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第188話:編集さんここ口絵でお願いします

 ティアの髪色を落ち着かせている内に、馬車の扉が開いて水着に着替えたレクティとリリィが降りて来た。


「お、お待たせしましたっ!」


 レクティは恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、窺うような視線を俺に向ける。


「その……、どう、ですか?」


 どうとはもちろん、水着の感想だろう。レクティの水着は淡いラベンダー色のビキニに、腰には髪色と同じく水色の薄いパレオを巻いている。ビキニには小さなリボンがついていて、透明感と控えめな可愛らしさがレクティにとてもよく似合っていた。


「ああ、すごく可愛いよ。レクティにピッタリだと思う」


 本当はもっと褒めたいのに、自分の語彙力の無さが恨めしい。それでもレクティは喜んでくれたようで、蕾が花開くような可憐な笑みを浮かべてくれる。


「うふふっ。嬉しいです、ヒューさん。ありがとうございます。少し冒険した甲斐がありましたっ」


 ビキニタイプの水着はたしかに、控えめな性格のレクティにしては大胆に思える。以前事故でレクティの裸を見てしまった時には、自己評価の低さから逆に俺に対して謝って来た彼女だ。ビキニを着られるくらいには、自分に自信がついて来たということかもしれない。


 あんまりあの時のことを思い出したくないけど、あの時と比べればレクティの肉付きは良くなったと感じる。あばらもあまり目立たなくなったし、心なしか胸も大きくなったような……。


「ひゅーうー? レクティのいったいどこに注目してるのかなぁー?」


「ご、誤解だティア! 俺は別にやましい気持ちでレクティの胸を見ていないっ!」


「語るに落ちるって今のヒューのことだと思うよっ!?」


 どちらかと言えば娘の健康を心配する父親の気持ちに近い感情だったんだが、まあ胸を見てしまっていたことに違いはない。甘んじて頬をぷくっと膨らませたティアにポコポコと叩かれよう。


 それはそれとして、だ。


「えーっと、リリィは何をしてるんだ?」


 レクティの後ろ。彼女の背中に隠れるようにじっと息を潜めていたリリィが、俺の声に反応してビクッと肩を震わせる。それから恐る恐るといった様子で、リリィはレクティの背後から顔だけを覗かせた。


「そ、その……。選んでいる時は、貴方を悩殺してあげようと思ってノリノリだったのよ? でも、実際に着てみると思ったより大胆だったというか、私が恥ずかしくなってしまったというか……」


 リリィは頬を赤く染めてぼどぼどと言い淀む。り、リリィがこんなに恥ずかしがるっていったいどんな水着なんだ……!?


「リリィちゃん、せっかく着替えたんですしヒューさんに見てもらいましょう?」


「うっ……。わ、わかったわ」


 レクティに促され、リリィは意を決した様子で俺に水着姿を披露する。彼女の水着はワインレッドのトライアングルビキニ。とてもシンプルで、それ単体ならそれほど恥ずかしがるような大胆さではないと思う。


 だけどそれを着ているのがグラビアアイドル顔負けのプロモーションを持つリリィだ。サイズも彼女には少し小さかったのかもしれない。はち切れんばかりのビキニからは収まりきらなかった果実が溢れてしまっている。


「そ、その。ご感想は……?」


「めっちゃエ……魅力的だと思う!」


 あぶねぇ、危うくエロいって言いかけた。さすがにエロいは感想として直接的すぎる。ティアが「じとー……」とこちらを見てくるから誤魔化せたか微妙だけどまあ大丈夫だろう。


「そ、そう。それなら良いのだけど……」


 リリィは毛先をくるくると回しながら呟く。その口元はどことなく嬉しそうに緩んで見えた。リリィが他の誰のためでもなく、俺に見せるためだけに大胆な水着を着てくれている。その事実にさっきから心臓がバクバクだった。


 もちろんティアやレクティの水着も魅力的だと思ったけど、リリィの水着姿はそれ以上の破壊力がある。……いや、視線を吸い寄せる魔力と言うべきか!


