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第85話:オシャレ美少女リリィ&レクティ

 それからしばらくの間、ピュリディ侯爵とは様々な話をさせてもらった。ルーカス王子陣営の今後の方針や、神授教とレクティに関する意見交換など。かなり有意義な時間を過ごせたと思う。


 前回より気まずくなかったのは、ピュリディ侯爵が会話をどんどん回してくれたからだろうな。リリィの父親だけあって頭の回転が速く、何より話術が巧みだ。コミュニケーション能力が強いと言うべきだろうか。


 気づけばあっという間に時間が過ぎて行った。話題も段々と真面目な話からプライベートな話へ移行し、ピュリディ侯爵はリリィの幼少期の話を揚々と語っている。


 リリィが初めて言葉を発した瞬間の話や、侯爵の誕生日にリリィから貰った似顔絵を今でも額縁に入れて書斎に飾っている話など……。


 さすがにそろそろ相槌を打ち続けるのにも疲れて来た。微笑ましい話なんだけど、あんまり聞き過ぎてしまうのもリリィが可哀想な気がしてちょっと……。


 とは言え、屋敷にお邪魔している俺から会話を切り上げるのも難しい。どうしたものかと悩んでいたら、ようやく扉が開いてリリィが顔を見せた。


「お待たせ、ヒュー。そろそろ…………げっ、お父様」


 扉から顔だけを覗かせたリリィは、父親の姿を見て露骨に嫌そうな顔をする。どうやらリリィにもピュリディ侯爵の帰還は想定外だったらしい。


「屋敷の皆には口止めを頼んだはずなのだけど……」


 リリィが鋭い目つきで部屋の中を見回すと、給仕をしてくれていた使用人さんがスッと視線を反らした。


「……まあ、いいわ。お父様、これからヒューに夜会で着るドレスを見てもらおうと思っているの。お父様は席を外してくださらないかしら? どうせ仕事の途中で抜け出してきたのでしょう?」


「む……いや、しかしだね……?」


「自分の立場を顧みて行動なさってください。お父様は今、ルーカス殿下派の派閥筆頭。スレイ殿下派のように大所帯でもなければ、ブルート殿下派のように強固な関係性で結ばれているわけでもないのです。ルーカス殿下派の浮き沈みはお父様にかかっているのですよ」


「そ、それは……そうなのだが……?」


 ちらり、とピュリディ侯爵は俺に視線を向けて来る。それに気づいたリリィは小さく溜息を吐いた。


「状況が落ち着いたら、ヒューを招待して三人でディナーなんていかがでしょうか」


「それはいい! ヒュー君にはまだまだ話したい事がたくさんあったからね。ぜひそうしようじゃないか。ヒュー君もそれで構わないかい?」


「はい、ぜひご一緒させていただきます」


 俺の返事に満足したのだろう、ピュリディ侯爵はうむと頷いてソファから立ち上がる。


「明後日の陛下主催の夜会には私も参加する予定なんだ。また会おう、ヒュー君」


 そう言い残し、侯爵は颯爽と応接室を後にする。部屋の外で侯爵と少し言葉を交わしていたのだろう、リリィはしばらくしてから俺の前に姿を見せた。


 目に飛び込んできたのは、濃紺色のシックなドレス。シンプルながらも洗練され、胸元にはさりげなく小さな宝石が埋め込まれている。優雅に広がった裾には夜空に浮かぶ星々を連想するような銀糸の刺繍が散りばめられていた。


 リリィの持つ優雅さと知的さをドレスにしたらこうなるんじゃないか。そう思わせるほど、濃紺のドレスはリリィに似合っている。


「ふふっ、黙って見惚れてくれているという事は、今回も私の勝ちで良いのよね?」


「完敗だ。俺の二連敗でいいよ」


 俺は降参の意を示すため両手を上げて答えた。満足げに微笑むリリィは「それで?」と尋ねて来る。


「感想を聞かせてくれるかしら?」


「そうだな……。前の深紅のドレスも似合っていたけど、どちらかと言えばその濃紺のドレスの方がリリィらしさを感じて好きだな」


「すきっ……!?」


「リリィの落ち着いた雰囲気や知的な感じによく似合ってる。綺麗だよ」


「そ、そうっ。なら、夜会にはこのドレスを着て行くことにするわね。本当はもっと色々なドレスを着て見せるつもりだったけれど、ヒューが好きだって言うならこのドレスにしてあげるわ」


「別に時間もあるし何着でも付き合うぞ?」


「いいえ。私もこのドレスは気に入っていたし、今日の目的はそれじゃないもの。本題はここから。レクティのドレスを見てあげて?」


「あ、ああ。わかった」


 ……本当はもっと色々なドレス姿のリリィを見てみたかったんだけどな。頼めば見せてくれそうな気もするが、さすがに口にするのは気恥ずかしい。それにどうやら、扉の外でレクティが待っているようだ。


 リリィが手招きすると、レクティは恥ずかしそうに頬を赤く染め顔だけを覗かせる。


「り、リリィちゃん、やっぱりわたし恥ずかしいです……っ」


「こらこら。ここまで来て何を言っているの? ほら、後がつかえているんだから早く出てきなさい」


「うぅ……。ヒューさん、変でも笑わないでくださいね……?」


 なんて言いながら部屋に入ってきたレクティは、高貴な花のように可憐な薄紫色のドレスを身にまとっていた。


 ライラックを連想するその色は、レクティの光沢を放つ淡い水色の髪とよく調和している。首元にはシンプルな真珠のネックレスが輝き、彼女の美しさをいっそう引き立てていた。


「あ、あの……。どうでしょうか、ヒューさん……?」


「リリィ、これダメだろ。綺麗すぎて夜会に参加する独身貴族全員から求婚されかねないぞ」


「ふぇえっ!? きゅ、求婚ですか……!?」


「だからと言って、夜会の主役が変な格好をするわけにもいかないのよ。当日は国王陛下のエスコートで会場入りなんて可能性もありえるのだし……。そもそも、元の素材が良すぎてどんなドレスを着ても似合ってしまうの。これでも加減はしたのよ、いちおう」


「加減をしてこんなにも美しいのか……」


 思わずまじまじとレクティのドレス姿を見つめてしまう。


 確かにドレスはリリィの濃紺色に比べれば地味さはあるし、アクセサリーもネックレスだけだ。最低限のシンプルな装いにはなっている。だからこそ素材の良さが引き立ってしまっている面もあるんだろうな。


「ひゅ、ヒューさんっ。そんなに見つめられると恥ずかしいです……っ」


「すまん、つい……。でもこれ、本当にどうするんだ……?」


「こうなったら今からルーカス殿下にお願いして、夜会を仮面舞踏会マスカレードに変更するよう国王陛下に頼みこんでもらうしかないわね」


「無理だろ……」


 さすがに冗談で言ったのはわかっているが、無茶ぶりされる義兄上あにうえが可哀想すぎる。とりあえずレクティの件はルーカス王子に相談だな……。


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