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第74話:せいんとロザリィ

 その後、ロザリィの案内で大聖堂を一通り見て回った俺たちは、観光客向けの休憩スペースで紅茶を飲みながら、ロザリィに王立学園での生活の様子を話聞かせていた。


「まあ! 来月にはクラス対抗戦なんて学園行事がありますのね! わたくしもぜひ見に行ってみたいですわ! 見学できればよいのですけれど……」


「一般の観覧スペースがあるはずだから大丈夫だと思うよ」


「それならぜひ! その日は御勤めも入れないよう、シセリーに頼んでみますの!」


 ロザリィは随分と王立学園に憧れがあったらしい。俺とルーグから聞く学園生活にずっと目を輝かせっぱなしだ。諸事情あって入学が叶わなかったと言っていたが、授かったスキルが戦争向きじゃなかったんだろうか……?


 気にはなったが、受験に失敗した理由を聞くのはさすがにデリカシーが無さすぎる。そもそもスキルを誤魔化して入学した俺に言える話じゃないな……。


「ヒューって凄いんだよ! 入学試験でスキルを使ったら火がぶわぁーってなってね!」


「火がぶわぁーですのね! それは凄いですわ! わたくしも見てみたいですの! 今ここで使ってくださらないかしら!?」


「大聖堂が焼け落ちるぞ……」


 どうやらルーグとロザリィはすっかり意気投合しているようで、二人で姦しくお喋りをしている。俺は聞き手に回って、時折出て来る頓珍漢な発言にツッコミを入れる役割に徹していた。二人のテンション感にはさすがについて行けない。


 それからしばらくして、


「ここに居らしたのですね、ロザリィ様!」


 ロザリィの姿を見つけ、一人の女性がこちらへ駆け寄って来た。


 紺色の髪をショートボブに切り揃えた二十代前半くらいの若い女性だ。顔立ちは非常に整っていて、切れ長の瞳は琥珀色。背は160センチくらいで、白地に赤いラインが入った胸当てと、腰には剣を装備している。


 王国騎士団……じゃないよな。大聖堂で帯剣しているなんて不自然にも思えるが……。


「あら、シセリー! ちょうどいいところに来ましたわね! あなたもご一緒にヒュー様とルーグ様から王立学園のお話を伺いませんこと?」


「折角のお誘いですが、もうお時間ですロザリィ様。そろそろ御勤めのご準備をなさらないと……」


「まあ、もうそんな時間ですのね! ごめんあそばせ、ヒュー様、ルーグ様。わたくし、午後からどうしても外せない御勤めがございまして。申し訳ありませんが、失礼させて頂きますわ。楽しい時間をありがとうございましたですわ」


「こちらこそありがとう、ロザリィ! またどこかでお話できるかな……?」


「もちろんですわ! わたくし、しばらくはこの大聖堂に滞在する事になっていますので、ぜひまた遊びに来てくださいませ! もっと王立学園の事をいっぱい聞きたいですの!」


「うんっ、もちろん! またね、ロザリィ」


「またねですわ、ヒュー様もっ」


「ああ、またな」


 ぶんぶんと手を振って去って行くロザリィを、俺たちも手を振って見送る。ロザリィに付き従うシセリーさんがこちらを振り返って会釈をしたから、俺も会釈を返した。


 まるでロザリィの従者みたいだけど、何者なんだろうか……?


「さっきの人、聖騎士さんだったよね……?」


「聖騎士?」


「神授教が独自に持っている騎士団の人の事だよ。歴史の授業にも出て来たでしょ?」


「あー……、言われてみれば習った気がするような……」


「ヒュー~? クラス対抗戦より先に中間テストがあるんだからね? ボク嫌だよ、来年ヒューと別のクラスになっちゃうなんて」


「うっ……。が、頑張ります」


 王立学園ではクラス替えの際、総合成績順で各クラスに振り分けられる。入学時はスキルの方の成績で何とかAクラスになれたものの、来年もそれで乗り越えられる保証はない。


 ルーグは学力で言えばリリィに次いで学年二位。スキルを含む総合順位では学年3位の優等生だ。来年もAクラスは確実だろう。ルーグと同じクラスになろうと思ったら、頑張って勉強して学力を上げるしかない。


 別々のクラスになってしまうのは、俺だって嫌だ。


 えーっと、聖騎士だよな……? 授業で習ったのは何となく思い出せてきた。


「たしか聖騎士って、神授教で重要な役割を持つ人物の護衛や、宗教儀礼の警備をする騎士の事を指すんだよな?」


「うん、正解っ! 付け加えると、神授教内部の腐敗を正したり、異端者を取り締まったりする組織だね。だから、さっきのシセリーさんがロザリィに付き従っているのが少し気になっちゃって……」


「神授教で重要な役割を持つ人物を護衛するんだよな、聖騎士って」


「うん……。ボクたち、いったい誰に大聖堂を案内してもらっちゃったんだろう……?」


 首を傾げるルーグに「さぁ……」と言葉を濁す。


 思い当たる節がないわけじゃないんだよな……。諸事情あって王立学園への入学が叶わなかったとか言ってたし。スキルが条件を満たさなかったわけではなくて、別の理由があったのだとしたら、ロザリィはもしかして……。


「まあ、本人がしがない修道女って名乗ったんだ。正体が何であれ、俺たちに気を遣って欲しくないって事だと思うぞ」


「そうだねっ。またロザリィとお話できるのが楽しみだなぁ」


 ルーグは口の前で手をそろえてふふっと微笑む。ロザリィとの会話がよっぽど楽しかったんだろうな。


 今度の休みの日にでも、この大聖堂を訪れていいかもしれない。ロザリィもしばらく滞在すると言っていたし、また会える機会もあるだろう。


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