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第187話:髪が七色しんふぉにー、もしくは髪が七色に光るなら

「そろそろレクティにプロポーズしようと思うんだ」


 そんな話をリリィに相談したのは、次の街への道中のこと。馬車を引く馬を休ませるため小川の近くで休憩を兼ねた昼食を済ませたタイミングだ。


 昼食を終えたらすぐ、ルーグとレクティは小川に降りて行った。プラムさんが用意してくれたテーブルには俺とリリィだけが残っていたから、話をするのにちょうど良かったのだ。


 ちなみに、今日のリリィはネイビーブル―のワンピースを身にまとっている。落ち着いた色合いと涼やかさが、彼女の大人びた雰囲気によく似合っていた。


「…………いまさら?」


 俺の発言を聞いたリリィはジトーという視線を向けて来る。


 ……いや、まあ、自分でもそう思う。俺の悪い癖だ。レクティに告白されてから、結局ここまでなあなあで過ごしてしまっていた。俺はまだ、彼女にちゃんと返事を伝えられていない。


「まあ、ちゃんと段階を踏んでいるからいいとは思うけれど……。ティアや私への配慮もあったのでしょう?」


「それはまあ、そうなんだが……」


 ティアやリリィとの関係をはっきりさせるまで返事が出来なかったのは確かにある。ただ、俺がもうちょっと器用に立ち回れていたら、こんなにレクティを待たせることもなかったはずだ。


 あの日、大聖堂でレクティにキスをされてからもう二か月経とうとしている。さすがに待たせすぎだ。もうとっくの昔に愛想を尽かされていても不思議じゃない。


 そのような話をリリィにすると、彼女は呆れたようにため息を吐く。


「いくら私に誘われても、好きでもない男の里帰りについて来るわけがないでしょう? 学園にはロザリィも残っているのだし、その辺はちゃんと考えられる子よ」


「そ、それもそうか……」


「ええ。私たちに気を遣っているわけでもないと思うわ。その証拠に、ほら」


 リリィの視線の先。俺たちが座っている所から少し下がったところにある小川の中で、レクティはルーグと楽しそうに水をかけあっていた。嫌々ついてきたという雰囲気はたしかにない。


「――って、こら二人ともっ! 川に入るなら水着に着替えなさいっ!」


 服をびちゃびちゃにしかけていたルーグとレクティに気づいて、リリィが慌てて声をかける。


 次の街にはこのまま順調に進めば三時間ほどで着くらしく、日暮れまでにはまだまだ余裕がある。今後の旅程を考えると馬も長めに休ませたほうがいいとのことで、俺たちは水着に着替えて川遊びをすることにした。


 ピュリディ家が用意してくれた荷物の中から水着を受け取り (なんで水着まで用意してあるんだ?)、近くの木陰で着替える。女子三人は馬車の中で着替えているのだが、少し離れたここまで楽しそうにはしゃぐ声が聞こえて来た。


 三人ともどんな水着なんだろう。おそらくリリィのチョイスだから、似合っているのは間違いない。ルーグなら例えば……って、ちょっと待て。


 ルーグの水着はどうするつもりなんだ?


「ヒューお待たせっ!」


 一番に着替え終えたのだろうルーグが馬車の扉を開いて外に出て来た。まだ着替え中だったらしいリリィとレクティが慌てて扉を閉めるところを見てしまったが、……一瞬だったからギリギリセーフだ。俺は何も見ていない……。


 意識を目の前のルーグに引き戻す……と、


「どうかな、ヒュー? 似合ってる……?」


 目の前には銀色の髪を腰のあたりまで伸ばした可憐な美少女が居た。身にまとっているのは白いワンピース風の水着。控えめな肌の露出が慎ましやかな印象を感じさせるが、ふんだんに使われたフリルが可愛らしさを強くアピールしている。


 なんか情報が渋滞してるんだが……。


「すまん、とりあえず色々と整理させてくれ。まず、水着はめちゃくちゃ可愛い。妖精みたいで最高に似合ってる」


「ホントっ!? えへへ、ヒューに褒められると照れちゃうなぁ」


「……それで、その髪はどうしたんだ?」


 俺が尋ねると、ルーグは「これ?」と自身の髪をふぁさっと風に揺らす。太陽の光を浴びた銀色の髪はキラキラと輝いた。


「えっとね、プラムさんわたしの事情をルー兄様から聞いてたんだって」


「えっ? そうなのか?」


「うん。あ! 聞いてよ、ヒュー。ルー兄様ったら酷いんだよ? ルー兄様がプラムさんに事情を説明した理由、わたしがどうせ正体を隠し切れないからだって! わたしちゃんと正体を隠しきれるもんっ! もーっ、ルー兄様ったら失礼なんだから!」


「あー……、うん。そうだな」


 プンスコと怒るティアには言いたいことが山ほどあったけど、藪蛇になりそうだから同意しておこう。さすがポンコツ姫の兄上。妹のことをよく理解していらっしゃる。


「それでね、リリィに相談したら旅の間は男の子のふりをしなくても良いんじゃないかしらって。ヒューのご両親に挨拶する時も、男の子のまんまだと変だもんね」


「それはまあ確かに。なるほど、それで髪を伸ばしたのか」


「うんっ。金色だとさすがに目立っちゃうから、銀色で伸ばしてみたの! どう? 似合うかなっ?」


「それはもちろん」


 ルーグで見慣れた銀色の髪だけど、長さが変わっただけで雰囲気がまるで違う。かろうじてあったボーイッシュさは霧散し、残るのは魅力的な女の子らしさだけだ。水着も相まって、ティアへの愛おしさが溢れそうになる。


「それにしても、その魔道具って凄いな。こんなに自由に髪を伸ばしたり色を変えたりできるのか」


 ティアが首から下げている満月と花冠を象ったペンダント。彼女の髪型と髪色はそのペンダントによって調整されたものだ。


 この世界にはファンタジーによくある魔法は無いけど、それに近しい物としてスキルと魔道具が存在している。スキルは言わずもがな、魔道具もなかなか不思議だよなぁ。


「髪の長さも色も自由自在だよ? ほら、こんな感じに!」


 ティアがペンダントに触れると、彼女の髪が伸縮を繰り返して七色に点滅し始める。


 ……うん、気持ち悪いからやめような?


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