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第203話:フフフ…セッ――(ルー三人称視点&日記)

「ふふっ。さすが私なのです」


 自らの生まれた日の記述を読みながら、ルーはどこか誇らしげに微笑む。親たちの仲の良さそうなやり取りや、初めての出産に対するソワソワ感が伝わって来る文章を読むのがルーは大好きだった。


 さらにページを捲って行くと、日記にはたびたび自分が登場するようになる。赤ん坊の頃のルーはまさに自由奔放で、ヒューやリリィをとてもとても振り回していた。


 それが面白くて、平和で、楽しそうで。パパやママたちがずっとこんな日々を過ごせたら良かったのにと、そう思わずには居られない。


 あっという間に、日記では二年の月日が経った。


 リリィは毎日日記を書いているわけではなく、当時は色々と多忙でもあったのだろう。一か月ほどの期間が空いて書かれた日記には彼女にとって大きな出来事が記されていた。





【3月25日】


 妊娠した……かもしれない。


 少し前から体調不良が続いていてもしかしたらとは思っていたのだけど、乳房の張りやお腹が少しずつ膨らんできたりして、他にも幾つか兆候があったからティアやレクティに相談したら絶対にそうだ、と。


 それはまあ、やることやってれば妊娠するわよね、うん。


 本当はルーが無事に成長するまで待つべきだとも思ったのだけど、ティアから「そんな悠長なことを言ってたらお祖母ちゃんになっちゃうよ! レクティも待ってるんだから、つべこべ言わずにヒューと寝なさい!」って怒られちゃったのよね……。


 ルーが生まれて、ティアはすっかりお母さんが板について来た気がするわ。


 忙しさを言い訳にヒューとの営みを避けて来たわけだけど、本当は怖かった。


 自分はちゃんと子供を宿せるのかとか、無事に出産できるのかとか、そういうことを色々と考えてしまって……。そんな相談をティアにしたら、ティアは頬を赤く染めて私の耳元で囁くようにこう言った。


「とりあえず、楽しんでみたら? その、気持ちいい……よ?」


 ……うん、まあ、めちゃくちゃ気持ちよかったけども。


 身も蓋もない言葉で背中を押されて、それから何度もヒューと夜を共にした。


 ヒューも私を気遣ってくれて、大切にしてくれた。体力のない私が疲れたら優しく抱きしめてくれたし、時には激しく、時には少し大胆な冒険も…………って日記に何を書いてるのよ私は。


 とにかく、子供を宿せてホッとした。もちろんまだ無事に出産できるかわからないけど、ヒューとの愛の結晶がお腹の中に居る。そう思うと心が温かくなっていく。


 本当はこのことをお父様やお母様にも知らせたいけれど……。


 伝え聞く内戦の状況は、徐々にスレイ殿下派に傾きつつあるらしい。噂では帝国の一部の部隊が国境を越えて王国に侵攻。スレイ殿下派に合流したそうだ。帝国の後ろ盾を得たスレイ殿下派は着実にブルート殿下派を王都やその周辺から排除しつつある。


 王都での戦況が優勢となり、ピュリディ領への攻撃も段々と規模が大きくなっているらしい。リリィガーデンには五年分の食料備蓄が常に用意されていたけど、あくまで机上の計算で用意されたものだ。今はどれくらい残っているかわからない。


 無事に赤ん坊が生まれたら、お父様とお母様にも抱いて欲しい。


 そんな未来が、どうか訪れますように。




【7月10日】


 お腹が随分と大きくなって日常生活もなかなか大変になって来た今日この頃、私はとある違和感に気づいた。赤ん坊は元気に私のお腹を中から蹴って来るのだけど、それとは別で控えめにお腹を蹴る感覚が同時にあったのだ。


 まさか私の子供、足が四本ある……!?


 そんな不安がよぎってレクティに相談したら、レクティは血相を変えて方々に知らせて回った。私のお腹の中の子は、双子かもしれないと。


 言われてみれば確かに、私のお腹はティアの時よりも大きく膨らんでいるかもしれない。体型の差だと思っていたのだけど、どうやらそうじゃなかったらしい。


 それからすぐにヒューが手配してくれた馬車で診療所へと向かい、私は処置室でレクティの触診を受けた。


 ルーを取り上げて以降、レクティは助産師としても活躍している。妊婦の診察も経験豊富で、そんなレクティが下した診断はやっぱり、私のお腹の中の子は双子だという。


「幸いどちらも逆子ではなさそうですけど、双子の場合は早産や難産になりやすいので注意が必要です。いつ陣痛が始まってもおかしくないので、とりあえず今日からは仕事も休んで安静にしてください」


 レクティは診療所で出産の準備を進めつつ、私からじゃ言い出しづらいだろうからと、私が仕事を休めるように代理をマイク様やティアに頼みに行ってくれた。


 妊娠後からレクティには何かとお世話になりっぱなしだわ。


 このところプノシス領を訪れる避難民は更に増えて、ヒューは多忙を極めている。そんな彼にはなかなか甘えることが出来なくて、私が精神的に苦しくなった時はレクティが一緒のベッドで寝てくれたり、よしよししてくれたり。


 学生の頃は私がレクティの面倒を見ているつもりだったけれど、今じゃすっかり立場が逆転しちゃっている気がするわ……。




【7月28日】


 ようやく落ち着いたから、ここ数日のことを書こうと思う。


 まず、私は無事に子供たちの出産を終えることが出来た。


 それもこれもレクティやヒュー、ティアやレインお義母様、マイク様、プラムやセルバスさん、プノシス領のみんなの尽力のおかげね。


 子供たちも元気に生まれて来てくれて本当に良かった。


 特に先に生まれた女の子のほうは元気いっぱいで、屋敷のどこに居ても泣き声が聞こえてくるくらい。今もすぐ隣のゆりかごに寝かせているのだけど、眠りながらも落ち着きなく手足を動かしていて、隣で寝ている弟の顔をぺしぺし叩いてしまっている。


 あまりに可哀想だから別々のゆりかごで寝かせようとしたら、なぜか離すと両方泣いちゃうのよね……。弟のほうは叩かれても気にしてないみたいだから、しばらくこのままのほうが良いかしら。


 ティアとレクティが言うには、姉のほうが私似で、弟のほうがヒューにそっくりらしいわ。私はどちらもヒューに似ていると思うのだけど、まあ見る人の感じ方次第よね。


 ……私の子供たち、か。


 子をなすのは貴族の務め。私はその務めを果たせてホッとしている一方で、母親になった自覚をあまり感じられずに居る。


 子供を産めば自然と母親になるものだと思っていたけれど……。


 もちろん、子供たちは可愛い。


 ヒューと名前を考えている時間はとても幸せで満ち足りたものだった。


 けれどふと一人で子供たちの傍に居る時、私はお父様やお母様が私を育ててくれたように親としてこの子たちを立派に育てられるのかと不安に思ってしまう。


 ……ダメね、こんな調子じゃ。


 王国内の情勢は刻一刻と変化していて、その影響は辺境に位置するプノシス領にも押し寄せている。プノシス領を訪れる避難民は後を絶たないし、その受け入れ態勢や食料問題への対応。そして万が一の侵攻に備えた砦の建設など。やるべきことは山積みだ。


 マイク様やティアに代理をお願いした仕事も、伝え聞く進捗はあまり良くなさそうなのよね……。


 だから、私がもっとしっかりしないと。


 育児も仕事もこなしてこそ、一流の淑女なのだから。


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