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第79話:小説で使ってみたい単語第4位「悪魔の証明」

 ルーカス王子からいきなり頭を下げられ、俺とリリィは困惑して顔を見合わせる。ルーカス王子が読みを違えたのも、俺たちに対して謝罪したのも驚きだ。いったいどうして謝られているのか、皆目見当がつかない。


「まさか兄上がここまで馬鹿だとは思わなかったんだ。よりにもよって教会の聖女を連れてくるなんて……」


 ルーカス王子は両手で頭を抱えて重々しく溜息を吐く。ここまで打ちのめされている姿なんて初めて見たぞ。ルーカス王子なら演技でこれくらいはしそうだが、どっちだ……?


「あの、スレイ殿下が連れてきた少女はやはり……?」


「神授教が任命した聖女、ロザリィ・セイント。ヒュー、君とは面識があるみたいだね?」


「ええ、まあ。午前中、ルーグと大聖堂に行ったんです。昨日から出かける約束をしていたので……。そこで知り合って、大聖堂を案内してもらいました。その場ではしがない修道女だと名乗っていたんですけど……」


 ただまあ、聖騎士が付き従っていたりと、何となく察せられるところはあった。ロザリィが聖女だったことに関してはそれほど驚きじゃない。国王陛下の寝室なんかでばったり再会したことにはさすがに驚いたが。


 ルーカス王子としては、その再会が問題だったんだろう。


「教会の聖女に病を治す力が無い事くらい、少し考えればわかるはずだ。そもそもこの問題に教会を関わらせるべきじゃなかった。どちらに転んでも面倒な事になるなんてわかりきっているんだから」


「……もし、聖女が国王陛下の病を治してしまったら、王家は神授教に返し切れない程の恩を抱えてしまう。逆に聖女が国王陛下を治療できず陛下が死んでしまったら、聖女の顔に泥を塗った事になる……と」


「スレイ殿下は何がしたかったんだ……?」


 リリィの話を聞いた限りじゃ、わざわざ聖女を引っ張ってくるメリットがほとんど無いように思える。そもそも教会の聖女に傷を癒す力はあっても病を治す力はないっていうのは、聖典にも書かれているわけだしな……。


 一か八か国王陛下を治療できる可能性に賭けて連れて来たわけじゃないと、そう信じたいが……。


「誰かに唆されたのは間違いないと思う。それが貴族か教会の人間かはわからないけどね。確かなのは兄上が僕の見立てよりも遥かに焦っているという事だ」


「……それは、私とグリード・レチェリーの婚約が破談になったからでしょうか」


「いいや、あくまで一因でしかないんじゃないかな。そもそもとして、君とグリード・レチェリーの婚約だってスレイ兄上の焦りから生まれたものだと僕は見ているんだ。そうとでも考えないと、派閥筆頭のピュリディ侯爵に恨まれてまで君の婚約話を強引に推し進めた事に辻褄が合わない」


「……あ、もしかしてそれって、さっきフリード殿下が言っていた噂と関連が?」


 俺が尋ねると、ルーカス王子は「たぶんね」と頷く。スレイ殿下をそこまで焦らせる噂っていったい何なんだろうか。


「ヒュー、君はさっき国王陛下と僕ら三兄弟を見てどう思った?」


「どうって……」


 親子だから、ある程度は似ているものだなとは思った。国王陛下の金色の髪はルーカス王子のそれと同じ。精悍な顔つきはブルート殿下と瓜二つだ。目鼻立ちまでは注意深く見れていないが、親子だとわかるくらいには共通点があったような気がする。


 …………あ。


「スレイ殿下が、国王陛下に似てない……?」


「そう。陛下は僕と同じでそこまで背が高くないんだ。ブルート兄上は長身だけど、それは母方の血だから違和感はない。だけどスレイ兄上の母方に背の高い人物は居なくてね」


「……まさか、その噂って」


「スレイ兄上は、国王陛下の本当の子供じゃない。そんな根も葉もない噂が流れているんだよ。敵国から嫁いできた妃の宿命と言えば、それまででもあるけどね」


「それは、焦りもするわけね……」


 リリィがどこか同情するかのように、ポツリと呟く。


 自分が王の血を引いていないかもしれない。そんな噂が流れれば、血統によって貴族の支持を集めているスレイ殿下にとっては致命傷に他ならない。真偽が確定する前に急いで王位を手中に収めたい気持ちも理解できてしまう。


「とはいえ、兄上は気にしすぎだと思うけどね。噂の真偽なんて確かめても意味がないんだから」


「鑑定スキルやルーカス王子のスキルじゃ見えないんですか?」


「鑑定スキルが見れるのは物品に関する情報だけなんだ。今のところ、人間の血縁関係が見える鑑定スキルは確認されていない。そして僕のスキルもそんなに都合よく見たいものが見えるわけではないし、そもそも仮に見えたとして僕の言葉には説得力がない」


「ああ、胡散臭いから――ぐふっ」


 隣に座るリリィから思いっきり肘打ちされた。


「申し訳ありません、殿下。これでどうかお許しください」


「うん、まあ、自分でも自覚あるからいいんだけどね。あながち間違いでもないし。スレイ兄上と敵対している僕が何を言ったところで、それは真偽を定かにする証拠にはならない。ヒュー、君がスキルを使ってもそれは同じことだ」


 ……そうか。スキルで証明したとしても結果を知れるのはスキルを持つ本人だけだから、今度はその人物の言葉の真偽を証明しなくてはいけなくなってしまうのか。


 前世みたくDNA鑑定で客観的に証明できるわけじゃない。だから確かめても意味がないとルーカス王子は言ったんだな……。


 それは同時に、スレイ殿下も自身の血統を証明できないということになる。噂を打ち消したくても打ち消せるだけの根拠がない。俗にいう悪魔の証明ってやつか。


「あの、王室ならこういった時のために王と妃が夜を共にした日時を記録に残しているのではありませんか……?」


「いい着眼点だね、リリィ嬢。確かに記録は残されていた。それは僕もブルート兄上も確認済みだ。結果は白。記録上ではスレイ兄上は父上の子供だよ」


「……記録に残らないところで何かがあった可能性を否定しきれないというわけですね」


「そういうことになるね。だから僕としては、これ以上スレイ兄上は噂を気にしても仕方がないと思っているんだよ。それが今回の読み違いを招いてしまった事は否定できない。改めて君たちに謝罪させてもらう。本当にすまなかった」


 ルーカス王子は再度、俺たちに向かって頭を下げる。読み違いに至った経緯は理解できたが、相変わらずなぜ謝られているのかサッパリだ。


 ……いや、本当は薄々気付いていちゃいるんだ。そもそもルーカス王子が俺たちに謝罪する理由なんて、一つしかないのだから。




「レクティ嬢の身に、危険が迫るかもしれない」

〈作者コメント〉

2024/01.01

新年あけましておめでとうございます!

実は、昨年とある出版社様からオファーを頂きまして本作の書籍化進行中です!

まさか趣味で書いているだけの小説が本になるなんて……。

ここまで読んでくださった貴方のおかげです……!

本当にありがとうございますっ!

(サブタイトルを「印税、ゲットだぜ!」にしようか迷って自重しました)

発売時期などは改めて告知しますね!


本作はまだまだ続きますので、今年もお付き合い頂けますと幸いです('ω')ノ

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