「むぅー! ヒューのえっち! ほら、早く川に行こうっ!」


「そ、そうですっ! ヒューさん、行きましょう!」


 リリィから視線を外せずに居た俺は、ティアとレクティに引っ張られてようやく魔力から解放された。あ、危なかった。もう少しで俺は理性と尊厳を失うところだった。


 ホッと息を吐き、二人に手を引かれるままお小川の中に入って行く。


「冷たっ!?」


 川の水は俺が想像していたよりもはるかに冷たかった。水深は深い所でも俺の膝くらい。泳いだりはできなさそうだけど、水温が低いからこれくらいが丁度いいかもしれない。


 水はとても透き通っていて、波立つ水面は太陽の光を眩く反射している。


「見て、ヒュー! お魚さんっ!」


 ティアが指し示す先、川底の大きな石の陰に川魚が見えた。水が綺麗だから魚影もハッキリと見える。ぱっと見かなりの大きさだ。ニ十センチはあるだろうか。


「美味しそうだね、レクティ」


「はい。捕まえて夕食にしましょう」


「うんっ!」


 ティアとレクティが瞳を輝かせて魚にゆっくりと近づいて行く。たぶん夕食は次の街の宿でちゃんとしたものが出て来ると思うけど、まあ楽しそうだからいいか。


 二人の邪魔をしないように少し離れて振り返る。すると小川の淵でリリィが途方に暮れた様子で立ち尽くしていた。水着姿は目に毒だけど見て見ぬふりをするわけにも行かない。


「どうしたんだ、リリィ。川に入らないのか?」


「えっと、この川、深くないわよね……?」


「ああ、うん。見ての通り、俺の膝下くらいしかないよ」


 だから怖がらなくても大丈夫。そう言葉にする代わりに、リリィに向かって手を伸ばす。


 リリィは俺の手を掴み、恐る恐る川の中に足を踏み入れた。


「きゃっ、冷たい……っ!」


 水の冷たさが予想を上回ったんだろう。リリィは俺と同じような反応をして、俺の体に縋り付いて来る。普段よりも遥かに少ない布面積。彼女の色白で張りのある肌とその弾力をダイレクトに感じてしまい、俺の心臓は早鐘を打ち続ける。


 心臓の鼓動の数って一生の内の上限が決まっていると聞いたことがある。たぶんこのペースだと明日には俺の心臓は静かに眠りにつくだろう。


「ご、ごめんなさいっ。こ、こんなに甘えるつもりじゃなかったのだけど、その、泳ぐのもあまり得意ではなくて……っ」


「い、いや。気にしないでくれ。大丈夫だ、俺が傍に居るから」


 こんな浅い川でも何かの拍子で溺れることだってあるかもしれない。だからリリィのことは注意深く見守っていよう。決して水着姿を堂々と見たいとかそう言うのじゃない。あくまで彼女の安全のためだ。


 なんて考えていた矢先、


「ヒュー! そっちにお魚さん行っちゃった!」


「捕まえてください、ヒューさんっ!」


 ティアとレクティが取り逃した魚がこっちに向かって泳いで来た。咄嗟に水面へ手を突っ込むが、魚は俺の股下を潜り抜けてリリィのほうへ泳いで行ってしまう。


「えっ、やだ、きゃぁっ!?」


 魚に驚いたリリィはその場で足踏みをしてしまい、川底の石で足を滑らせた!


「リリィっ!」


 咄嗟にリリィに向かって手を伸ばす。だが、俺の右手はリリィの胸元を掠めただけで間に合わなかった。


 ばちゃーんっと水飛沫があがり、リリィが川底にしりもちをつく。幸い頭から倒れたりはしなかったようで、「冷たぁーいっ……」とリリィは小さく悲鳴を上げる。どうやら大怪我はしてなさそうだ。


 ホッと胸を撫で下ろし、ふと気づく。俺がリリィに伸ばした右手は、布のような何かを掴んでいた。持ち上げて確認してみると、それはワインレッド色のビキニ……?


 どうしてリリィの水着がこんなところに? この布はリリィの豊満なバストをしっかりと守っているはず……で。


 張りのある肌に弾かれた水滴が、血管が浮かんだ大きくも美しい乳房に沿って流れ落ちる。肌に張り付いた髪は艶めかしく、リリィは目尻に涙を浮かべて頬を赤らめていた。


 リリィの胸元を覆い隠す布はなかった。当然だ、俺が今この手に持ってしまっているのだから。


 サァーッと全身から血の気が引いて行く。


 直後、


「きゃぁああああああああああああああああっっっ!!」


 リリィの悲鳴が小川に響き渡ったのだった。


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