表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/192

第80話:サブタイのネタが思いつかないからもう、ゴールしていいよね……?

「もちろん、今すぐにどうなるというわけではないよ。良くも悪くもスレイ兄上と神授教の出方次第だ。場合によっては何事もない可能性はある」


「……その可能性が高かったら、俺たちに謝罪なんてしてないですよね」


「まあね」


 ルーカス王子は自嘲するような笑みを浮かべて頷いた。


「本来の計画なら、レクティ嬢には父上を極秘裏に治療してもらうはずだった。ブルート兄上とは初めから口裏を合わせていたんだよ。もしレクティ嬢による治療が上手くいかず父上が死んだら、騎士団と国軍で治安を維持しつつ父上の葬儀が終わるまでは武力衝突を避けようと取り決めていた。スレイ兄上にも一応呼びかけたんだけど、あの人には『お前たちの言いなりにはなってたまるか』と突っぱねられてね。それでブルート兄上に軍を動かしてもらったんだ」


「だからブルート殿下もいらしたのですね……」


 リリィが納得した様子で頷く。


 俺もてっきり、ブルート殿下は国王陛下が死んだら即座に内戦を始められるよう国軍を展開していたのかと思っていた。どうやらそういうわけではなく、スレイ殿下の動きをけん制するためだったらしい。


「そしてレクティ嬢が治療に成功したら、この件は内々で処理する予定だった。父上とチェンサーには口止めをして、僕も功績を主張しない。その約束でブルート兄上の協力を取り付けたからね。真実を知るのは、あの部屋に居た人間だけになるはずだったんだよ」


「それであの時……」


 寝室に現れたスレイ殿下とロザリィたちを見てルーカス王子が渋面を見せたのは、計画が頓挫したからだったのか。


「殿下はレクティを慮ろうとしてくださったのですね」


「アリッサから目立つのが苦手な子だと聞いていたから、一応ね。ブルート兄上と交渉するうえでも、そうした方が都合も良かった。まあ、全部台無しになっちゃったわけだけど」


「レクティが一人で国王陛下を治療したなら、内々で済ませられたんだよな……? けど、神授教の聖女と二人で治療したから、この場合は……」


「レクティ嬢の存在を伏せるわけには行かなくなった。公表はせざるを得ないだろうね……。聖女一人の手柄にしたらリース王国は神授教に頭が上がらなくなってしまう」


「レクティの〈聖女〉スキルの力を、国民全員が知ることになるのね……」


 入学試験で騒ぎになった〈聖女〉スキルだが、あれは物珍しさというか、おとぎ話にしか存在しないと思われていたスキルが実在したから、騒ぎになっただけだった。


 実際、あれ以降レクティのスキルがそこまで注目されたことはない。噂は王子たちに届くほど広がってはいるものの、〈聖女〉スキルの存在を聞いたほとんどの人間がスレイ殿下のように半信半疑だったはずだ。


 いくら〈聖女〉スキルと言っても、まさか本当におとぎ話と同じ力を持つわけではないだろう、と。人の傷だけでなく病まで治せるなんてありえない、と。


 それが、余命宣告された国王陛下の病を治したという形で公表されればどうなるか。


「大変な騒ぎになるんじゃないかしら……。病を治してほしいって人が大挙として押し寄せてくるかも」


「どうだろうな……。国王陛下が治療して貰えたなら自分も、とはならないんじゃないか……?」


 貴族はともかくとして、平民からしたら雲の上の話だ。


 レクティや〈聖女〉スキルが身近な存在だったならわからなかったが、彼女はスキルを授かったその足で王立学園の入学試験に来ている。


 民衆からしたらレクティはヴェールに包まれた謎の存在なわけで、よほど緊迫した状況でもなければレクティを頼ろうとは思わないだろう。


 むしろ、民衆が押し寄せるとしたらレクティの方ではなくて……。


「僕もヒューの考えに賛成かな。少なくともレクティ嬢に関しては王立学園が壁にもなるし、民衆に治療を迫られるなんてことはほとんどないと思うよ。貴族からは頼まれるだろうけど、度が過ぎるようなら相応の対応策を考えればいい。むしろ問題は、神授教の方だ。民衆が頼るとしたら、こっちじゃなくて教会の聖女だろうからね」


「ですが、教会の聖女には病を治す力はないはず……」


「そう。それが問題なんだ。神授教の側からしても誤算だったんじゃないかな。まさか本当に国王陛下が回復するなんて、考えていなかったはずだよ」


「あえて自分から顔に泥を塗られに来てたって事か……?」


「だとしたら、目的はスレイ殿下に貸しを作る事かしら……。仮にリース王国が内戦になれば神授教も他人事では居られないでしょうから、スレイ殿下の陣営に幅を利かせようとして……?」


「もしくは、スレイ兄上をだしにして僕やブルート兄上に取り入る算段もあったかもしれないね。内戦がどう転んでも、神授教は上手く立ち回ったはずだ」


「……けど、内戦にはならなかった。もしかしてさっきレクティがマリシャス枢機卿に勧誘されてたのって、予想外に国王陛下が回復してしまったからか……?」


「レクティ嬢を招き入れて父上と同じように病に苦しむ人々を救えば救うほど、神授教の威信は高まるからね。ヒューの見立て通りだと僕も思う」


「……こうなってしまった以上、神授教はレクティを手に入れたいと。だから彼女の身に危険が迫るかもしれない。そういう事ですね……?」


「ありていに言えばね」


 リリィのまとめにルーカス王子は首肯する。これは……、もしかしなくてもかなり面倒な事になってしまったんじゃないか……?


「まあ、さっきも言った通り良くも悪くもスレイ兄上と神授教の出方次第だよ。ここまでの話は全て憶測にすぎない。実際に神授教がどう動くのかは未知数だ」


「……けど、備えて損はないですよね?」


「まあね。だから今のうちに対策を考えておこう」


 それから俺たちはリース王国や貴族たち、スレイ殿下や神授教の様々な動きを予測してそれぞれに対応策を検討した。出来れば全部無駄になってしまうのが一番良いんだが、……希望的観測か。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