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第4話:王立学園

 プノシス領を出立して早一か月。俺はようやく王都に足を踏み入れた。


 いや、遠すぎるだろ王都っ!


 父上に王都へ向かうように言われたのがちょうど三十日前の誕生日のことだ。翌日、俺は言われるがまま王都へ旅立ったのだが、その道のりが想像を遥かに超えて過酷だった。


 まず、スタートから徒歩移動だ。前世みたく車や電車、飛行機で目的地に向かえるわけじゃない。それどころか道路すら整備されていない。プノシス領から続く唯一の街道は未舗装未整備が当たり前。何度獣道と間違えて見失ったことか。


 父上が馬車を貸してくれなかったわけだ。道が悪すぎて道中で馬車が壊れて立ち往生するのが容易に想像できる。馬なら何とか走破できそうだが、あいにく俺は乗馬があまり得意じゃない。馬に乗るくらいなら歩いたほうがマシだ。


 道なのか道じゃないのかわからない街道を歩き続けて一週間。ようやくお隣の貴族の領地で一番大きな町に辿り着く。そこからは街と街を移動する乗合馬車を13度乗り継いだ。


 プノシス領から王都はそれほどまでに遠い。馬車の一日の移動距離が平均35㎞くらいだったと仮定して、馬車移動の所要日数は22日。だいだい770㎞か……。


 とにかく遠かった。前世を含めた40年近い人生で一番の大冒険だ。


 そもそもどうして俺が遠路遥々王都まで来る羽目になったのか。それはリース王国の貴族に課せられたある義務が関わっている。


『神から授かった〈スキル〉が戦争に有用な可能性がある場合、王侯貴族の子女は王立学園で3年間学ばなければならない』


 かつてリース王国は大陸全土を巻き込む大戦争の渦中に居た。


 時の国王は〈スキル〉の強大な力を戦争に利用するため、戦争向きな〈スキル〉を授かった王侯貴族の子女を一か所に集めて軍事教練を施したという。


 それがリース王立学園の前身、リース王立教練学校の始まりなのだとか。今からもう100年以上前の話だ。


 今現在、リース王国を取り巻く国際関係は平和そのもの。戦争とは過去の産物になりかけている。そんな中でも100年前の王令が今も効力を持ち続けているのはどうかと思うんだがなぁ。


 俺が口から出まかせで言った〈発火ファイヤキネシス〉はまさに戦争向けのスキルだ。口は災いの元とはこの事で、俺はめでたく王立学園の入学資格を得てしまったのだった。


 王令を無視すれば問答無用で処刑になる。俺に王都へ行かないという選択肢は残されていなかった。


 ただ、不幸中の幸いだったのが、王立学園には入学試験がある。


 なんでも10年ほど前から平民からも優秀なスキル持ちを集め始めたらしく、学園の定員を超える資格者が集まるようになったのだとか。


 そこで入学試験が実施されるようになり、入学資格者の選別が行われるようになった。


 洗脳スキルなんて爆弾を抱えた俺としては、3年間も大勢の人間と過ごさなければならない学園に放り込まれるのはあまりにリスクが高すぎる。


 だから何としても、入学試験で不合格にならなければ……!


「――っと、急がないと!」


 入学試験の実施日はなんと今日。本当にギリギリの到着だった。


 万が一遅刻でもしたら王命に背いたとして処刑されかねない。俺は駆け足で王都の北の外れにある王立学園へ向かったのだった。




「ここがリース王立学園か……!」


 荘厳な門をくぐると広大な庭園が広がり、その向こうに王城ほどではないものの立派な白亜の校舎が聳え立っている。さすが王国の最高学府。入学する気はさらさらないが、ちょっとばかり気分が高揚してしまった。


「ねえあれ見て?」

「なにあの薄汚い服。平民かしら?」

「平民を由緒ある王立学園に入学させるなんて国王陛下の考えは理解できないな」


 周囲から聞こえてくる侮蔑の声。


 俺が言われているのかと身構えたがどうも違うらしい。


 視線を巡らせると、俺の少し前を一人の女の子がおっかなびっくり歩いていた。


 継ぎ接ぎだらけの薄汚れた灰色のワンピース。肩まで届く淡い水色の髪は、手入れが行き届かずくすんでいてボサボサだ。背は俺の肩くらい。同年代の女の子にしては少し小柄か。


 平民……それも貧民街から来たのだろう。身なりを整える余裕がないほど貧困に喘いでいるのか、彼女の姿はこの場では酷く悪目立ちしてしまっていた。


「おい、そこの薄汚い平民!」


 まるで誘蛾灯に集まる蛾のように、少女の前に偉そうな態度の男が立ちふさがる。


 その男は煌びやかな意匠の服を着て悪趣味な真っ赤なマントを羽織っていた。


 見るからに貴族のボンボン息子といった風体の男は、背後に取り巻きらしい少年少女を五人も従えている。どうやらかなり位が高い貴族のボンボンらしい。


 水色髪の少女は唐突に行く手を遮られ、あまつさえボンボンの高圧的な態度にすっかり怯えてしまっていた。


「貴様、いったい誰の許可を得てここに居る? この崇高な学び舎は貴様のような薄汚い下民の立ち入って良い場所じゃない!」


「ぇ、で、でも、さっき神父様が、わたしが授かったスキルを聞いて、すぐにここへ行きなさいって……」


 ん? ついさっきスキルを授かったばかりなのか?


 神からスキルを授かったのが入学試験から一か月以内であれば、入学試験への参加義務は次年度に持ち越される決まりだ。俺はギリギリで参加義務に引っかかったから大慌てで王都へ来る羽目になったわけだが。


 王都の教会に居る神父がそれを知らないとは思えない。彼女が授かったスキルが、よほど優秀だったのだろうか。


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