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第186話:ルーグ「何が悪いのか具体的に説明してくれる?」

 翌朝、俺はベッドの上ではりつけにされていた。左腕はルーグの枕にされ、右腕はリリィの枕にされている。一晩の間にすっかり痺れてしまい、とてもじゃないが腕は動かせそうにない。


 どうしてこうなったのかと言えば、昨晩のこと。


 リリィのピアスホールをなんとか無事に開け終え、疲労困憊で二人揃ってベッドに倒れ込んでいたところにルーグが突撃してきた。あの後ルーグの誤解はすぐに解けたのだが、俺とルーグが一緒に眠ると聞いたリリィは「今日は私もここで眠るわね」と言い出した。


「貴方とヒューを二人きりにしたら何をしでかすかわからないもの」


「むぅー。それはリリィもでしょー?」


「……まあ、そうだけれど。だから、相互監視するのはどうかしら。それならお互いに安心でしょう?」


「なるほど!」


 いやなるほどじゃないが。


 普通に一人で寝させて欲しいと言える雰囲気ではなく、こうして三人で眠ることになったのだ。


 窓から差し込む柔らかな日差しが部屋の中を照らしている。プラムさんが迎えに来るまでに支度や朝食を済ませるにはそろそろ起きなきゃいけないのだけど……、


「ひゅぅ、だいしゅきぃ……」


「うふふ、あいしているわ、だんなさま」


 二人の美少女は幸せな寝言を言いながら俺の体に密着して来る。ルーグに関してはまあ、いつものことだ。入学からほぼ毎晩抱き着かれていたらさすがに慣れる。もちろんドキドキはするけど、まだギリギリ耐えられる。


 けど、リリィは無理だ。


 桃のような甘い香りと、右の脇腹に当たり続ける柔らかくも弾力のある感触。()()()()()()()()、刺激が余りにも強すぎる。とても健康な十五歳男子の肉体に耐えられるものじゃない。


 何とか二人に気づかれる前にトイレへ駆けこまなければ……っ! しかし、両腕はしっかり二人の枕にされている上に痺れてまったく動かせないっ! 万事休すか……っ!


 いずれ結婚するなら別に見られても大丈夫かもしれないし、自信がないってわけでもない。けど、それはそれだ。恥ずかしいものは恥ずかしい。と言うか、これ以上の刺激は暴発の危険がある。それだけは何としても避けたい……っ!


 多少のリスクは生じるが、まずは二人に起きてもらおう。両腕の痺れが取れて動かせるようになったら、タイミングを見計らい自然な様子でトイレに向かう。うん、もうそれしかない。


 そう思って二人を起こすため声を出そうとしたら、


「ヒューさん起きてますか!? リリィちゃんとルーグさんが部屋に居なくてっ!」


 部屋の扉が勢いよく開かれ、血相を変えたレクティが部屋の中に飛び込んできた! 


 そして彼女が目撃したのは、キングサイズのベッドに三人並んで眠る俺たちの姿。レクティはアメジスト色の目を見開いて体を硬直させる。


「あ、あの、レクティ……。これには色々と深い事情が」


 俺が必死に言葉を探しながら説明をしようとしている間に、レクティの顔はみるみる赤くなっていく。


 ……ああ、これ絶対に勘違いされてるやつだ。


「お、おおおお邪魔しましたーっ!」


「ま、待ってくれレクティ! 話を……」


 ばたんっと扉が閉じられる。これはまた、誤解を解くのが大変そうだぞ……。


   ◇


 その後、レクティの声と扉の開閉音で目を覚ましたルーグとリリィには自分の部屋へと戻ってもらい、なんとか無事に男子の尊厳を守ることができた。いや、もしかしたら二人とも気づかない振りをしてくれただけかもしれないが、それを確かめる術はない。


 とりあえず服を着替えて支度を整える。昨日までは王立学園の制服を着ていたけど、今日からは普通の旅装束だ。王都から離れた所で制服を着ていたら変に目立ちそうだからな。


 着替えを終えて廊下に出ると、朝食がレクティの部屋に運び込まれていた。リリィがまだ支度中だから、先に起きていたレクティの部屋で朝食の準備がされているんだろう。


 さっきの誤解を解いておきたいし、朝食前にレクティと話しておくか。


 朝食の準備をしてくれている宿のスタッフさんたちに会釈しつつ、レクティの部屋の中に入る。レクティはソファの端っこにちょこんと座っていたが、俺の姿を見てソファから立ち上がる。


「あ、お、おはようございます、ヒューさんっ!」


 ぺこりと頭を下げたレクティが身にまとっているのは、真っ白なワンピース。彼女の清涼感漂う淡い水色の髪と、清楚で可憐さを感じさせる白色のワンピースの組み合わせはレクティにとてもよく似合っていた。


「えっと、ヒューさん……?」


「っと、すまん。おはよう、レクティ」


 思わず見惚れてしまっていた俺は、慌ててレクティに返事をする。


「えーっと、座って大丈夫か?」


「も、もちろんですっ!」


 どうぞどうぞと促され、レクティの対面のソファに腰掛ける。レクティもソファに座りなおすが、そわそわと落ち着かない様子だ。さっきの出来事を気にしているんだろうか。


「その……先ほどはお邪魔してすみませんでしたっ! その、ヒューさんとリリィちゃんとルーグさんはいずれ結婚されるので、そういうこともあるかもしれないと想定しておくべきだったというか、考えが至らないばかりに……っ!」


「いやいや! 誤解なんだ、レクティ。俺たちは別にやましいことは何もしていない」


 ……こともなかったような気が思い返すとしなくもないが、少なくともレクティが想像しているような出来事はなかった。


「そ、そうですよね」


「わかってくれたか」


「はいっ。子孫繁栄は貴族の義務ですもんね。やましいことじゃないです!」


 まったくわかってくれてねぇ……っ!


 ともかく何事もなかったことを懇切丁寧に伝えて、レクティはようやく理解してくれたのだった。


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