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第174話:ルーカス「本当の〈発火〉を見せてあげますよ、ヒューが」

「えっ!? おと……国王陛下が?」


 ルーグが目を丸くして驚く。


 あー……、なるほど。だから王国騎士団の馬車で堂々と連れて来られたんだな。国王陛下の指示なら俺たちとルーカス王子の関係を勘繰られることもない。黒竜復活の現場近くに居たルーカス王子が、陛下より先に俺たちと面会することに何ら不自然もないだろう。


「伯父上の残した手記が正しければ、黒竜を復活させ王国に仇なそうとした何者かが存在することになる。これはリース王国にとって由々しき事態だ。手記の信憑性を確かめるためにも、君たちから話を聞いておきたいと父上は仰っていた」


「俺たちの証言が手記の信憑性を高めるってことですか?」


「黒竜ドレフォンの咆哮を聞いた者は大勢居るけど、その姿を見たのは君たち二人だけだからね」


 俺もドレフォン子爵が残した手記は少しだけ読ませて貰った。ドレフォン子爵を唆した商人は間違いなく、レチェリーやマリシャスにも通じていた人物だ。


 一連の事件を首謀し、黒竜の復活すら成し遂げる。そんな危険人物を野放しにしていたら、王国にどんな災いが降りかかるかわかったものじゃない。手記の信憑性が確認でき次第、然るべき対応が必要になる。


 その気になれば〈洗脳〉スキルですぐに居場所を特定できるけど……。


 ルーカス王子は俺の考えを察したのか、静かに首を横に振る。相手が一個人で行動しているとは限らない上に、黒竜を復活させる術を持っているような奴だ。


 しかも、スキルはおそらく俺の〈洗脳〉に近しいものだろう。ミイラ取りがミイラになる可能性はゼロじゃない、か……。


「わかりました。けど……」


 実際の出来事をそのまま全部説明するってわけにはいかないよな……。俺たちが黒竜と遭遇して無事に生還できたのは〈洗脳〉スキルがあったからだ。そこをぼかして証言したら、どうしても信憑性は薄くなってしまうんじゃないか……?


「大丈夫、僕がフォローするから心配要らないよ」


 周囲にメリィやリューグ達が居るため具体的に懸念を口に出来なかったものの、ルーカス王子はそれを察してくれたようだ。いつもの柔和な笑みを浮かべている。どことなく胡散臭いけど、頼りになる人なのは間違いない。


 国王陛下から呼び出されてしまった以上、帰るわけにもいかないからな……。ここはルーカス殿下を信じるしかないだろう。


「殿下、そろそろ」


 廊下に出ていたロアンさんが扉を開けてルーカス王子に呼びかける。どうやら国王陛下の準備が整ったらしい。


「それじゃ、行こうか」


 ルーカス王子とルクレティアに扮したメリィの後に続き、俺とルーグは応接室の外へ出る。後ろからはロアンさんとアリッサさんの二人がついて来た。リューグとティーナは留守番のようだ。


 ルーカス王子とメリィの後ろを歩き続けると、やがて正面に豪奢な細工が施された両開きの扉が見えて来た。扉の両脇には鎧を着た衛兵が配置され、ルーカス王子を見た彼らは一糸乱れぬ動きで扉を開く。


 廊下から延びる赤い絨毯が部屋の中へと進み、その先の階段まで続いていた。その階段の上には王座があり、国王陛下がこちらを見下ろしながら鎮座している。


 絨毯の両脇には宰相のプライム侯爵を始めとする王国の重鎮たち、そしてルーカス王子と王位継承権を争う第二王子ブルート殿下の姿もあった。


 ……マジか、さすがにこの状況は予想外だ。てっきり、前回の夜会の時と同じく国王陛下とプライム侯爵の二人に個室で会うんだと思ってしまっていた。


 絨毯の脇に並ぶ重鎮たちからは、どことなく値踏みをするような視線を向けられている気がする。さ、さすがにこの状況は緊張するんだが……っ!?


