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第189話:わたしたちいつまで寝てるふりすればいいんだろう……?

 あれから三時間後。川遊びを終えた俺たちは再び馬車に揺られていた。対面に座るティアとレクティはすっかり遊び疲れてしまったようで、二人で寄り添いあうように眠っている。


 彼女たちの足元では水の入った桶の中で一匹の川魚が退屈そうに泳いでいた。このまま宿に持って行って料理に使ってもらうらしい。


 ティアとレクティが眠ってしまったことで、馬車の中で起きているのは俺とリリィの二人きりだ。さっきの出来事もあってめちゃくちゃ気まずい……! いちおう誠心誠意謝って許して貰ったけど、リリィを見るとどうしてもさっきの光景が脳裏に浮かんでしまう。


 ……ってダメだダメだダメだ! 思い出したらドツボに嵌ってしまう。思春期真っ盛り十五歳の肉体はあまりに敏感すぎるのだ。やっぱり〈洗脳〉スキルを使って記憶から消去するべきか!?


「……ねえ」


 唐突にリリィから声をかけられ、俺は思わずビクッと飛び跳ねてしまった。


「はいっ!? な、なんでございましょうか……?」


「もしかして、さっきのことを思い出していたのかしら?」


「ぐっ……」


 図星を突かれて言葉が詰まった。


 リリィは窓枠に肘を置き、頬杖をつきながらこちらに翡翠色の瞳を向けて来る。俺の反応を楽しむかのように、その口元には笑みが浮かんでいた。


「良いのよ? 好きなだけ思い出してくれても。おっぱいを見られたくらいどうってことないわ。どうせ私と貴方は結婚するのだし。結婚したら好きなだけ見放題なわけなのだから」


「いや見放題ではないだろ……。冷静に考えて、いつどこでも『おっぱい見せて!』なんて言って来る旦那普通に嫌じゃないか?」


「…………貴方ならギリギリ許せるわ」


「ギリギリかよ。……と言うか」


 リリィの表情をじっと観察する。余裕がある風を装っているけど、よくよく見れば頬が赤らんで瞳は落ち着きなく揺れている。リリィも動揺がまだ収まっていないらしい。


「えっと、改めてになるけどさっきは本当にすまなかった。リリィが望むならさっきのことはちゃんと忘れる」


「それはダメ。むしろずっと憶えていなさい。そうじゃないと私の見られ損だもの」


 見られ損って……。リリィらしいと言うか何と言うか……。まあ確かに、俺だけ記憶を消して忘れてしまうのは、俺だけが楽になるってことなのかもしれないが……。


「それに、動揺している貴方を見られて少しだけ嬉しかったもの。貴方っててっきり、小さな胸が好きだと思っていたから」


「いや、そんなことは……」


 ない……と言いかけて無意識に視線が正面で眠っている二人の少女へ向いてしまう。もちろん胸の大きさで好きかどうかが決まるわけじゃない。ただ傾向として、たまたま好きになった女の子の胸が小さいというのはあるのかもしれない。


「……もしかして、気にしてたのか?」


 俺が尋ねると、リリィは無言で頬杖を止めて座席に座りなおす。それから俺のほうへ少し移動し、どすッと脇腹に肘打ちしてきた。


「デリカシーのない旦那様は嫌いよ?」


「申し訳ありませんでした」


「でも、そうね。不安じゃなかったと言えば嘘になるかしら。貴方ったら傍から見てもティアにぞっこんだったんだもの。第二夫人として本当に愛してもらえるか、貴方とティアの邪魔になってしまうんじゃないかってずっと不安だった」


「…………ごめん」


「いいのよ。貴方が私の胸でちゃんと興奮してくれると知れてひとまず安心したわ」


「その安心の仕方はどうなんだ……?」


「うふふっ。ずっと不安を抱えているよりはマシでしょう?」


「それはまあ、そうか……」


 リリィは細い腕を俺の肩へと回し、ゆっくりと力を込める。それに身を任せると、俺の体はゆっくりと傾いてリリィの太ももに頭を置いていた。柔らかくて、程よく弾力があって、何よりも優しい温もりが心地いい。


「私の胸、どうだったかしら?」


「か、感想を言わなきゃダメなのか……!? えっと、その、綺麗……だった」


「それだけ?」


「お、大きくて、触り心地も良さそうで……っ」


「それから?」


「それから!? ……め、めちゃくちゃエロかった」


 顔から火が出そうなほど恥ずかしい。思わず両手で顔を覆ってしまった指の隙間から、赤面したリリィが満足げに微笑むのが見えた。これはもしかして、俺を自分と同じくらい恥ずかしい目にあわせようというリリィなりの意趣返しだろうか。


 だとしたら大成功だ。そして俺はもう二度と、リリィのおっぱいを忘れられそうにない。ふとした拍子に何度も思い出すことになり、毎晩悶々とした時間を過ごすことになるんだろう。結婚したら憶えてろよマジで……。


「……そう言えばレクティの件なのだけど」


「この流れで?」


 唐突な話題の転換に困惑する。どうやらリリィは俺の反応を楽しんで満足しきったらしい。俺の髪を細い指先で優しく撫でながら話を続ける。


「明日はレクティが貴方の隣に座る日でしょう? だけど、馬車での移動は午前中だけになりそうなのよ」


「ああ、そっか。町と町の距離が近いんだっけ……」


 次の町からその次の町への移動距離は今日よりもさらに短い。そのさらに次の町は、次の次の町を早朝に出て夕暮れにギリギリ間に合うかどうかという距離にある。野宿を避けるように進むなら、明日はお昼頃に町へ到着してそのまま一泊することになるだろう。


「だから明日の午後は、貴方とレクティを二人きりにしてあげるわ。きっとティアも協力してくれるでしょうから、二人で町を観光するのはどうかしら?」


「そうだな……」


 レクティと町を色々と見て回って、イイ感じのタイミングでプレゼントを渡しプロポーズする。……よし、それでいこう。


「気を遣ってくれてありがとな、リリィ」


「これくらい、第二夫人として当然よ。レクティのこと、よろしくお願いね?」


「ああ、任せてくれ」


 俺の返事にリリィは優しく微笑む。その表情はどことなく、プノシス領に居る母上や前世の母さんの面影を感じさせた。


「リリィって、面倒見の良いお母さんになりそうだよな」


「…………えっち。お前を母親にしてやるなんて直接的過ぎるわよ」


「言ってない言ってない」


 何でもかんでもそう言う話に結びつけてしまう精神状態から抜け出すには、お互いにもう少し時間がかかりそうだ。

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