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第151話:ぷりんせす・プリンしばく

「ようこそお越しくださいました、ルーカス殿下」


 恭しく頭を下げたドレフォン子爵に、ルーカス王子は柔和な笑みを浮かべ自然体で応える。


「ご無沙汰しております、伯父上。本日はこのような歓待の場を設けてくださり感謝いたします」


「いいえ、臣下の務めを果たしたまでのこと。……それにしても、驚きました。急な来訪もそうですが、まさかルクレティア王女殿下もご一緒だったとは。長らく病に臥せっておられると聞いていたものですから」


 ドレフォン子爵は意外そうな表情でルクレティアに扮するメリィに視線を向けた。なるほど、対外的には病弱という設定なのか……。


 今のルクレティアと会った事がある人物は、俺が思っているよりずっと少ないのかもしれない。それならメリィでも十分に影武者として役割を果たせるだろう。


「ええ。幸い、このところ調子が良いようで。この機に母の墓参りが出来ればとこちらを訪ねた次第です」


「なるほど、母君の墓参りですか」


 ドレフォン子爵は合点がいった様子で頷く。どことなくホッとした様子に見えるのは俺の気のせいじゃないはずだ。


 そりゃ自分の領地に事前告知なしに王族が突然やって来たらビビるよなぁ……なんて考えていたら、ドレフォン子爵の表情が次第に曇っていく。どこか気まずそうな表情だ。


 どうかしたんだろうか……?


「その、実は少々問題がありまして」


「問題?」


「ええ。実は先月の長雨で墓地へ続く山道が崩れてしまったのです。修復を急いでおりますが、なにぶん我が領は慢性的な人手不足に悩まされておりまして……。通行できるまであと一週間はかかると現場から報告を受けております」


「ふむ、一週間か……」


 ルーカス王子は考え込むように右手の拳を口元へ持って行く。行きの船での話しぶりだと、今日か明日あたりに墓参りを済ませて王都へ戻るつもりをしていたはずだ。けどこれじゃ、スケジュールは大きく狂ってしまう。


 不在が長引くほど、王位継承権争いにも影響が出るだろう。一週間の滞在延長がどこまで影響するか俺には想像もつかないが、良い方向に作用しないのは間違いない。


「わかりました。こちらからも修復のための人員を出しましょう。せっかくここまで来たのに、墓参りもせず帰るわけにもいきません」


「恐れ入ります、殿下」


「さっそく食事をしながら打ち合わせるとしましょうか。……そうだ、ルクレティア。せっかくの機会だ。君は同学年の子たちとの交流を楽しんでくるといい」


 そう言ってルーカス王子は俺たちの方へ向かうよう、ルクレティアに扮するメリィの背中を優しく押す。


「いいんです?」


「ああ、行っておいで」


 促されたメリィはとてとてとこちらに駆け寄って来た。これ以上ドレフォン子爵の近くに置くと正体がバレると思ったんだろうか。それとも何か別の意図が? なんて考えていたら、ルーカス王子の口元がほころぶのが見えた。


 直後、駆け寄って来たメリィは俺の腕にギュッと抱き着く――っておい!?


「め……、ルクレティア殿下っ!?」


「あなたをエスコート役に任命するです!」


 エスコート役!?


 いきなり俺に抱き着いたルクレティア (に扮したメリィ)に周囲がざわつく。


『おのれ、リリィ嬢やレクティ嬢だけでは飽き足らず……っ!』

『いつの間にルクレティア王女殿下まで奴の毒牙に!』

『ルーグきゅんとのカップリングが最強!』


 俺へのヘイトが急速に高まってるんだが!?


「ひゅーうー? いつの間に()()()()()()()()殿()()とそんなに仲良くなったのかなぁー?」


 ぴきぴきと青筋を立てながらルーグがニッコリ微笑んで俺に尋ねる。いや、聞かれても俺だって知りたい! こんなに懐かれる憶えなんて…………そう言えばクッキーをあげたような……? 餌付けかよっ!


「むぅーっ!」


 ルーグは笑みを引っ込めてぷくぅーっと頬を膨らませると、メリィに対抗するように俺の空いた方の腕に抱き着いて来る。おかげで両腕が拘束されて身動きが取れなくなった。


 ルーグとルクレティア。まさか二人に同時に抱き着かれることがあるなんて。頭がバグってどうにかなりそうだ。


 近くに居たリリィとレクティに助けを求めて視線を向けると、


「レクティ、私たちは足に抱き着きつくべきかしら……?」


「前と後ろからサンドイッチするのも良いと思います……っ!」


 ダメだ。二人が動き出す前に自力で何とかしないと収拾がつかなくなる!


「る、ルクレティア殿下? その、公衆の面前で異性に抱き着くのははしたないですよ?」


 やんわりと注意をすると、メリィは「はぁーいです」と聞き分けよく俺の腕から離れる。


 一方、本物のルクレティアはというと、


「今は異性じゃないもん。同性だもんっ」


 なんて言って俺の腕をギュッと抱きしめたまま離れない。聞き分けのないお姫様だ。


 とりあえず片方の拘束は外れたので、メリィの望み通りエスコートに徹することにした。と言っても、バイキング形式で多種多様な料理が用意されたテーブルをメリィに付いて回って楽しむだけだ。


「こら、ちゃんとお野菜も食べなさいっ」


 プリンやクッキーばっかり食べるメリィにルーグが苦言を呈する。まるで母親みたいな物言いにメリィは「むぅー」と頬を膨らませながら取り皿にサラダを乗せていく。


 意外と聞き分けは良いなぁ、この子。あと、不満そうに頬を膨らませると本物のルクレティアそっくりだ。


 ……だから思わず想像してしまう。もしもルクレティアと家族になって女の子が生まれたら、こんなやり取りを毎日するんじゃないかって。案外、ルクレティアはしっかりしたお母さんになりそうだよなぁ。


「あーっ! またこっそりプリン食べようとして! もぅ、ヒューからも何か言ってあげてよーっ」


「うん、とりあえずまずはルーグが俺の腕から離れような?」


 少なくとも今はまだ、甘えん坊なお姫様だ。


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