでその事を国王陛下が……っ!? 隣のルーカス王子に視線を向けると、王子はにやりとほくそ笑む。こ、このくそ義兄……!


「どうなのだ、ヒュー・プノシス」


「……っ、はい! 俺にはどうしても、欲しいもの……いいえ、叶えたい願いがあります!」


 ええいままよ! こうなったらもう、相手が国王陛下だろうが誰だろうが関係ない。変に誤魔化してしまうくらいなら、真正面からぶつかってやる……!


「ほぅ。ルーカスを王にすれば、その願いが叶うと?」


「それはわかりません。ルーカス殿下は胡散臭いので、正直半信半疑です」


「ぶっ!?」


 目の前に座るルーグが思わずといった様子で口を押えて前のめりになる。かすかに肩が震えているが、今は気にしない。


「はっはっは! 胡散臭いか! 言われているぞ、ルーカスよ」


「自覚はありますよ。だけどヒュー、さすがに何度も言われたら僕だって傷つく。君にこの場への同席を許している事を、信頼の証と受け取って欲しいものだけどね?」


「申し訳ありません、殿下。なにぶん疑り深い性格なものですから。……だからこの場を借りて、誓っていただけませんか。貴方が次期国王になった暁には、必ず俺との約束を果たしてくださると。そうして頂けるならば、俺は全力で貴方を次の王にして見せます」


「……なるほど、そう来たか。どうですか、父上。貴方の目から見て、彼は」


「うむ、なかなか良い度胸をしている。お前たちが気に入るわけだ。人には向う見ずに動くべき時がある。それをどうやら弁えているらしい。誓ってやれ、ルーカス。儂が許可しよう」


「だってさ。良かったじゃないか、国王のお墨付きだよ?」


「殿下、誓ってくださるのなら書面でお願いします」


「君、本当に僕のこと信用してないね?」


 わかったよ、とルーカス王子は肩をすくめながら紅茶を口に含む。


 何とか乗り切れたか……? 一歩間違えれば不敬罪になりかねない事も口走ってしまったが、勢いに任せたおかげで何とかなった。変に誤魔化していたらどうなってただろうな……。


 その後、国王陛下はルーグに学園生活での様子を尋ねたりしながら穏やかな時間が過ぎて――


「そう言えば不眠症であっただろう。ちゃんと眠れているか?」


「はいっ! ヒューに抱き着いて寝たらぐっすり…………あっ」


 前言撤回。


 俺の戦い(正念場)はこれからだ!

〈作者コメント〉

続きます。

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王子は流し目でウィンクってあるけど目隠しはもうしてないのか?
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