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第2話:神の試練

ヒュー・プノシス 

スキル:洗脳Lv.1 ……目があった対象を意のままに操る(最大対象数1)



 ステータスパネルに表示された文言は何度まばたきをしても目を擦っても消えない。諦めきれずにもう一度、祈りを捧げてみたけど神の声は聞こえてこなかった。


 マジか。マジかぁ……。


「俺の人生、終了のお知らせ……」


 スキル〈洗脳〉。


 こんなスキルを授かったと知られれば、間違いなく処刑コースまっしぐらだ。そうでなくても、父上と母上には家族の縁を切られるだろう。誰も好き好んで、俺に〈洗脳〉されるリスクを負って近づこうとはするまい。


 最低でも生涯孤独が確定。いっそエロ同人みたいに洗脳ハーレムを作ってしまうかと開き直れるかと言えば、スキル説明にある〈最大対象数1〉の文言が邪魔をする。


 これはおそらく、同時に洗脳できるのは一名までという制約だ。レベルの概念がある事から、スキルのレベルを上げれば同時に洗脳できる人数は増えるかもしれないが……。


 たかが数人洗脳出来たところで、知れてるよなぁ……。


 一時の快楽を満たすためなら有用だろう。だけど俺には前世で得られなかった悠々自適なスローライフを送ると言う目標がある。洗脳スキルで好き放題して身を亡ぼすなんて望んじゃいないのだ。


 とにかく、これからどうするかを考えないとな……。


「スキルは授かりましたかな?」


「うわっはぁ!?」


 唐突に声が聞こえて思わず変な声が出てしまった。振り返ると老神父が心配そうな顔で扉を開けてこちらを見ている。出て来るのが遅くて不審がられたらしい。


「え、ええ。まあ……」


「それは何よりです。お父上がお待ちですよ。ささ、こちらへ」


「は、はい……」


 老神父に促されて歩き出す。たしか授かったスキルは特殊な魔道具を使わなければ他人から見られないはず。


 老神父には俺がどんなスキルを授かったのかバレていないとは思うが……、何というか悪事を隠しているような緊張感だ。何も悪い事してないのに!


「そう気を落とさないでください」


「へっ?」


「神は人に乗り越えられない試練をお与えにはなりません。貴方が授かったスキルがどのようなものであれ、必ずや貴方の糧となるでしょう」


「老神父様……」


「そう。たとえ〈おならが物凄く臭くなるスキル〉でもね」


「めっちゃ良い感じに話してたのに例えが下手すぎませんか!?」


 冗談ですよ、と老神父は笑う。俺の授かったスキルが良くなかったと察して励ましてくれていたようだが、それにしたって例えが下手すぎないか……?


 まあ、おかげで少しだけ気持ちが楽になった。


 教会の外へ出ると、父上は御者を務めてくれていた執事と談笑をしていた。戻ってきた俺を見て早足で駆け寄って来る。


「遅かったじゃないか、ヒュー。スキルは無事に授かったか?」


「え、ええ。何とか」


「む? その煮え切らない返事、気になるな。いったいどんなスキルを授かったんだ?」


「そ、それは……」


 不味いっ、老神父に急かされて言い訳を考えてなかった……!


 素直に〈洗脳〉なんて答えたら俺の人生が終わる。洗脳スキルで誤魔化そうにも対象は一人だけ。この場には父上の他に執事と老神父が居る。やっぱり使いづらいな、このスキル!


 何とか誤魔化さなければ……っ!


「え、えっと……。なんか、手から火が出て来る的な?」


 誤魔化すの下手すぎるだろ俺ぇええええ!?


 なんだよ、手から火が出るって! もっと他にそれっぽいスキルがあっただろ!?


「なに、〈発火ファイヤキネシス〉だと!? それはまた凄まじいスキルを授かったな……」


「さすが領主様のご子息ですな」


「よしてくれ、神父よ。……うぅーむ。昔から俺の息子にしては優秀だと思っていたがここまでとはなぁ」


「え、えっと、父上……? なにか不味かったでしょうか……?」


 口から出まかせで発してしまったが、父上の受け取り方が気になって尋ねる。もしや発火スキルも王族や大貴族から危険視されかねないスキルなのか……?


「いいや、そうではない。ただ、戦闘向きのスキルだったのでな。少しばかり報告が必要になっただけだ。〈発火〉のスキルはそう珍しいものでもない。心配するな」


「は、はぁ」


 父上が心配するなと言うなら、問題は無いのだろう。な、何とか誤魔化せたか……。


 報告が必要らしいが、そりゃ火を起こせるスキルはそれなりに危険か。前世で言えば車の免許とか、爆発物取り扱いの免許みたいなものが必要になるんだろう。


 本当は〈発火〉とは比べ物にならないほど危険なスキルなんだが……。


「そろそろ戻るぞ。ヒュー、帰ったら母さんにスキルを見せてやってくれ」


「そ、それはちょっと! 今日はもう疲れてしまったので……!」


「そうか? まあ、お前朝から緊張でガチガチだったものなぁ。わかった、今日はもうゆっくり休みなさい」


「ありがとうございます、父上……っ!」


 あっぶねぇー。危うくスキルバレRTAになるところだった。


 何とかこの場は誤魔化せたものの、洗脳スキルなんて爆弾を抱えたままの生活は先行きに不安しかない。


 老神父は「神は乗り越えられない試練を与えない」とかなんとか言っていたが、この試練は本当に乗り越えられるんだろうなぁ……?


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