 助けを求めて隣のルーグに視線を向けると、ルーグは俺にニコリと微笑んだ。「(ルー兄さまを信じて?)」と小さく呟く。こうなったらもう信じるしかないよなぁ……。


 ルーカス殿下とメリィは階段の二メートルほど手前まで進み、そこで静かに片膝をついて頭を垂れた。ルーグも同じような姿勢を取ったので、俺も慌ててそれに従う。


「父上、プノシス家嫡子ヒュー・プノシス並びにベクト家嫡子ルーグ・ベクトを連れて参りました」


「うむ。大儀であった、ルーカス。ルクレティアと共に控えよ」


「はっ」


 ルーカス王子とメリィは立ち上がって、絨毯の脇に居並ぶ重鎮たちの列へと加わる。


「面を上げよ、ヒュー・プノシス、ルーグ・ベクト」


 国王陛下の言葉に従って俺とルーグは顔を上げた。王座から俺たちを見下ろす国王陛下の表情は硬く引き締められている。病床で見た姿や、快復祝いの夜会で見た姿とは比べ物にならない威厳と迫力に気圧されそうだ。


「まどろっこしい挨拶は抜きにしよう。早速だが、そなたらがドレフォン大迷宮で遭遇したというドラゴンについて聞きたい。その姿形の特徴を述べよ」


 国王陛下がそう言ったと同時に、陛下に最も近い位置に並んでいたプライム侯爵が羊皮紙の巻物を取り出す。どうやら俺たちの証言と過去の記録を照らし合わせるらしい。


 ルーグと顔を見合わせ、俺が話すことにした。緊張しつつ、黒竜の特徴を列挙して行く。全長はおよそ三十メートルで、漆黒の鱗と黄色の瞳を持っていたなど……。


 洞窟内で遭遇してすぐ〈洗脳〉スキルで倒してしまったから、伝えられる情報はそれほど多くなかった。山のように大きかったとか、毒のブレスを吐いていたとか、大袈裟に話を盛るわけにもいかない。正直に、正確な情報だけを伝えよう。


 居並ぶ重鎮たちは「それだけ?」とどこか拍子抜けしたような表情を見せていた。中には胡乱気な瞳を俺たちへ向けている者も居る。まあ、疑われても仕方がないか……。


「どうだ、プライム侯爵」


「過去の記録とヒュー・プノシスの証言に相違はありませんな。しいて言えば記録よりもやや小さいようですが、過去の記録も目測でしょう」


「……ふむ。ならばビクティムの残した手記にある通り、黒竜ドレフォンが復活したと考えるべきか」


「お待ちくだされ、国王陛下。まさかこのような疑わしい証言を信用なさると?」


 国王陛下の呟きに異を唱えたのは、痩せ細った壮年の男性貴族だった。居並ぶ重鎮たちの中では比較的若く見えるその人物は、俺たちに見下すような視線を向けながら国王陛下の正面に歩み出る。


「かの大罪人ビクティムめが残した手記がもし仮に本当だとしたら、国家を揺るがす未曽有の危機であるのは確かでしょう。しかしこのような真偽不明の証言をもとに国家方針を決定するのはいかがなものか」


「ほう。ガディネス伯爵よ、汝はこの者らが嘘をついていると言うのだな? ならば、ドレフォン領で確認された竜の咆哮は何だったのだ?」


「大方、地鳴りか何かを勘違いしたのでしょう。もし仮に黒竜ドレフォンが復活し、それをこの者らが目撃したのだとしたら、不思議で仕方がありません。なぜこの者らは今ここに存在しているのです? 今頃、黒竜の腹の中でドロドロに溶けているはずではありませんか?」


 癇に障る言い方をするガディネス伯爵だが、その疑問はもっともだ。普通に考えて、ダンジョンの中で黒竜と遭遇とした俺とルーグが生きているのはあまりに不自然すぎる。


 どう説明するべきだ……? やっぱり〈洗脳〉スキルを隠すのは難しいんじゃ?


 ちらりとルーカス王子へ視線を向けると、彼は静かに手を挙げた。


「よろしいでしょうか、父上」


「発言を許可する。申してみよ、ルーカス」


「は。ガディネス伯爵の疑問に対する答えは明白です。簡単なことだよ、伯爵。ヒュー・プノシスは黒竜ドレフォンを討伐したんだ」


「……なんですと? どこの貴族の端くれとも知れないこの子供が?」


「彼のスキル〈発火ファイアキネシス〉は、これまで確認されていたスキルとは桁違いの威力を持っている。王立学園の入学試験では鉄すらも一瞬でドロドロに溶かしてしまったそうだ。彼はその〈発火〉によって黒竜ドレフォンを消し炭にしたのさ」


 滔々と語るルーカス王子に、ガディネス伯爵は疑惑の目を向ける。この場に居並ぶ重鎮たちも、ルーカス王子の言葉を信じている様子はない。


「ルーカスよ、ヒュー・プノシスが黒竜ドレフォンを討伐したと、それを示すに足る証拠はあるのだろうな?」


 国王陛下に問われたルーカス王子は、口元になんとも胡散臭い笑みを浮かべる。


「ええ。もちろんですよ、父上。ヒュー・プノシスの〈発火〉が黒竜ドレフォンを討伐するに足るものか、――実際に、確かめてみようじゃありませんか」


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